第15話 閃光
マスターさんに連絡を取り安心しきった俺は床にうなだれた。魔力を使うっていうのは、なんか本当にしんどい。全てが上手くいき良かった。不満があるとしたら、さっきと変ってアルテミスちゃんは俺と距離をとっている。ちょっとした悪ふざけだったのに。イヤ、ホントダヨ。
「今さらだが大丈夫なのか?お前の言っていたその恩人とやらは」
「ええ、問題ないと思いますよ!……多分(ボソッ)」
なんかそれ言われたら不安になるじゃん。でも、ギルドではめちゃくちゃ強かったよな?まぁ、流石に一人で乗りこんできたりしないでしょ。そこまでフリーダムな人ではないでしょうし、憲兵的な人にでも通報してくれると思うから大丈夫でしょ。ユリウス辺りが来るんじゃね?うん。
「それよりおっさん、じゃなくてオムガさんは強そうなのに何で捕まったんですか?」
「オルガだ!俺は、なんだ……騙されたんだよ」
「……そうですか」
「ああ、実はな――」
ここで俺は物思いにふける。おっさんの話?いや、聞いてる、聞いてるよ。まさか、自分から話を振って聞かないとか、人としてなんかダメだからな。なんか盗賊団の討伐の依頼を受けら、一緒に依頼受けた人が盗賊団と内通していたらしい。休憩の時に食べ物に薬を盛られて、気づいたら盗賊団の牢屋だとさ。怖いね。うん、以上。
俺は今そんなことより大事なことがある。この状況で、どうアルテミスちゃんとお近づきになるかをだ。折角、俺の説得で心を開きかけていたのに、アルテミスちゃんの俺に対するパラメータが、あの言葉で振り出し以下までいってしまった。これは、ゆゆしき事態だ。そう、きっとアルテミスちゃんは俺の事を誤解しているのだ。まず、少しずつでも誤解を解かないとな。
「――ということがあったんだ」
「……そうですか、タイヘンダッタンデスネ。それでアルテミスちゃんはどうして捕まったの?」
「え?」
突然話題を振られて戸惑っていたが、アルテミスちゃんは俺に言葉のクロスカウンターを返してきた。
「それより、リョーさんはロリコンなの?」
「おうふ……」
直撃ですよ。脳を激しく揺さぶられるイイ一撃だった。
「ねぇ?ロリコンって、変態で怖い人のことだよね?」
「ち、違う!ロリコンは怖い人じゃ……」
そこで俺は思ってしまった。少女を前に「ロリコンは怖くないよ」なんて言えるのか?少女達にとっては最も警戒すべき危険人物ではないのか?だが、誤解なんだ。誤解を解かないと。
「そ、そもそも、俺は、俺は、変態じゃなくて変態だよ?」
「リョーさんは変態じゃないの?」
「ん?」
「ん?」
なんだか、自分で言っていて分からなくなってきた。すると……
「なんだ、元気そうじゃねぇか?」
当然、声が聞こえ俺たちはその声の方を見る。
『我を捉える事能わず、我がひと振りは全てを切り裂く光となる』
呪文と共にその声の主が腰の刀に手をかけた。その瞬間、刀が光ると、右手には既に鞘から抜かれた刀があった。
「鳴れ≪紫電一閃≫」
閃光の後に訪れる轟音。紫電一閃。まさにその言葉にふさわしく、目で捉えることのできない一瞬の鋭いひと振り。牢屋はそのひと振りにより切り裂かれていた。俺はただただ、口を開けて魅入ることしかできなかった。
「よう、助けに来たぜ!」
その人は右手の刀を肩に担ぎにやりと笑う。幾千もの戦場を駆け巡った戦士を彷彿とさせる貫録。その姿は、さながら英雄が活躍する映画のワンシーンの様だった。
「……閃光の勇者様」
と、アルテミスちゃんが頬を赤らめて呟いた一言が印象的だった。あれ?これは……
そんなカッコいい登場をした人――マスターさんは、俺が思っている以上に規格外らしい。
「助かりました、ありがとうございます。でも、速すぎませんか?通信では山のどこかに捕らえられてるかもしれない、とだけしか言いませんでしたが、マスターさんはどうやってここまで来たんですか?」
「いや、涼君に渡した魔道具の魔力を追ってここまで来たんだ。走って。そしたら、涼君の言うとおり盗賊のアジトだったから、お前さんたちの捜索を兼ねてこのアジトの中をちょっと潰しといた」
「マジで?」
「おう!マジだ!」
と、こんな具合らしい。何そのちょっとコンビに行くついでみたいなノリで盗賊を壊滅させてんの?
「なんスか?マスターさんホント何者ですか?」
「涼君は何を言ってるんだ?どっからどう見ても酒場のマスターだろ?」
「ええ、その服装だけならね」
だから、その目はやめてくれ!何?俺が変なの?不安になるじゃん!
どこの世界に盗賊壊滅させるだけの戦力を持った酒場のマスターが居んの?
「んじゃ、用も済んだし帰るか」
「ええ……ええ、帰りましょう」
俺はもう考えるのを放棄した。すると、マスターさんは思い出したかのように俺を見て良い笑顔で告げた。
「そういえば涼君、マオが「リョー、お前は吾輩の手伝いするんじゃないのか?」だってさ」
これは、死刑宣告か?執行猶予は付くのだろうか?いや、冤罪だ。裁判があるなら、弁護人はアテナちゃんに頼もう。とにかく、早く帰らないと命が危ない。
「光の速度で帰りましょう!そうだ、彼らも連れて行っていいですか?」
「ああ、勿論だ」
「あ、あのっ。助けてくれて、ありがとうございます」
「本当に助かった。ありがとう。この礼は我が命を賭してでも返させていただく」
おっさんたちはマスターさんに礼を言い、頭を下げた。
「なに、ついでだ。ついで」
マスターさんは頬をかきながら、照れくさそうに言う。もしかして、素直な直球の感情には弱いのか?これはマスターさんの弱点か!今度仕返しを考えておかなければ!てか、この世界のおじさん達は良い人が多いな。俺がニヤニヤしながらマスターさんを見ていると。
「ほれ、さっさと帰るぞ」
マスターさんは、話はこれまでとばかりに背を向け歩き出す。そして、マスターさんの後をついて俺たちは牢屋を後にした。




