009 死霊術師と死霊術
どうやら、死霊術師達がレクタルの中で大掛かりな死霊術を使ったらしく、町中は今、死霊系の魔物で溢れているらしい。
更に、殺された住人達もゾンビやグール化して徘徊している為、逃げ遅れた住人達は建物から出られないとの事だ。
フォンズはすぐに部下を集めて避難民がグール化していないか調べる様、指示を出していた。
あの短時間でここまで情報を揃えてくるとは優秀な騎士団だな。
おかげでだいたいレクタルがどういう状況がわかったので、その場を離れようとするとフォンズに声をかけられた。
「キリク殿、レクタルへ行かれるのか?」
「ああ、少し様子を見てくる」
「では、これを」
フォンズは聖水を俺に投げてくる。
「レクタルは死霊系の魔物で溢れている。聖霊神イシュタリアの加護を」
「ありがとう」
俺はフォンズに頭を下げた。レクタルに唯一入れる大門は閉められていたが、横にある門兵用の小さい扉の方は開かれていた。
当然、そこが開かれているということは魔物が出てくるわけで、現在、その前で門兵とゾンビが戦っているところだった。
閉めたくても、逃げてくる連中の為に開けてるのだろうな。
俺は対死霊薬を剣に塗るとゾンビ達に突っ込んでいき次々と斬り伏せていく。
そして、あらかた周りを片付けるとさっさとレクタルに入ろうとしたが、門兵が慌てて止めてきた。
「おい、死ぬ気か!今、中にはゾンビやグールより強い魔物がいるんだぞ!」
「どんな奴だ?」
「リッチにドラゴンゾンビだ……」
門兵に言われ俺はつい舌打ちしてしまう。
何故ならリッチはプラチナ級以上、そしてドラゴンゾンビはミスリル級以上の実力がないと倒せないからだ。
「……何体いる?」
「目視でリッチは二十体、ドラゴンゾンビは六体はいたがおそらく、もっといるだろうな……」
「……厄介だな」
「だから、もう少しで白狼騎士団も来るし、ブランシュからミスリル級の冒険者も来るからそれまで待ってた方が良い」
「だが、待っていたら次々に死霊術師から魔物を出されてしまうだろう。お前達は扉から魔物が出ない様に見張っておけ」
俺はそう言うと後ろで騒ぐ門兵達を無視して門兵用の小さい扉を通り、足元に対死霊薬をまく。
これでしばらくこの扉にゾンビレベルの弱い魔物は近づけないだろう。
それにしても酷いな……。
俺は町の中を見渡し顔を顰める。
辺りは薄い靄がかかり、いたる所から腐敗臭が漂っていた。
これは出し惜しみはしてられないな。
俺は収納鞄を広げ、中から一振りの銀製の剣を取り出す。
銀は死霊系の魔物にとって弱点なのだが、この剣の柄頭には更に聖属性の力が込められた宝石が付いているのだ。
ただし、魔力を使用しないとこの宝石の効果は使えない。
したがって北の魔王の呪いで魔力感知はできるが、魔力を出す力を失っている俺は本来使えないわけだが、この世界では魔力が使えない者の為の代用品がある。
それが魔力の塊が結晶化した魔石である。
俺は早速、ボアから手に入れた魔力濃度が低い魔石を宝石に近づける。
すると魔石が砕けて宝石が輝きだした。
これでこの宝石に蓄えられた魔力が切れるまでこの剣は強化される。
後、念の為に刀身に対死霊薬を塗っていく。
これならいけるな。
俺は剣を持ち、先ずはギルドに向かって歩き出す。
だが、歩いてすぐにゾンビに遭遇してしまう。
しかし、剣に付与されている効果のおかげで、ゾンビは奇声を上げながら離れていった。
これなら、楽にギルドに行けるかと思ったのだが、リッチに出会った際はそうはいかなかった。
プラチナ級の敵には効かないのか……。
「カチカチカチッ」
そんなこと知るかとは言ってはいないだろうが、リッチは歯を鳴らしながら杖を振りかざし俺に向かって魔法の矢を飛ばしてくる。
「くそっ」
俺は急いで建物の影に隠れ攻撃をかわすと、武器を剣から弓に切り替え矢を放つ。
「ギギッーー!」
