086 過去編4 聖オルレリウス歴354X年四ノ月
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聖オルレリウス歴354X年四ノ月
王都オルフェリアから少し離れた森の中にて。
「アレス、そっちに逃げたぞ!」
「よし、とどめだ‼︎」
アレスの振るった木剣が、ゴブリンの頭にめり込みゴブリンは悲鳴すらあげられずに倒れた。
「これで、今日、アレスが狩ったゴブリンは五体か。あれから更に強くなったな」
「キールだって一人で倒せる様になったでしょう」
「俺はやっと一体だよ……。しかし兵士達が巡回してるのにずいぶん魔物が近くまで来てるな……」
「父さんの報告書を盗み見したけど、魔物は強くないんだけど数が多くて大変みたいだね……」
「大変か……騎士団長が思っているなら結構やばくないか……」
「うん……。いったいこの国はこれからどうなるんだろうね……」
「それなんだけど、今、父上達が冒険者を雇うか協議してるみたいなんだ。なんせ、この国には冒険者はいないからな」
「えっ、冒険者も来るかもしれないの⁉︎それがもし実現したら凄いね‼︎」
「それにもしかしたら中央にいる精鋭もな!」
「ああ、ライラ様の……って、まずいよ!そろそろ戻った方がいいよ!」
「あ、やばい……。すっかり忘れてた……」
俺とアレスは頷き合うと全力で城に戻り、身体を洗うと急いでライラ姉様の元に向かった。
部屋にはライラ姉様の他にライラ姉様とバロン兄様の実の母であるレイア第一王妃と、俺とアリシアの母であるフィリア第二王妃がいて、三人とも呆れた様子で俺達を見てきた。
そんな三人に罰が悪そうな態度をとっているとライラ姉様が俺達に近づいてくる。
「二人共、遅かったけど、また外で危ない遊びをしていたのかしら?」
「はは、何を言うのですか姉上。俺とアレスは一心不乱に木剣を振っていただけですよ。なあ、アレス」
「は、はい、そうです」
俺は若干、挙動不審な動きをしながら説明すると、ライラ姉様は大きく溜め息を吐く。
しかし、すぐに俺達を順番に抱きしめてきた。
「お願いだから二人共、私を心配させないでね。私はもうここに頻繁に帰ってくる事はできないのだから」
そう言うと、ライラ姉様は薄らと目に涙を溜めながら俺達を見つめてくる。
今日、ライラ姉様は幼少期より婚約している、中央のローグ王国の第一王子に嫁ぎに行くのだ。
その為、俺達はお見送りをする事になっていたので、安全に旅立てるようゴブリンを倒してたが、いつの間にか倒すことに夢中になってしまっていたのだ。
「姉上……ライラ姉様、中央に本当に嫁がれに行くのですね。寂しくなります」
「私もよ。お母様、フィリア様、後の事は宜しくお願いしますわ」
ライラ姉様は、近くで微笑んでいるレイア第一王妃とフィリア第二王妃に頭を下げる。
「ライラ、あなたが握っていた手綱は私達が握るから任せなさい。男連中はしっかり私とフィリアが押さえとくわ」
「ええ、そうね、レイア」
「ふふ、お二人共、お願いしますわね。キール、良かったわね。あら、顔が青いわよ。どうしたのかしら?」
「……大丈夫です」
ふう、俺はどうやらすぐに死んでしまうだろうな……。
隣りのアレスを見るとニヤニヤ俺を見ていたので、ライラ姉様達にバレない様、アレスの脇腹に肘を入れておく。
「うぐっ!」
「ど、どうしたのアレス⁉︎」
突然、脇を押さえ頭を垂れたアレスを心配そうにライラ姉様は見るが、俺はそれをやんわりと手で制す。
「姉上、おそらくアレスはとても悲しんでいるのでしょう。男の泣き顔を見ないでやって下さい」
「まあ、そんなに悲しんでくれるなんてありがとうね、アレス」
「……い、いえ」
後ろからアレスが俺を睨んでくる気がしたが、俺は気付かないふりをしてポケットから小箱を出しライラ姉様に渡す。
「何かしらキール?」
「開けてみて下さいよ」
