第18話 罠
一章スタート!!
英雄譚。それは、誰もが心躍る英雄の活躍を描いた物語。
この物語は、そんな強くてカッコいい英雄に憧れ、辛く残酷な世界で、もがき、苦しみ、それでも前を向きひたすら努力を重ね、そしてついに夢を叶える。
――そんな少年の物語だ――
さて、今回語るお話は……そうだね、ある『賊』の話にしようか。
え?最初の英雄譚のくだりは何か?皆も俺の事を知ってるでしょ?
もちろん嘘だよ!げへへへへー。
ごめんなさい。悪ふざけが過ぎました。
反省はしています。でも、後悔はありません。
話を戻しますね。
まずは、皆に会えない間や前回の最後に端折ったとことか、俺が何をしてたのかを話すのが筋だよね!
ちょいと時間は巻き戻りますよ?俺の日常っていうか何だ?まぁ、修業の様子だったり気になるでしょ?気になるよね!気にして!
ではでは、飯食ったかい?トイレ行ったかい?ズボンは下ろしたかい?もう、みんな全裸待機してるよね?
じゃあ、はじまり〜はじまり〜。
俺は、今マスターさんに魔法を習っている。なんの魔法かって?そんなの勿論、あの魔法だ。むしろ、他に何を習えっていうんだ?
「え〜っと、詠唱は確か『草花に恵みを、暖かで穏やかな、春の訪れを知らせる風よ』吹け≪春風≫ですよね?」
「涼君……よく一度聞いただけで覚えていたな?」
「勿論じゃないですか!隠密性に優れ、相手が魔法にかかった事を悟らせず、対象だけを狙い撃つ、あんな素晴らしい魔法……きっとこの異世界でもそうそうないですよ?」
「……そ、そうか」
俺とマスターさんはランチタイムが終わった安らぎ亭で、マスターさんが淹れたコーヒー片手に会話中だ。
今では、俺とマスターさんは冗談を言い合うぐらい仲良くなった。俺にとってマスターさんは、年の離れた友人や兄貴みたいな存在となった。
ああ、それでね「魔法ってどう使うの?」って会話から今に至る訳なのですが。なんかね、魔法の使い方が魔道具を使う感覚に似ていることが判明したんですよ。
魔道具を使うように必要な量だけ魔力を『魔核』から取り出して、そして詠唱を行い、使いたい魔法をイメージして使う。
詠唱部分の『呪文』が厄介だけど、魔道具が使えるようになった俺には、思っていたより簡単だと感じた訳で「じゃあ、さっそく試してみよう」と相成りました。
「それで、使う魔力ってどうやって分かるんですか?」
「ああ、それはもう感覚だな。この世界はゲームじゃねぇから、必要なMPなんて分からんからな」
「そうですか……」
「まぁ、だがあの魔法はそこまで魔力は必要としないから、今の涼君でも使えると思う――」
「本当ですか!?」
つい俺としたことが、熱くなって食い気味で返事をしてしまった。
あっ、ちなみに熱くなったのは下の方じゃないよ?勿論、ここっ!ハートだよ!わくわくするだろ?するよな?いいや、絶対するって!そうだ!気合いだ!気合いだ!気合いだぁぁぁあああああ!!!!!!
おっと、すまない。また、心が暴走してしまったよ。
「あ、ああ。そこまで気になるんだったら、魔法使ってみるか?」
「否応がなし!」
「……おう」
意味がわからなかったね?言葉の意味もあってないがノリで伝わってくれたんだろう。
ノリってほんと大事だよね。
さて、俺とマスターさんは休憩中をいい事に街に繰り出している。もちろん、我らが魔王様ことおやっさんには内緒だ。二人で同時に抜け出したら、後が怖い……だが、これは修業であり、なにより俺たちにはやらねばならんことがあるのだ!
ああ、何故街かって?聞かなくても分かるだろ?ターゲットを探しにだよ。あの魔法は誰かの、その女性の真実の姿を見たいと思わなければ、イメージしなければ成功しない、大変難しい魔法だ。
そして、魔法を使ったことがバレれば、自分の命が無くなる訳ではないが、社会的な『死』が待っている。そう、憲兵やユリウスのお世話にならなければならない、とても危険な魔法でもある。だがそれを考えても、リスクは高いがリターンも大きい素晴らしい魔法なのだ。
世間には公表できない魔法、ある意味、禁術の一種だろう。決して誇張ではないはずだ。お金で買えない価値がある、そうつまりプライスレスだ。
となると、これはターゲットを慎重に選ばなければならない。
ただ、皆も勘違いしないでほしい。これは決してやましい行為ではなく、俺の魔法の訓練であり、学術的好奇心に基づく行為なのだ。マスターさんも初めは、俺のテンションに押されて連れ出されただけだったが、今ではかなり乗り気になっているしね。
「どうしましょうか?」
「そうだな……あまり人通りが多いと魔法が対象に辿り着かなかったり、上手く魔法が作用しない恐れがある。かといって、少な過ぎるとその状況に違和感を覚えたり、魔法だとバレる可能性や、最悪使った者が特定され……そして、牢屋行きだ」
「やはりそうですよね。この世界は私たちには生きづらいですね」
「ああ、だがそう考えると……見た目も可愛く、ちょっと抜けていて魔法に気づかない。そして、羞恥に染まるあの表情と仕草をしてくれる、エリーは逸材だったとしか言いようがないな」
「ええ、まさに彼女は素晴らしい人材でしたね。彼女の様な方に出会えたことを神に感謝したいですね」
「ああ。だが、残念なことにこの時間だとエリーは仕事中だろうから、外を歩き回っていないだろう」
「そうですか……やはり、エリーさんは無理でしょうか?」
「難しいな」
本当に人として終わっている会話をしながら俺たちは街を歩く。勿論表情は二人とも真剣だ。そして、ただ会話をしながら歩くのではなく、道行く女性を観察するのも忘れていない。
「ですが、ここまで来て引き下がるのは、俺のなけなしのプライドが許しません。それに、折角危険を冒して、おやっさんから逃げてきたのに、なんの収穫もなく手ぶらで帰るなんて……非常に悔しいです」
「まぁ、確かにな」
「となると、少し方法を変えてみませんか?例えば……罠にかけるというのはどうですか?」
「ほう、罠?」
「ええ。例えばですが――」
ここで、俺はマスターさんに考えた策を伝える。すると、マスターさんは途中から目を輝かせて話を聞いてくれた。
「――なるほどな。それは盲点だった。いけるな!というか、魔法関係ないかも知れんが俺も見たくなったぞ!涼君、お前さんは……もしかしたら天才なのかもしれないな!」
「そんな、褒めないで下さいよ。誰もが思いつく事ですよ。そもそもアレは神が与えたもうた、奇跡のひとかけらですからね。本来なら俺の、いえ、私たちの手でどうにかなるものではありませんしね。ですが、偶になら神も許してくれるのではないでしょうか?」
「ほう!言うじゃないか!じゃあ、手筈通りに……いけるな?」
「ええ」
俺たちは互いに頷き合い同時に願う。誰にって?勿論神にだ。
「「我らが行いに神のお目こぼしがあらんことを!!」」
こうして、俺とマスターさんは動き出した。




