第7話:限界オタクの求婚と、家出を企てる元婚約者
「……というわけでセリア! 明日にでも王宮のバルコニーから、我が婚約者の帰還と結婚を大々的に発表しよう!」
感動の正体判明(と限界オタクの号泣)から一夜明けた、執務室。
ルシアン殿下は執務机の上にバンッ!と両手をつき、鼻息を荒くしてとんでもないことを言い出した。
その顔は、昨日の羞恥心で転げ回っていた姿が嘘のように、キラキラと輝いている。
対する私は、冷めた手つきでトレイに乗せた紅茶をテーブルにセットしながら、ジト目で彼を見返した。
「……殿下。寝言は寝台で仰ってください」
「寝言ではない! 俺は本気だ! 今日からお前はトレイなど捨てて、再び俺の隣で最高に可愛い笑顔を振りまいてくれればそれでいい!」
「あのですね。私、今は『ソフィー』っていう平民の下働きなんですよ? どこの世界に、一介のメイドを突然王妃にするバカな王太子がいるんですか」
身分差。
それは、この国において絶対に越えられない壁だ。
「平民のメイドがいきなり王妃になんてなったら、貴族たちが猛反発して国が荒れます! 殿下の王太子としての立場も危うくなるんですよ!」
私が常識的な正論をぶつけると、殿下はフッと余裕の笑みを浮かべ、バサァッ!とマントを翻した。
「ふんっ。そんなもの、俺の権力と財力でどうとでもなる! 反発する貴族どもは全員、俺の『氷の暴君』オーラで黙らせてやる! なんなら今すぐこの国に『身分制度廃止』の布告を出してやろうか!?」
(限界オタクの愛が重すぎて、国家の存亡に関わってきた!!)
推し(私)と結婚するためなら、国の法律すら変えかねない勢いである。
有能な王太子が、愛ゆえに暴走する暴君へとクラスチェンジしようとしていた。
「絶対にダメです!! これ以上殿下のワガママに付き合って国を巻き込むなら……私、お城を出ていきますからね!」
「なっ!?」
「実家(公爵家)には戻れませんし、この体ならどこかの町で住み込みのウェイトレスでもしながら、平和に生きていけます! 殿下は大人しく、身分に合った新しい婚約者を見つけてください!」
腕を組んで(普通に不敬な行動である)殿下の前に仁王立ちして、私は宣言した。
「い、家出だと……!? 待てセリア! それだけはダメだ! 君のいない世界など、俺にはまたモノクロに逆戻りだ!」
「じゃあ、身分制度廃止とかバカなこと言わないでください!」
「わ、わかった! 法改正は我慢する! だが、お前を他の男の目に触れさせるなど絶対に嫌だ! せめて……せめて俺の『側室』として……!」
「メイドより身分がややこしくなってるじゃないですか!!」
「ならばどうすればいいのだ! 俺は君と結婚したいんだあああ!」
頭を抱えて執務机に突っ伏す王太子と、呆れ果ててモップを握り直す下働き侍女。
(……はぁ。本当に、前途多難すぎる)
そんな殿下が愛おしいと思えてしまう自分にモジモジしてしまう。
絶対に悟られてはいけない。すぐに結婚するために陛下に会いに行ってしまうだろう。
今はまだ、このままで。
想いが通じ合った(?)からといって、すんなりハッピーエンドとはいかないらしい。
限界オタクな王太子との、身分差を乗り越える(ための斜め上の)攻防戦は、終わることなく続いていくのでした。




