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090 過去編8 聖オルレリウス歴354X年四ノ月


 アレスはオークの背中から剣を抜くと俺に声をかけてくる。


「キール、大丈夫?」


「……ああ、助かったよ」


 俺は礼を言った後に倒れた文官の元にいき項垂れだ


「何でこんな事に……」


 俺はそう呟きながら文官の目を閉じてやると、周りに倒れてる者達も含めて祈りを捧げる。

 そんな俺の隣でアレスも祈りを捧げた後、俺に言ってきた。


「多分、勇者が現れるのを向こうも察知して阻止しに来たんだと思う……」


「そういうことか……。しかし、これは統率が取れすぎてるぞ。やはり魔王ってのが原因なのか?」


「……かもしれないね」


「そうなると狙われてる勇者候補が危険だぞ。今、どこにいるんだ?」


「宝具がある謁見の間だと思う。途中まで一緒に向かっていたからね。けど、僕は途中で死にかけの騎士に呼び止められて君が広間にいるって聞いたから来たんだ……」


「そうだったのか……。すまなかったな」


「友人を救いに行くのは当たり前だろう。それより僕達も謁見の間に行こう」


「ああ、そうだな」


 俺は頷くとアレスと共に謁見の間に向かって走りだすのだった。



◇◇◇◇



 あれから、俺達は魔物と遭遇しない様に慎重に謁見の間に向かっていたのだが、城内は魔物が暴れ回ったのか酷い有り様になっていた。

 俺はそんな光景を見て思わず溜め息を吐く。


「はあ、これだと王都の方はもっと酷いだろうな……。ふう、これは戦いが終わったら人手が足りなくなるだろうな。多分、俺やアレスは騎士団に回されるから覚悟しといた方がいいぞ」


 俺はそう言うとアレスは真顔で黙ってしまい、しばらくすると俺に頭を下げてきた。


「……ごめん。僕は騎士にはならない」


「ならないって……。まさか、お前……」


「うん、僕は冒険者になる」


「……」


「僕はここで騎士をやるより外で魔物と戦う冒険者になりたいんだ。そうすればこういう状況が次に起きても、もっと対応出来ると思うんだよ」


「……だが、冒険者って騎士と違って危険なことを毎日のようにするんだぞ。それに怪我をしやすいし……最悪、二度と戦えなくなる可能性もあるんだぞ。それもわかってるのか?」


