第16話 君は僕のものだった
詠唱というか呪文を考えるのがこんなに大変だったとは・・・
外を目指して歩いていると、少し広い空間に出た。そこには、俺たちを捕まえた盗賊たちが一か所に集められ、土でできた牢に入れてあった。マジどうやったの?これ?
「ひっ、助けてくれ」
「てめぇ、なにやりやがった!」
「あっ……ああ」
「ここから出せ、おらぁ」
盗賊たちはマスターさんを見ると怯えだす者や、口々に罵声を浴びせる者と2種類に分けられた。マスターさんはちらっとそちらを見て呟いた。
「ほう、まだしゃべる元気があるか?俺もまだまだ甘いな」
マスターさんは感心したように言うが、目が笑っていなかった。
「『我が前で立つこと能わず、彼の者に重力の鎖を』頭がたけぇ≪微小・重力鎖≫」
ドスの利いた低い声で盗賊たちに言い放つ。『ズドォン』と良い音がして盗賊たちは地面と熱烈なキスをしていた。
「はっはっはっ、良い眺めだな。土の味はさぞ美味かろう?」
マスターさんは顎に手を当て、実に楽しそうに笑いながら盗賊たちを見下している。この行動から、この人も怒らせたらヤバい部類の人間だろうな……あの魔王様同様。俺は、悪ふざけもちょっとは自重しようと心の中で誓う。
「マスターさん……それ悪役のセリフっすよ。ほら、こっちには子供もいるんですから教育上悪いです……よ……」
俺はそう言いアルテミスちゃんの方を向くと。
「……カッコいい」
アルテミスちゃんは目をハートマークに変え、マスターさんに熱いまなざしを送っている。これは……いや、だが……
「さ、さあ、マスターさん早くここを出ましょう?ね?ね?」
「おう、後は憲兵にでも任すか」
「ええ」
これ以上はマズイ。何がって?もう皆も気づいているだろ?俺は鈍感系主人公みたいに「え?なんだって?」や「ごめん、今なんて言った?」などの聞き逃しなどしない。これは、早く何とかしないと俺の立場がない。
盗賊のアジトを出て街への道を歩く。先頭からマスターさん、俺、アルテミスちゃん、おっさんの順だ。ちょっと、某RPGを思い出し馬車が欲しくなった。装備はマスターさんが回収していてくれたので、俺とおっさんは装備済みだ。おっさんの装備は革鎧に双剣と無駄にカッコいい装備だった。おっさんの癖に。
マスターさんはご機嫌で鼻歌を歌いながら歩いている。昔、朝TVでやっていた『ポ』から始まるあの番組の歩いて帰りたくなる曲だ。
しばらく歩き、街まであと一息のところまで到達した。マスターさんの鼻歌も盛り上がってきたところで急に止んだのが、少し残念に思うぐらい俺は聞きいっていたらしい。サビまであと少しだったのに。
そして、マスターさんが急に立ち止まった。
「どうされました?」
「ん?ああ……涼君はまだ分からんか」
よく見ると、後ろでおっさんも腰の二振りの剣を抜き戦闘体勢に入っていた。
「え?」
「涼君たちは危ないからそこから動くなよ?」
「……はい」
「うん」
俺とアルテミスちゃんは返事をして指示に従う。
「ほら、出てきな。ガキども」
マスターさんはさっきまでと打って変わって、機嫌が悪そうに言う。
「ほう、劣等種の癖に俺の気配に気づくとは……なかなかやるな」
「……ガランドラン……か?」
出てきたのは、大きな斧を持ったワニの頭の大男だった。おっさんは何か知っていそうな雰囲気だ。ドランドラン?なんだそのおいしそうな名前?
マスターさんは「はぁ」とため息を吐き、さらに機嫌を悪くし言った。
「聞こえんのか?もう一度だけ言う。出てきな、ガキども」
その瞬間、一斉に何十本もの矢が俺たちを襲う。俺は急に起こったことに対処できず棒立ちのままだった。矢は目の前まで迫っており、もう駄目だと思った瞬間。
「『全てを0に、白銀の世界に変えよ』凍れ≪絶対零度≫」
呪文と共に辺りが急激に冷え一面が白銀に染まる。飛んできた矢は凍りつき地面に落ち砕け散った。
そして、大男の足元と手に持っていた大きな斧も凍りついていた。
「なっ!?てめぇ、何をしやがった?」
マスターさんは一瞥するだけで答えない。
「『我が敵に氷の楔を』打ち込め≪微小・氷楔≫」
片手をその男に向けると、氷でできた小さな楔がその男に突き刺さり地面に縫いつけられる。大男は苦しそうにもがき、マスターさんを睨み怒鳴り散らす。
「ぐっ、ぬおおお!!てめぇ!殺す!殺してやる!」
「まだ動くのか?タフだな」
マスターさんは、手を天に向け呪文を唱える。
「『咎人に罰を、神の怒りに触れる愚か者へ』裁きを≪微小・雷神の鎚≫」
一瞬目の前で光ると、地を穿つような轟音がした。俺はあまりの眩しさに目を閉じた。目を開けると、後に残ったのは黒く焦げ、煙が出て白目をむいているワニの大男だけだった。
「仕上げだ」
え?まだこのワニの人に追い打ちかけんの?と思ったが、どうやら、矢を放った奴らへだった。
『我、求めるは炎。我が敵に破滅の爆炎を』
マスターさんは詠唱と同時に左手を頭上に挙げ、指を鳴らした。
「爆ぜろ≪多重・大爆発≫」
パチンと良い音が鳴ると、近くの茂みや、木の上から爆発音と悲鳴が聞こえる。
「ぎゃー」
「うわぁ」
「ぐぅ」
ぼとぼとっと黒焦げの盗賊たちが倒れる。マスターさんは一歩もその場から動くことなく戦闘を終わらせた。それは戦闘と呼べないほど圧倒的な光景だった。俺もおっさんも一歩も動くことができず、立ち尽くしかなかった。
「おしっ、これでもう安全だろう」
そして、マスターさんは爆発で驚き尻もちをついて、座り込んでいたアルテミスちゃんに近づいて行き、笑顔でそっと手を差し伸べた。
「怪我はないか?怖い思いをさせたが、もう大丈夫だ」
「……はい」
アルテミスちゃんは頬を赤く染めマスターさんを見ながら、しっかりとマスターさんの手を掴み立ち上がった。
こいつは……惚れたな?惚れたよな。
ああ、分かっていたさ。認めたくはない。認めたくはないが、物語ではよくあるじゃないか。ピンチになったヒロインの前に颯爽と登場し悪を倒すヒーロー。まさに、マスターさんじゃないか。俺もマスターさんの登場シーンでは魅入ってしまうぐらいだ。そして、今回の盗賊団に対しての圧倒的な戦闘。カッコよかった。しょうがない、しょうがないんだが……
俺はマスターさんに駆け寄った。
「マスターさん!マスターさんには何度も助けていただいて、本当に心から感謝しています。おこがましいかもしれませんが、一つだけお願いがあります」
「な、なんだ?どうした急に?」
俺は一旦息を吸い、マスターさんに真剣な表情を向け言う。
「俺に……俺に一発殴らせてください」
「なぜだ!?」
こうして、俺たちは宿へと帰るのだった。