矢は見事にリッチの額を打ち抜き、リッチは倒れ込むと塵になって魔石を落とした。
どうやら対死霊薬が付いている矢は効くようだな。
俺はリッチが落とした魔石を拾うと再び剣に切り替えて先に進みだす。
それから、しばらく冒険者ギルドを目指して進んでいると、先の方に見たくない魔物が見えてしまった。
ドラゴンゾンビか……。
今はこのネイダール大陸にはいないと言われているドラゴンが、何かで死んだ後に死霊系の魔物として蘇ったのがドラゴンゾンビである。
ドラゴンゾンビはあろうことか冒険者ギルド前におり、冒険者ギルドを覆っている結界に激しく攻撃しているところだった。
あの攻撃を耐えるなんてここの結界はなかなかだな。
俺は冒険者ギルドの周りを囲っている結界を見る。
冒険者ギルドは、有事の際に魔石を大量に消費して、聖なる結界を張れる魔導具が置いてあるのだ。
だが、そんな結界もついにドラゴンゾンビの体当たりや瘴気のブレスに耐えられなくなったのか、細かいひびが入りはじめ、もう壊れそうな状態だった。
これはやるしかないか……。
俺は周りを見回し誰もいない事を確認すると魔石を胸に持っていく。
すると魔石が砕けて胸の辺りが光り出した。
これは俺の首にかけている一日に一回しか使えない、短期間だけ力を上げる魔導具、力のアミュレットが魔力を吸収して俺の力を上げ、更に身体も軽くしたのだ。
準備が整った為、ドラゴンゾンビに向かって走り出すと結界に攻撃するの夢中だったドラゴンゾンビも、何かを感じたのか攻撃を止め辺りを見回しはじめた。
しかし、俺はなんとか気づかれる前にドラゴンゾンビの間合いに入りこみ、首を斬り落とす事に成功した。
ふう、やはり一人の方が動きやすいな。
俺は腐肉の部分が溶け、骨だけになったドラゴンゾンビの骨と魔石を収納鞄に入れていく。
その作業をしてる間、俺は確かな手答えを感じていた。
間違いなく一人の方が動きやすかったのだ。
今の俺にはパーティーはやはり向いていないか……。
まあ、これで一人で冒険者をやっていくのは確定だな。
しかし、どうするかな……。
俺は、目の前に建つ冒険者ギルドを見て気分が滅入ってしまう。
まあ、ドラゴンゾンビを倒した事を伝えても信じないのは間違いないから、他の場所に移動したとでも言っておけばいいか。
俺はそう判断してギルドに入ろうとしたのだが、ある方角で魔力が高まっていくのを感じて立ち止まる。
この魔力……。
死霊術師が何かしているな。
俺は急いで魔力が高まっている方向に走り、町の中心の広場が見えてくると酷い光景が目に入ってきた。
……酷いな。
町の住人を殺して集めてきたか。
俺は広場中に積み重なる住人の死体を見て、眉間に皺を寄せ拳を握りしめる。
それから、一呼吸して気配を探りながら歩くと、人の気配がしたので物陰に隠れながら様子を探ると、死体の山を囲んで詠唱している黒いローブを着た死霊術師達を発見した。
やはりいたか……。
俺は死霊術師達を見て溜め息を吐く。
まだ馬鹿な事をやっているみたいだな。
俺は死霊術師の目的を思いだす。
死霊術師は死の研究をしており、いつか死を超越するのが目的なのだ。
不死になりたいなら、自分達だけでやれと言いたい……。
いや、たまにやるのか。
俺はこいつらの異常性を思いだす。
なんせ、最悪は自分さえ生贄にするからだ。
まあ、とにかくさっさと終わらせよう。
死霊術師の倒し方を熟知している俺は早速、フォンズからもらった聖水が入った小瓶を積み重なっている死体に向かって投げる。
すると、聖水がかかった死体から黒いモヤと、その下の地面に禍々しい力を発した魔法陣が現れた。
そして魔法陣から沢山の黒い手が出ると、死体や死霊術師を魔法陣の中に引きずり込んでいったのだった。
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