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12 逮捕

 そして、山の中のどこに死体が埋まっているのか分からないまま、死体の大捜索が始まった。根来警部は毘沙門天のように鋭い表情になっていた。いつになく本気である。

 しかし、一向に死体は見つからず、埒が明かないと思えてきたところに粉河から連絡が入ったのである。

「根来さん。今、山道の途中にいるのですが、たった今、古賀らしき人物がそっちに向かっています!」

 根来は思わず耳を疑った。

「古賀が? よし分かった。あいつめ、何か忘れものらしいぞ。絶対にあいつに見つかるなよ!」

 根来は急いで岩の裏に姿を隠した。

 しかし、その数分後、粉河から連絡が入った。

「すみません。古賀を見失いました。山道に車を走らせていたところまで尾行していたのですが、やつは途中で車を降りて、山の中に入ってゆきました」

「なに? 見失っただと。バカ野郎!」

 根来は困惑したが、古賀がこのあたりに来ることは間違いない。根来は目を皿にして森の中の古賀を探したのである。

 他の刑事も姿を隠しながら古賀を探していた。しかし、古賀がどこから現れるか分からない上に、この人数で待っていてはすぐにばれてしまう。

 その時、根来ははっとした。眼下の谷底に古賀らしき人影が歩いているではないか。

 そのまま、森の奥へと歩いていこうとするではないか。

「ここからではとても間に合いませんね。見失ってしまいます……」

 そんなことを言う隣の若い刑事を、根来は一睨みすると、

「馬鹿もん! 尾行は根性だ!」

 と叫ぶや否や、谷底に一歩踏み出し、その急斜面を転げ落ちるように走り降りて行ったのである……。



 その時、古賀はスコップを手に持っていた。そして辺りを気にしながら、崖に囲まれた静かなところにたどり着いた。

(吉川の首を絞めた縄だけは回収しておこう。あれには指紋が付いているからな……)

 古賀は足元の土にスコップを当てた。しばらくその土を掘ってゆく。すると土の中から人間の手のようなものが出てきた。

(もうすぐだ……)

 まさに、その時……。

「覚悟しろぉ!」

 突然、背後から鬼が叫んでいるような凄まじい怒号が聞こえた。古賀が振り返ると、根来警部が飛びかかってきていた。古賀は驚きのあまり、滅茶苦茶にスコップを振り回したが、根来は身を屈めてそれを避けて、一瞬の内に、虎が獲物を捕らえる如く、古賀の体の内側に飛び込んできた。

「ウワッ!」

 根来警部は、古賀の腕を捻って、瞬く間に関節技を決めると、すかさず古賀の足を蹴り飛ばして空中に舞い上げ、雷のような勢いで、背負い投げした。古賀は勢い良く地面に打ち付けられた。古賀はそのまま寝技に持ち込まれ、根来に力づくで組み伏せられてしまった。

 この投げ技は、根来警部が柔道と合気道を習っていた時に勝手につくり出したもので、姿三四郎の技である山嵐に合気道の関節技を組み合わせた大技である。根来投げというものらしい。

 このようにして、古賀は逮捕されたのである。土に埋められていた吉川の死体の首には古賀の指紋が付着した縄が絡まっていた……。



 その後の警察の調べによって、古賀が高校時代に想いを寄せていた太田和美という女子生徒の存在が浮上してきた。

 太田和美は、吉川にひどい振られ方をした直後に、自動車事故によって死んでしまったらしい。吉川の行為と太田和美の死には、これといった因果関係はなかったのであるが、古賀にとっては吉川もまた轢き殺した運転手と同罪で、許しがたいものに思えたのであった。

 この時の和美をめぐるトラブルには、小野寺荘一も一役買っていた。荘一もまた、この太田和美に思いを寄せていたらしく、吉川に悪い噂を流すなどして、二人を意図的に破局に持ちこんだのだという。まさに嫉妬という他ない。古賀にとってはこの荘一の行為も太田和美の死の遠因に他ならないと考えられていた。

 また吉川もまた荘一のことを恨んでいた。吉川は荘一に騙されて、太田和美を振ってしまったのだから、荘一は許しがたい存在だった。このようにして古賀と吉川は荘一を共に恨んでいて、同時に、古賀は吉川を恨んでいるという状況が生まれたのであった。


            *


 羽黒探偵事務所に電話がかかってきた。根来警部からであった。

「そうですか。それではその太田和美という女性をめぐる三角関係だったのですね」

「四角関係だよ。高校時代から十年以上経っているのに、今更とは思うけどな。あんまりにも悲劇的だったから、男の心に残りすぎたんだろう」

「その後、どうなったんですか?」

「これは事件とは関係のない話なんだが……。よく分からん。友子さんと卓二さんが今度、結婚するらしい。なんでか分からないけど、俺、結婚式に呼ばれてるんだよ」

「そりゃまたどうして……」

「あの事件のおかげで二人は結ばれたらしい。だから事件を担当した俺のことも懐かしいらしい。よく分からん。つまりだな。なんというかな。友子さんの頭の中ではサスペンス恋愛映画みたいになってんだよ」

「そうですか。おめでとうございます」

「結婚すんのは俺じゃねえぞ」

 根来はそう言ったから、ふとあることを思い出した。そして、言おうかどうしようか迷っているらしかったが、しばらくしてから、

「羽黒。お前は結婚とかは考えてねえのか」

「なんですって、そりゃあ、ご縁がありましたら」

「俺の娘……」

「えっ!」

「なんでもねえ。この話は忘れろ」

 その途端、ガチャリと音を立てて電話が切れた。祐介はしばし呆気に取られて受話器を眺めていた……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  面白かったです!  私は初めてこのシリーズを読んだのですが、トリックがしっかりしていて、最後には驚かされました。  なろうの中で一番しっかりしたミステリー作品だと思いました。 [気になる…
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