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リンゴーン、リンゴーン。
十二時の鐘が鳴った。
「ようやく、私の夢が叶った」
王宮の北の塔。
螺旋階段の頂上の祭壇の間に彼はいた。
神への祈りを捧げる神聖な場所。
アメシストの宝石眼として、普通の人間より長き生を生きた。
それだけ、長く神の声を聴き続けた。
そして、声を神へ届けた。
今日に至るまでずっと――。
ガチャッ、ギィーー。
祭壇の間の巨大な扉が開かれた音を耳にしながらも、彼は振り向かなかった。
「大司教様でいらっしゃいますね」
「……いかにも」
大司教は、その高い女の声をかみ締めるように聴き、肯定した。
「大司教様、こんな夜分に失礼いたします。父はどちらに?」
「シリンフォード侯爵か?お前の父上なら――」
「いいえ。ウンシュルト公爵は犯人ではありません。……共犯ではあるけど。」
「……えっ」
ユーリは息を呑んでサファイアを見つめる。
サファイアはその神聖な場所で、推理を始めた。
「最初から今回の事件は矛盾から始まっていたんです」
「矛盾?」
「どうして犯人はダイヤモンドの涙を盗めたのかです」
「それは、三大公爵家の誰かが偽物とすり替えたからでは?」
「違います。もっと根本的な部分が間違ってるんです」
男たちには、サファイアの意図した意味が解らないという顔を一斉にした。
「ダイヤモンドの涙を盗んだ犯人は、どうして神からの報復を全く恐れなかったのでしょうか?」
「それは、王子に直接危害が加わるまでは神も中立な立場を取らざるを得ないと考えたからでじょう。大司教様の説得もあったんですから。それに……」
ユーリが当然のように答え、ちらっとヴィレを横目で見た。
ヴィレは静かに頷き、サファイアに目を向けた。
「私のためだったから、罰を与える必要はなかったのでしょう?」
「そう。皆そこへ視点を持って行かれてたんです」
「視点?」
「宝石眼に直接被害を被らせていないからこそ神は罰を与えることを留まっている。これがすでに間違いだったんです」
サファイアは一歩、また大司教に近づいた。
「どういうことですか?」
「ヴィレ。あなたはどうやってダイヤモンドの宝石眼として認められましたか?」
いきなり名指しされたヴィレは戸惑ったように回答した。
「私は……もちろん祭壇へダイヤモンドの涙をユヴェール神へ捧げ、祝福の光を賜り宝石眼として認められました」
ヴィレは、答える。
それに、静かにサファイアは問う。
「それでは、そのダイヤモンドの涙の持ち主はその後、誰になりますか?」
「えっ?それはもちろん神の物に……あ!」
他の二者も同時に気が付いた。
絡まっていた糸が皆、解けた。
「そうです。これは、宝石眼が傷つけられる以前の話。神の持ち物を盗んだ。その罪は万死に値する。本来、いくらアメシストの宝石眼が説得をしたところで無意味なはず。もしウンシュルト公爵が犯人なら、宝石を盗んだ時点でその身に天罰が下っています」
ユーリが大きく息を吐いた。
こんな簡単なことに今まで気づかなかったなんて。
でも、仕方ない。
だって、それに気づくことこそ、犯人が闇の中へ隠れてしまうから。
だって、いないだろう?
それを赦される存在なんて――。
「でも、じゃあ犯人は……」
「なぜ、誰にも天罰が下らないのか。その理由は一つしかない。それは、天罰を下す必要がないということです」
「天罰を下す必要がない……?」
「まさか!」
タッキーはその解に辿り着いたようだったが、その事実が信じられないようだった。
「天罰を下す必要がない。――自分の持ち物をどこへ移動させようが、その者の自由」
「「えっ」」
「犯人は、――神です」
祭壇の間に一筋の風が吹いた。
まるで神が肯定するかのように。




