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【完結】契約結婚しましょうか!~元婚約者を見返すための幸せ同盟~  作者: ぽんぽこ狸


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 優しいイーディスにもあんなに怯えて泣いて、情けない様子だったのがいまでは、随分とぐいぐい来る。嫌だとか嫌いだとかは思わなかったが、こういう察しの悪い所はあまり好きじゃない。


 というかよく考えてみると、ぐいぐい来ると思うことはあれど、ぐいぐい行ってるところを見ることは無い。ミオにはこんなに興味津々という感じに聞いてくるのに、他の人には必要ならばという感じだ。


「……ちょっと辛くなっちゃっただけ、だから放っておいて、異世界の聖女が面白いんだか何だか知らないけど、魔力が嫌とか最初言ってたでしょ」

「それは、もう落ち着いてるし」

「だとしてもどっか行ってよ。もう!」

「何で?」


 怒って彼に言うのに彼は首をかしげて、ミオに聞いてくる。誰だって人に言えない事もあるし、ミオの場合はあまり弱っているところを他人に見られたくないという気持ちが強い。


 それをわざわざ説明するのは難しいし……説明なんてしたら、さらに悲しくなってしまいそうで言いたくない。


「……何ででも! っ、だって帰りたいだなんて言われたって貴方困るでしょ!」


 言いたくないと思っているのに、つい口から言葉がこぼれ出る。困らせたいわけじゃないんだ。


 だって皆、ミオの為に勉強を教えてくれたり、色々な選択肢を与えてくれたり街に連れて行ってくれたりする。

 

 ほかにもいろいろしてもらって、馴染んでいけるような気がした。学園だって楽しみにしてる自分もいる。


 それなのに苦しいとか辛いとか、忘れたくないなんて言うのはわがままだ。ミオの事をまったく鑑みてくれなくて、押し付けられているだけならばそんな文句も簡単に言えたけれど、今では誰にも言ってはいけない気がしてしまう。


 だから一人になりたい。


 きっと明日からはまた前向きになれる気がするから、今日だけは一人で愚痴を言い連ねていてもいいだろう。そう思っていたのにそれを邪魔するから言ってしまった。


「っ、前の世界の事とか、思い出しちゃって辛くなるとか、良くしてもらってるのに寂しいとか、そんなの言われたらデリックだって嫌でしょ!」


 勢いのまま続けて隣にいた彼を見た。急に怒って泣き出しそうになっているミオに、怯えている様子はない。


 ただ、真剣な瞳をこちらに向けていた。グレーの瞳の中でキラキラ光りがきらめいていて、この夜の中で唯一光っていて、うつくしかった。


「言い出したら止まらなくてぐちぐちしちゃうし、っぅ、思い出したらいつだって泣いちゃいそうだしっ、今だって泣けてきちゃうし!」

「……」

「困らせて面倒くさい子だって思われるのも嫌だしっ、明日になったら忘れていつも通りに過ごせるんだから放っといて!」


 きっぱりとそういって彼をぐっと押す。でも眉を困らせたままデリックは押したミオの手を取って、どうしようか迷い小首をかしげながらも、よしよしと手を摩ってミオを見つめたまま言う。


「……でも今、寂しくてつらいんじゃん。 そういう時、俺には兄さまがいてくれていつも寂しくなかった。でもあんたは一人ぼっちだから、放っておけない」

「!」

「泣かないで、ミオ」


 彼の言った言葉に、わざわざ一人ぼっちだなんてひどいこと言わなくてもいいじゃないかと思うし、そんな風に言われたって誰にも見せたくないのだって本心だ。


 しかし、優しく響く声とデリックの妙に神秘的な空気に気圧されて、上手く言い返せない。


 別に、デリックみたいな子供っぽい男の子にそばにいてもらったってなんとも思わないし、何なら無神経なことばかり言う彼を好きになんてなれないのに、手をゆっくりさすられてぽろぽろと涙が零れ落ちた。


「っ、……ぅ、うぅ~……」

「ごめん、ミオ」

「な、何で、謝んのよぉっ」

「俺が泣かせちゃったみたいだし……」

「違うから!……っ、もう!」

「怒んないでよ」

「うっさい!」


 彼が優しくて思わず泣いてしまっただけなのに、デリックはそれもよく理解していない様子で、ミオは怒りながら泣いた。デリックは静かにそばにいてさすさすと一生懸命にミオの手の甲を摩っていて、変な子だと思う。


 しかし少なくとも悪意はないし悪い子ではない。ただ少し察しがよくないだけだ。


 つい帰りたいと、口にしたらデリックは「寂しいんだけど、俺」と謎の発言をする。それに「だからなによ!」とやけくそになりながら泣き言を喚き散らして、疲れ切るころにはここに来た時よりもずっとスッキリとしていた。


 涙をぬぐって落ち着くとデリックは噴水の上からぴょんと降りて芝生に足をつける。それから、ミオの手を取って引き上げた。


「そろそろ、部屋に戻ろ」


 そういって歩き出すその後ろをミオもとことこと歩いてついていって、フワフワ揺れる白髪の後姿を眺めながら彼に聞いた。


「……ねぇ、デリック」

「ん?」

「貴方って、察しは悪いけど案外優しいところあるのね。女の子は怖いって思うばっかりで全然、好きになれないんだと思ってた」


 当たり前に手を引いて歩く彼に、前との違いを感じてそんな風に彼に聞く。


 きゅっと握られた手と強く引く足取りに迷いはなくて、あの時怖がっていた彼はもはや幻のように遠かった。


 ミオの言葉にデリックは、止まって振り向く、それからじっとミオを見ながら言った。


「……好きになれないっていうか……女の人って、人間じゃないと思ってた」


 当たり前のことをいうみたいにデリックはそう言った。ミオはそれにパチパチと瞳を瞬いて続きを聞いた。


「女の人って、笑ったり怒ったりするけど、兄さまみたいに傷ついたりする人間じゃないんだって思ってたから……だからずっと怖くて何かしたら急に怒りだして大変なことになるから、話しもできないって思ってた」

「……それが急に治ったの?」

「治ったていうか……ミオと喧嘩した時に泣いてたから……傷つけちゃったら泣いちゃうんだって、俺みたいに」

「……」

「だから優しくしたらいいのかなって思っただけ」


 簡潔にそういって、デリックははまた、くるりと身を翻して歩き始める。

それに何も言わずにミオはついていった。

 

 ……そんな風に思うぐらい女の子にまったく優しくされていないのに、同じなんだって思えたら、優しくしようって思えるんだ。


 ミオは、彼がそんな風に思うほど悲惨な家庭環境で暮らしていたという衝撃と、デリック自身の性格の良さ両方に驚いて、しばらくまじまじと彼を見つめてしまいぼんやりとしながら部屋に戻ったのだった。






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