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逢ひ見ての〈一〉

夏祭り+打ち上げ花火です。

 盆を迎える頃から、急に俄雨が降ったり、涼しい風が吹いたりして、少し暑さが和らぐ日が数日続いている。気象情報アプリで夕方からの天気を確認した紗月は、姿見の前で再度自身の格好を入念にチェックした。


(久し振りに着たけど、大丈夫そう。)


 爽やかな空色の地に抜染の白い朝顔が大輪の花を咲かせている。白の半幅帯に、アクセントとして着けた涼しげなガラス製の帯留の中で、可愛らしい白兎が跳ねていた。アップスタイルにした髪に挿した(かんざし)には、黎明に浮かぶ月と雲を封じ込めたガラス玉が煌いている。

 先日実家に帰った際に桐の箪笥から引っ張り出してきた浴衣に小物を追加して、幾つものメッセージを身につけた紗月は、緊張と期待を胸に暑さの残る外の日差しの中へ一歩を踏み出した。



「やあ。これは…素敵なお召し物ですね。」


 マンションの玄関まで迎えに来てくれていた暁人は、降りてきた紗月に気付くなり眼を奪われて、一瞬(ほう)けていたものの、すぐに顔を綻ばせて紗月の装いを称賛した。対する暁人は、墨のように暗い色合いの(しゃ)の羽織と長着をお(つい)にしており、引き締まった印象を与えている。


「ありがとう…ございます。…先生も。」


 素敵です。か細くなった語尾が届いたかどうか。

 徐に、暁人は紗月の手を取った。


「今日は、人出が多いので、はぐれるといけませんから。」


 あたかも正当な理由であるかのように(うそぶ)く彼は、悪戯な笑みを浮かべて歩き出した。

 繋がれた指先は、周囲の暑さとは裏腹に少し冷んやりしていて心地好い。蝉の声が遠くに感じるほど、胸の鼓動が主張していた。


「河川敷まで、少し歩きます。夕方とはいえまだ暑いですから、少しでも気分が悪くなったらすぐに教えてくださいね。」


 慣れない格好をする紗月に気を遣ったのか、歩く速度も落としてくれているようだ。幸い街路樹が多く繁っており、木陰を渡りながら目的地まで行くことができた。


「わぁ、すごい。」


 河川敷に着くと、沢山の屋台が軒を連ねていた。地元の神社のお祭りとはまた違った趣きだが、どこか懐かしい気持ちが紗月の気分を高揚させる。


「どこから回りましょうか。」


「そうですね…それじゃあ、まずは…」


 楽しげに紗月の希望を訊いてくる和装の紳士の手を握り直し、紗月は目当ての屋台の方へ足を向けた。



「あー、楽しかった!それにしても先生、ボール掬い上手すぎですよ。」


 軽食を摂ったり、童心に帰って遊んだりと、一頻(ひとしき)り屋台を堪能したところで、暁人が休憩を提案してきた。その声掛けで紗月は人混みと暑さに少し疲れていたことを自覚し、一も二もなく頷いた。河川敷に程近い暁人の行きつけの茶寮に入り、軽めの夕食を摂っている。


「昔、ちょっとハマった時期があったので。楽しんでもらえて僕も嬉しいですよ。……ところで、神谷さん、僕に何か訊きたいことがあるんじゃないですか?」


「―っ、」


 唐突に振られた話題に、紗月は二の句を継げず固まった。いつ、切り出そうかと、タイミングを伺ってはいたが、向こうから水を向けられるとは思ってもみなかった。驚く紗月の顔を見て、暁人は面白そうにくつくつと喉を鳴らす。


「さっきからずっと、顔に書いてありました。」


 人好きのする笑みを浮かべ、こちらをじっと見つめる。小首を傾げて、紗月が話し始めるのを待っていた。


(今しかない、よね…)


 紗月は意を決して、辿り着いた答えを彼に突きつけようと口を開いた。

浴衣の柄の意味:朝顔…固い絆、愛情、あなたに結びつく

七夕の織姫と彦星が出会えたことを祝う花でもあるそうです。

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