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今日は初めて学園へ行く日だ。と言っても、編入はまだ先の事である。今日はその編入に向けての編入テストを受けるために、学園がお休みの日に二人は馬車に乗って向かった。
初めて見る異世界の学園というのは不思議とイーディスたちのお屋敷とあまり変わっている様子はなく、お屋敷をそのまま大きくして教室にしたような作りをしていた。
軽く教師に学園案内をしてもらいながら、そんな風に感心していたが隣にいるデリックはそうではない。女性恐怖症は改善したけれども、そもそも人見知りらしくミオにべったりくっついて、人が通るたびに目をまん丸にしながら視線で追っていた。
「ちょっと、歩きづらい」
「だ、だって、ミオ」
「だっても何もない、これから通う場所なんだから、慣れないと」
「そうだけどさっ」
プンスカと怒ってミオが言うと、デリックは困り顔で言い返して、前を歩いていた優しそうな先生が、くすくすと笑ってミオたちの方へと視線を向けた。
「お二人は仲が良いんですね。微笑ましいです」
「……別にそういうじゃありません」
「え、俺ら仲良しで同じ群れの一員じゃんか!」
「群れって何よ」
「家族って意味! みんな使ってるよ」
「皆??」
「デリック様の方は少し変わった子なんですね、大丈夫ですよ、特殊な魔法を持っている人は、常人にはわからない感性があるらしいですから……」
デリックの言葉に先生は少し驚いた様子だったがフォローを入れてくれる。それにミオは特殊……と考えてから、今朝イーディスが言っていたことを思い出した。
魔法学園にはミオの魔法はそのまま伝えてあるが、デリックの魔法は普通に貴族が持っている、火、土、水、風、の魔法以外の特殊な魔法なので入学までは伏せておくことになっていると聞いた。
実際に持っている人数は少ないが白魔法黒魔法なんてものもあるらしいので、隠す人も居なくはないからそれほど怪しまれたりはしないんだという事だ。
しかしそれにしても、特殊魔法を持っている人間が、変わり者というのは初めて聞いた。そのおかげでデリックの変な発言も教師に受け入れられているのは好都合だと考えてから、逆かと思った。
……特殊な魔法を持っているから、デリックってたまに変なことを言うのかも。
そう考えれば納得だ。それにしても、家族の事を群れなんて言うなんて普通はしないけれど。
「さてある程度、学園内も回り終えましたから、最後に編入テストを受けてもらいましょう」
「はい」
先生がそう話を、切り替えて中庭から校舎の方へと向かっていく、道すがらにも生徒がいて「ごきげんよう」と先生に挨拶をしていた。
全寮制と聞いていたのでおやすみの日でも学園内にいる生徒は沢山いるのだなとミオは思った。
編入テストは無事に終えることが出来て、ミオとデリックは校舎で案内をしてくれた先生と別れて馬車が待っている正門の方へと二人で向かって歩いていた。
格式高い魔法学園だからなのかわからなかったが、校舎から正門までの距離が長くて、ミオは朝からの学園案内と緊張で疲れてしまって昼の丁度いい陽気に眠ってしまっていた。
デリックもいまだにミオのそばから離れないが、多少は慣れた様子で人が通ってもミオと同じように眠たそうにふらふらと歩いていた。
するとふと隣を歩いていた三人組の生徒がすれ違う直前に、デリックの前に飛び出してぶつかった。
そう思った瞬間におおげさに後ろに飛びのくように転がって、ぱっと手の中からリスのような魔獣を出して「うわぁぁ!!」と情けなくも大きな声をあげた。
「っ」
驚いた様子で固まるデリックと、地面から起き上がろうと腕をついて男子生徒は怯えたような目をしてデリックを見た。
「今、この魔獣を使役して俺を攻撃させただろぉ!間一髪よけられたからいいものの、獣の女神の聖者の力を宿している人間が、魔法学園に入ろうとしているのは本当だったんだぁぁ!」
「私も見たわ! 目にもとまらぬ早業で、カーティス様の使い魔を使役して凶暴化させて、攻撃させたわ!! 恐ろしい!! 呪いの子が貴族だなんて世も末ですわ!」
「そうよそうよー! 危険だわ!!」
急にあほみたいに芝居がかった口調で叫ばれた言葉に、ミオはものすごく意味が分からないという顔をしていた。
……は? 何なのこの人たち、下手な演劇部?
そう思うぐらいには棒読みのセリフだった。
しかし叫び声と、騒ぎに周りにいる生徒たちが集まってくる。
そこにはミオとデリックよりも一つも二つも年上の生徒もいて、入学してもいない制服を着ていないミオたちが何か騒動を起こしたのだと厳しい目線を向けてやってきた。
「そこの白髪の男の子が獣の女神の聖者だわ!! 人間じゃないみたいな髪色だもの!」
……何言ってんのピンクの髪を頭からはやして……。
「そうだそうだ! この魔獣を凶暴化させて俺を襲ったんだ!! 俺の使い魔はあんなに良く懐いていたのに急に襲ってきたんだ!! 危険な獣の女神の聖者のうわさは事実だったんだぁ!!」
……今も友好そうに貴方の隣にいるじゃない。
男子生徒は立ち上がって、放りだしたリスのような魔獣を指さして言った。そのリスは状況が理解できていない様子で、小首をかしげるようにして男子生徒を見ている。
「そうよ!そうよー!危険だわー!」
……貴方はセリフがそれしか用意されていないの?
三人がそれぞれ、ツッコミ待ったなしの主張をしていて、ミオは心の中で順次に突っ込みながら、やっぱり馬鹿じゃないのと思いながらデリックを見た。
一応こんなでも周りに人が集まってきている。騒動になったら入学取り消しもあるかもしれない。それではせっかく沢山勉強したのも無駄になってしまう。
それは悲しいだろう。だからさっさと否定して人を散らせようとデリックに意思表示するつもりで彼を見た。
…………なんで?
しかし、急に多数から、非難の目線を向けられて、デリックは真っ青になってしまって、プルプルと震えていた。これでは彼らの言葉を肯定しているようなものだろう。
自分は獣の女神の聖者じゃないと言うなり、もっとこう色々説明できることがあるじゃないか。
こんなのミオですら軽くあしらえるのに、デリックは初めて会った時のように言葉を失ってしまって加害者が糾弾されて困っているみたいに視線を彷徨わせた。
「なんだ? あれが獣の女神の聖者?」
「人を襲ったって、本当なのか?」
「怖い、先生呼んできましょ」
周りに集まった人たちは、懐疑的な目線、恐怖の目線、様々な負の感情をデリックに向けていて、声が聞こえてくるたびにデリックが縮みあがってしまう。
そんなデリックと周囲の人間の反応を見て、声をあげていた三人は様子を伺いつつもその場を離れようとこっそり移動していた。
……ああもう! このままじゃ逃げられちゃう!
じれったい気持ちになってデリックをせかすように見つめるが、いよいよ泣き出しそうになったまま、視界の端にミオを捕らえてぱっとミオを見た。
その瞳に助けてと書いてあるようで、彼一人ではどうにもならないだろう。
もちろんミオは別にデリックの事を好きでもなんでもないし、別にどうでもいいし一緒に学園に通いたいとかは思っていないが、それでも、デリックはミオに優しくしてくれた。




