008 襲われる元勇者
翌日、早起きして村を出発する事を村長に伝えにいった。
「キリクさん本当に助かりました」
「いや、こちらこそ助かったよ」
「また、いつでもいらして下さい。村人一同で歓迎します」
村長と話している途中、村人達も俺に気づき笑顔で手を振ってくる。
「ここは良いところだな」
「もしキリクさんが良ければあの空き家をずっと使っても良いですよ」
「それは魅力的な言葉だが、俺はもう少し冒険者をやらせてもらうよ」
「わかりました。ただ、この村はいつでもキリクさんを歓迎しますよ」
「ああ、その言葉を心に留めておく」
俺はそう言うと村長に頭を下げて村の外に向かうが、その際にいくつかの敵意の混じった視線を感じた。
だが、俺は気づかないふりをして村を出ていくと、昨日絡んできた冒険者三人が一定の距離を保ちながら俺の後を尾行していた。
下手な尾行だな。
姿が丸見えだぞ……。
俺は溜息を吐きながら山道を下っていると、昨日俺が捻り上げた冒険者がやれると判断したのかナイフを抜いて俺に向かってきた。
「死ねえぇーー!」
冒険者はナイフを振りながら向かってきたので、俺は軽く横にずれて足を引っ掛けてやると、男は山道を転がっていき近くの岩に当たると首が変な方向に曲がり動かなくなった。
これで、残りの連中は引き返してくれるかと思いきや、すぐに二人目の冒険者が斧を振り回しながら俺に向かってきた。
「よくも仲間をやりやがったな!殺してやるーー!」
冒険者は叫びながら力任せに斧を振りおろしてきたので、俺はその攻撃を避け、鳩尾に拳を叩き込み意識を奪うと、驚愕した表情で俺を見ている冒険者の足元に投げてやった。
「……まだやる気か?」
俺は軽めに威圧して睨んでやると、冒険者は怯えた表情になり足をもつれさせながら村の方に走り出した。
「い、いやだ!殺さないでくれえぇーー!」
「おいおい、仲間を連れてけよ……」
呆れながら俺は気を失って倒れている冒険者をどうするか考えていると、逃げたはずの冒険者が俺の近くまで吹き飛んできた。
しかも冒険者の胸には槍が突き刺さっていて既に死んでいた。
これは……。
俺は村の方を見ると鉄獅子パーティーの軽鎧を着た男とルイがこちらに歩いて来るのが見えた。
「どうやら、俺達いらなかったみたいだな」
「やはり、噂通りね」
戦士の男は槍を回収した後、俺の方に来た。
「ランドに助けに行くよう言われて来た。俺は槍術師のケンだ」
「そうか、わざわざすまなかった」
「こいつらグール三体は、俺達が処分しとくから安心してくれ」
「グールね……。ちなみに二体じゃないのか?」
俺が聞くと、ケンは俺の近くで倒れている男の首筋に槍を突き立てる。
「これで三体だ。ちなみにこいつら死んで当然の連中なんだ」
そう言うとケンは鞄から沢山の依頼書を出しそこから三枚の紙を俺に見せてきたのだが、そこには倒した三人の顔が描かれていた。
「なるほど、こいつら重犯罪者だったのか」
「ああ、こいつら冒険者をやりながら空き巣や人身売買してるクズ連中だったんだ。だから本当はレクタルに入ったところで俺達がやる予定でな」
「そうだったのか。なら邪魔して悪かったな」
「いや、今レクタルで起きてる事を考えると、こいつらをやってる余裕がなかったかもしれないからな。おかげで助かったぜ。ちなみに報酬はどうする?」
「今回は辞退する。それより、レクタルで何が起きてるのか情報があれば教えてくれないか」
「正直言えばあまりわかってない。なんせ、依頼達成後で皆んな体力が残っていない状態の時に、突然、大量のグールに襲われたからな。俺達は逃げるので精一杯で何でレクタルにグールが大量に現れたのかなんて調べてる余裕はなかったんだよ」
「そうだったのか。しかし、大量のグールか……」
「ああ、おそらく町全体で何かが起きてんじゃないかな」
「わかった、では俺も気をつけよう。それじゃあ、行かせてもらう」
そう言い、その場を去ろうとするとルイが慌てて俺に声をかけてきた。
「キリク、ちょっといい!」
「……なんだ?」
「ねえ、キリク。私達と一緒にレクタルの人達を助けに行かない?」
「いや、遠慮する……」
「どうしてよ?あなたが噂通りの人なら助けに行くと思ったのに……。やっぱり人助けしてたってのはただの噂だったの?」
俺はルイに聞かれてパーティーが休みの日に、簡単な依頼をこなしてた時に助けた冒険者達の顔を思い浮かべた。
もしかして、あいつらが言ったのか……。
まあ、ルイに本当の事を言ってもいいが、そうなるとこれからの俺の行動に支障が出る。
だから、俺の答えは……。
「……別人だろ」
すると、ルイはがっかりした顔になりケンと一緒に村へと戻っていった。
悪いな。
今の俺は一人の方が動きやすいんだ。
俺はルイが去っていった方角を見て、心の中で謝り、それから山道を下っていったのだが、舗装された道に出ると脇の開けた場所には沢山の避難民が座り込んでいた。
ケンの言っていた通り町全体で何かあったみたいだな。
まあ、冒険者や兵士辺りじゃないとまともな情報は聞けそうにないが、とりあえず適当に誰かに話を聞いてみるか。
そう思い、近くで座り込んでる人に声をかけようとしたら、ブランシュの町がある方面から沢山の馬車がこっちに向かってやって来るのが見えた。
どうやら野営地を作るらしく、馬車が止まった瞬間、兵士が次々と降りてテントを組み立てていき避難民を誘導し始めた。
更に、同じ方面から馬に乗った胸のプレートに白い狼が装飾された騎士団がやってくる。
王都レオスハルト所属の白狼騎士団か。
ブランシュ経由で来たってところか。
騎士団は俺の近くで止まると、先頭にいたちょび髭の男が馬から降りて俺の方に歩いてくる。
「貴公、すまぬがレクタルの状況を説明できるか?私は白狼騎士団副団長のフォンズという」
「俺はキリクだ。冒険者だから言葉使いに関しては勘弁してくれ。どうやら、町の中に大量のグールが湧いてるらしい」
「……なるほど」
フォンズは部下を見ると、全員馬から降りて周りの避難民の方に向かっていった。
「良い動きだな」
「騎士団長が厳し……いや、なんでもない。ところで貴公は冒険者と言っていたな。サリエラという名の冒険者に心当たりあるか?」
「ああ」
「まことか⁉︎すまないがサリエラ殿と最近どこでお会いしたか教えてほしい」
「二日前にレクタルの冒険者ギルドで会ったぞ」
「そうか、では、まだレクタルの中にいるという事か……」
フォンズはそう呟くと渋い表情をする。
なるほど、サリエラは王都レオスハルトから依頼を受けていたのか。
「副団長!」
フォンズがレクタルの方を向きながら何か考え事をしていると、部下の一人が駆け寄りフォンズに耳打ちしはじめた。
そんな部下の声だが、常人なら聞こえないだろうが俺の耳にはしっかりと聞こえていたのだった。
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