第6話 王子と同じクラスなんて聞いてないんだが?⑤
外も暗くなっており、より室内が明るく感じた。眠気があるのかシャンデリアが眩しく感じて直視できない。目を細めると欠伸が一つ出た。
どうやら、私たちで演奏は最後のようだ。
早く終わらせて練習をしたかったなあ。
長い廊下の先にある置時計を見ると針が8を越そうとしていた。普段ならこの時間でも余裕で起きれるが、新しい環境ということもあり、体が普段より重いような気がする。
今日はこれが終わったら、帰るかなあ。使用時間も21時までだったし。
ついに、練習できずに今日が終わるのかーと項垂れる私とは対照的にヒロインは自分の順番を今か今かと指折りに数えていた。
「次、入ってきてくれる?」
「ついに、私の番ね。あなたには悪いけど、私がエリー⚪︎のためにを弾いたことを証明してくるわ」
飄々として、ヒロインは練習室に入ったが、その数秒後に入室前とは打って変わって表情で出てきた。
「なによ、練習が全然足りてないって、技術以前の問題とか腹立つんだけど。最後まで弾けてるじゅない。はー大丈夫よ、この後きっとストーリー通り進むのよ、私が他のモブたちと同じ扱いなわけないじゃない」
余裕がないのか、ヒロインは私に一瞥もせず通り過ぎていった。
一体全体、あの中で一体何があったんだ。
レント王子は、音楽に対しては厳しいお方だと聞いたことがある。もしかするとここの試験より厳しい物になるかもしれない。
「はあ、最後は君か。そういえば君の演奏も長く聞いてないね、いいよ弾いてくれる?」
レント王子の溜息には、呆れと称賛が入り混じっているように感じる。君もよくやるね、どうせ無駄だと思うけどしょうがないから聞いてやるよっみたいな。
人が変わったようなヒロインを見て心配したが、いつも通りのレント王子の態度を見て、逆に安心を感じた。
こちらとしても長居をするのは本望ではないので、すぐにピアノに向き合って座る。
(ゆっくり弾けば、まず実力がバレることはないわ)
紗代の言葉を思いだす。ゆっくり、そしてちょっと間違える。どこまでこの王子の前で誤魔化せるだろうか。
これも一種の戦いだなあ。
緊張を和らげるために制服のシャツの裾を上げる。一音目を出すためにゆっくり指を動かして……。
ピアノから一音が出るその時に、後ろから声が聞こえた。突然のことであったのと緊張を感じていたため、ピアノの椅子からずり落ちそうになってしまった。
「もう時間だから帰ろうぜ、こいつ、今まで耳が痛くなるほど聞いてるんだろ」
痺れを切らしたのか、ロベルト・ルイが当たり前のように練習室に入ってくる。
「ごめん、俺止めようとしたんだけど。でも他の令嬢ならまだしも元婚約者様だし。確かにルイの言い分もあるかも、俺も疲れたし」
眉を下げたラルゴ先輩がロベルト・ルイに続く。
友人とは仲が良いのか、はたまた私に時間を使いたくないのかは分からないが、レント王子は2人の意見を受け入れたことを表すように大きく息を吐いた。
「分かった。今日はここまでにしよう、フィーネ嬢も申し訳ないが友人が待てないようなので,また別の機会に聞かせてくれるかな」
「分かりましたわ」
そういえば、練習室は9時までだったなあと思い出す。ありがとう。ロベルト・ルイ。今後は、心の中でルイ様と呼ぶことにしよう。今ままで呼びにくいと思ってたんだよね。うんうん。
それにしても、許すまじきレント王子。私の貴重な練習時間を奪うなんて。大好物の食べ物を目の前で食べられたような気持ちだったなあ。
とりあえずここからさっさと逃げよう。
失礼しましたーと心の中で呟きながら、逃げるように無言で部屋を出る。
練習室でピアノを一度も弾けなかったのは、残念だったけど、今日1つ学べたことがある。この方々と関わると私のピアノ時間が減るということだ。なるべく近寄らないようにしよう。
そう考えていたからか、レント王子、ラルゴ先輩。ルイ様の3人にピアノを弾くのを邪魔される夢を見るフィーネであった。