ライラ姉様は小箱を開けて感嘆の声をあげる。
中に入っていたのは俺が作った装飾が細かい銀製の花のブローチである。
「綺麗なブローチね!キールが作ったんでしょ?」
「ええ、心を込めましたので、向こうでたまに付けて下さいね」
「これなら、どんなドレスにも合いそうよ。ありがとう、キール」
「いいえ」
「さあ、ライラ、最後の二人が挨拶を終わらせたみたいだからそろそろ行きましょう。外で皆んな待っているわ」
「ええ、わかりましたわ」
それから、俺達は城の外に出たのだが、外では父上やバロン兄様、そしてアリシアや城の者達が総出でライラ姉様を待っていた。
これはエルフが沢山住んでいるオルフェリア王国が、エルフの流儀を取り入れオルフェリア王国流にした特別な人を見送りするやり方であるのだ。
「キール兄様!」
アリシアは俺に気づくといつもより強く飛び込んでくる。
「アリシア、今日は特に強い飛び込みだな……」
「だって、しばらくはこうやってぎゅーってできないんだもん!」
「一週間アリシアと離れるのか。初めてだな」
今回、アリシアは勉強も兼ねて俺達より早めにライラ姉様に付いて中央に行くことになっているのだ。
「キール兄様とそんなに離れるなんて……私、中央になんて行きたくないわ」
そう言うとアリシアは涙目になってしまった為、俺はハンカチで涙を拭きながら父上とバロン兄様を見ると、お前が何とかしろと目で訴えてきた。
全く、脳筋連中はこういう時何もできないんだよな……。
仕方ない、一人で頑張るか……。
俺はアリシアの頭を撫でながら優しく話しかける。
「アリシア、俺達が一週間後に中央に行くまで姉上の側にいて支えてあげなきゃ」
「うん、そうなんだけど……。キール兄様は私がいないと危ないから心配で……」
「俺の心配……」
俺がアリシアにそう見られていたのかとショックを受けていると、周りは笑いを押さえるのに必死になり顔を背ける。
これはみんなの部屋に虫を入れる刑だな……。
俺がいつ頃いたずらしてやろうか考えていると、アレスがアリシアに優しく声をかけてきた。
「大丈夫ですよ、アリシア王女。僕がキール第二王子になにかあれば必ず守りますから」
「……本当?」
「ええ、約束します!」
そう言うとアレスは騎士のポーズをとり俺にウィンクする。
「ほら、アリシア、俺には将来有望な騎士殿が側にいるから大丈夫だよ」
「うん!アレス、絶対キール兄様を守ってね!」
「姫君の頼みとあれば!」
「良かった……。でも、私、向こうでちゃんと姉様を守るだけじゃなくてきちんとしてられるかな……」
なるほど。
どうやらアリシアは俺と離れるのが嫌なだけでなく、初めていく中央に不安を感じている様だな……。
ふ、ここでこいつの出番だな。
「よし、なら俺がいつも首に下げながら力を込めているネックレスを我が妹に授けよう」
俺は首に下げていた銀で作ったどんぐりのネックレスをアリシアの首にかける。
「わあああーー‼︎可愛い‼︎」
「あら、アリシア良かったわねえ」
「ライラ姉様、見てえ!キール兄様にもらったの!これ、キール兄様の力がこもってるのよ!」
「ふふ、羨ましいわね。しかし、これってキールがするにはとても可愛いネックレスね」
「俺は可愛いものが好きなんですよ」
「そういう事にしといてあげるわ。ありがとうキール」
「いえいえ」
俺があげたネックレスが気に入ったらしく、馬車の中に笑顔で入っていくアリシアを微笑んで見た後、ライラ姉様も最後に目に焼き付けようと周りをゆっくりと見てから馬車に入っていった。
それから馬車は動き始め、俺達が手を振ると、二人も馬車から顔と手を出し、お互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けるのだった。
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