「わかってる」


 アレスはそう言って真っ直ぐに俺を見てくる為、俺は深く溜め息を吐いた。


「……たく、わかったよ。アレスが冒険者をやれるように俺も手伝ってやる」


「えっ、本当?やった!ありがとうキール!」


「はあ、アレスの目が外側に向いてるのは薄々感じてたんだよなあ。これで、バロン兄様が王になる時は右腕はアレスじゃなくてラルニアに決定だな」


「ラルニアなら大丈夫だよ。きっと僕以上の騎士になれるはずだから」


「はいはい、じゃあ冒険者アレス殿、さっさと謁見の間に行って勇者誕生をこの目で見ますか」


 俺はそう言うとアレスは持っていた懐中時計を見て言ってくる。


「明日まで二十分もないけれど、いったい誰が勇者になるんだろうね?」


「バロン兄様とラルニア以外なら誰でも良いさ。俺は裏方で楽したいからな」


「……君ってこんな時でもブレないね」


「まあな、しかし勇者が誕生しても十才だぞ。見習い騎士より役に立つのか?」


「魔物がここまで大挙して来てるんだから、そうなんじゃないかな?」


「もしくは芽が育つ前に潰しにきたかだな……。しかし魔王ってのが現れただけでこんなに厄介になるのかよ……」


 俺は周り見ながら溜め息を吐くと、アレスは笑顔で俺の背中を軽く叩いてきた。


「キール、勇者さえ誕生すれば絶対なんとかなるよ!ほら、もうすぐ謁見の間だよ!」


「はあ、遠回りしたから長く感じたよ……」


 俺はそう思いながらもほっとする。

 そして無事に謁見の間に辿り着いた俺とアレスは笑顔で頷きあうと、勢いよく謁見の間の扉を開けた。

 だが、俺達は中の様子を見て固まってしまった。

 それは玉座の手前に黒焦げになった何かが大量に積み重なっており、その手前に鎧を着た紫の肌に額に長い角を生やした男が立っていたからだった。


 魔族⁉︎

 なんで魔族がここに⁉︎

 それにあれは……。


 俺が驚いて目の前の光景を見ていると、すぐに魔族の男が俺達に気づき高圧的な目で睨んできた。


「なんだ、まだゴミがいたのか。豚共は本当に役に立たないな……。だが、こうやってゴミ共を蹂躙するのは楽しいものだ。さすがは魔王様だな。くふふふふふふ」


 魔族の男はそう言うと醜悪な表情をしながら笑いだす。

 それを見たアレスは恐怖の表情を浮かべるが、俺は先ほどから見える黒焦げになったものに目がいってしまい違う恐怖感に襲われていた。


「……こ、ここにいた……人達を……どう……した?」


 俺は、言葉に詰まりながらも何とか聞くと、魔族の男は醜悪な笑みを浮かべながら言ってきた。


「くふふ、目の前に見えないのか?この黒いゴミの山が」


「……くっ」


 ……やっぱりか。


 入ってすぐに理解してしまった。

 なぜなら、黒く積み重なった遺体の周りに落ちている武器が俺の知っている人達が持っていたものだったからだ。

 そして駄目押しに目の前にいる魔族の男の言葉で父上、母上、レイア様、そしてバロン兄様も亡くなった事を認めるしかなかった。


「キール、国王様達は……」


「……わかってる」


 俺は感情が溢れ出しそうになるのを必死に抑える。

 何故ならあるものが俺には先程から見えているからだった。

 俺は魔族の男に気づかれないよう、玉座の後ろ側の台座の上に少しだけ浮いてる宝具を見た。


 まだ勇者は生まれる可能性があるはずだ。

 なら、正義感もあるし勇気もあり他者を思いやれるこいつで間違いないだろう。

 落ち着いてやれ。

 怒るな。

 泣くな。

 慌てるな。

 冷静になれ。


 俺は深く息を吐いた後に隣りにいるアレスを横目で見る。


 ……やる事は決まりだな。


「アレス、逃げるぞ!」


「えっ⁉︎」


 俺はアレスの腕を掴み走り出す。

 すると、まさか逃げるとは思わなかったのか魔族の男はすぐに反応できず、俺達は謁見の間から飛び出すことができた。


「ちっ、ゴミがこの上位魔族のゲラン様の手を煩わせやがって!」


 後ろの方でゲランという魔族の怒鳴り声が聞こえるが、俺達は気にせず廊下を走り続ける。

 なぜなら、逃げ切れる可能性がこの先にあるからだ。

 それは王族しか知らない隠し通路であり、そこから俺はアレスを逃がそうと思っていたのだ。


 アレスを逃したら俺が囮になればいい……。


 そう思いながら走っていると、後ろからゲランの魔法を唱える声が聞こえてきた。


「暗黒領域より我に黒き炎の力を与えたまえ……ダークファイア・ボム!」


 ゲランが持つ杖から黒い炎の塊がこっちに飛んできた。

 しかし黒い炎の塊は何故か俺達の上を通過していった。

 一瞬、助かったと思ったがすぐにそれは勘違いだという事を理解した。


ドオーーーンン‼︎


 黒い炎の塊は俺達の少し先の天井にあたり爆破した。


「うわっ!」


「危ないキール!」


「ゴミはゴミらしく潰れちまいな!」


 ゲランがそう言うと同時に天井に亀裂が起きていき瓦礫になって俺達に降り注いだのだった。


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