11 不可思議な依頼
「実は最近、巷で宝石の不可解な買占めが行われているという噂が出ているんです」
クルスが深刻な眼差しで語り出した。
「買占め?」
「買占めと言っても、競売に出品された宝石全てというわけではなく、そのなかで最も高価格で落札された宝石のみが対象になってるらしいんです」
「どういう意味だ?」
タッキーは首を傾げた。
クルスは内緒話をするように顔を近づけてきた。
「競売の主催者側は、宝石を競り落とした人間について後で訊かれると決まって皆同じ証言をするんだそうです」
『どうして、あんな〝高価〟な宝石を、あんなにも〝安価〟で売ってしまったのかわからない。確かに相手を見て売ったはずなのに、素性はおろかその顔すら思い出せない――』
「ど、どういうことですか?」
サファイアはまるで怪談を聴いているかのような話に怯えを示した。
「すでに被害は数十件にも及んでいます。いずれも、その競売での一番の目玉商品一点のみが、開催中には信じられないほど高価格で取引が成立したはずなのに、実際宝石と引き換えに支払われた金銭は、雀の涙ほどの心許ない額だったと」
「競売では、宝石と代金は直接交換が成されるはずだ」
タッキーが断言していた。
「その通りです。主催者側は、一様に宝石を直接相手に渡し、金銭を直に受け取ったことは覚えているそうです。しかし、その瞬間には、なぜかそのあまりの落差が生じている金額に対し、なんの疑問も湧かなかったそうなんです」
――まるで催眠術にでも掛けられたかのように。
サファイアは無言で震えていた。
よく見れば、顔面も蒼白になっていた。
そんな彼女にタッキーは軽く腕で小突いた。
「いっ、痛い」
「阿呆小娘。こんな話にお前が怯えてどうする。心配するな。これは霊的な仕業ではない」
「えっ!?違うの?」
「当たり前だ。今こいつが言っただろう。まるで催眠術のようだったって」
タッキーの詞にサファイアは意外そうな顔をした。
「タッキー、催眠術とか信じてるの?」
「ふん。『催眠術』なんて名称で呼ぶから人間はそれに恐ろしい効果があるように錯覚するんだ。実際は、ちょっとした作話でも信じれば、誰でも掛かるもんだ」
「作話?」
サファイアは、あまり話の意図が掴めなかった。
「まぁ、作話っていうよりは、嘘も方便みたいな詞があるだろう?」
「うん」
「実際は、その薬には病気を治す作用なんかなくても、これを飲めば痛みが緩和する、なんて専門の医師に言われれば、それを信じて飲むことで本当にそれが効いて痛みがなくなる奴だっている」
タッキーは、わかりやすく例を挙げて説明した。
「あっ、なるほど」
「要は、信じやすい奴っていうのは、単に自分が信じたいから信じるんだ。それを、認めないために誰かに無理矢理された、って思い込むことに有効なのが、『催眠術』っていういかにも、強制力がありそうな詞にすり替えることだ」
タッキーの論説にサファイアは生徒のように傾聴し学んでいた。
「そうなんだ。確かに、一回そう思ってしまえば、催眠術なんて怖そうなことを言われても冷静になれそう……あっ、じゃあ、競売の人が嘘を吐いてるってこと?」
サファイアは、ようやくタッキーの言いたいことを理解した。




