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死んだら地獄でまた会った! ~戦国武将たちの「墓場まで持ってきた話」~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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柴田勝家の結婚秘話〈織田信長と柴田勝家〉

【地獄安土城にて 織田信長と柴田勝家】



「お義兄(にい)さん」


「…………?」


「お義兄さん。返事してくださいよ」


「…ああ?今度は誰だ?」


「お義兄さん、俺ですよ」


「なんだよ、勝家じゃねえか」


「そうですよ、お義兄さん。なんで返事してくれないんですか」


「お前に、お義兄さんなんて呼ばれる筋合いはねえだろ。

 あっ いや……そういえば……」


「やっと分かってくれましたか、お義兄さん」


「許した覚えはねえぞ」


「でも、死んでるんだから、許可なんて取れませんでしたよ。

 それにしても…俺も死んでから、こんなに早く会えるとは思っていませんでしたよ、お義兄さん」


「おい、お義兄さんって呼ぶんじゃねえ。気色悪い」


「なんでですか。市(いち)は俺の嫁なんですから、信長様はお義兄さんです」


「市とか言うな。あいつが死んだのは、お前と結婚したからだぞ。お前、すぐ切腹しろ」


「イヤですよ。切腹は、現世でしたばかりです。あれは痛かったですよ。十字腹(じゅうじばら)なんて、地獄の苦しみですよ。介錯(かいしゃく)の意味が、よく分かりました」


「ああ、そうだな」


「そもそも信長様、佐久間信盛だって追放で済ませたじゃないですか。信長様が切腹を命じたことって、意外に少なかったですよ。武田勝頼も松永久秀も、信長様が切腹を命じたわけじゃないですし」


「そうだぞ。俺は実は寛大な男なんだ」


「だから切腹は無しです。それから、誤解のないように言っておきますと、俺は、市……お市様には、逃げてくださいと頼んだんですよ。でも お市様が、死ぬときは俺と一緒だって言ってくれて…でへへ…」


「勝家」


「はい、お義兄……信長様」


「切腹しろ」


「だから、イヤですって。あれは地獄です」


「まあな。俺も、あんなに痛てえなんて思っちゃいなかった。しかも俺は、介錯なしだったぞ」


「ああ そうでしたね。あんなの、よく耐えられましたね」


「火を付けたからな。すぐ煙で意識が朦朧(もうろう)としてきて……あとはよく覚えてねえ」


「そうなんですか。まあ とにかくあの苦しみを味わってきたせいか、この本物の地獄が、温く感じて仕方がないです」


「切腹していないやつでも、そう言うぞ。現世のほうが、よっぽど地獄だったからな」


「戦国武将だったってだけで、よく調べもせず地獄行きにされましたが、熱くも苦しくもないんじゃ意味ないですよね。

 俺も、鬼柴田と呼ばれた男ですから、地獄でも暴れてやろうかと思っていたのに…」


「まったくだ。ちっとも張り合いがねえ」


「…………」


「お前も、すぐ退屈で死にたくなるぞ」


「ええと……あの、信長様…」


「ああ、どうした?」


「信長様と再会して、少し燥(はしゃ)いでしまいましたが…」


「…ああ、そういえば俺もだ」


「そろそろ、あの勝家結婚秘話(ラブストーリー)の真相を、お話ししても良いですか?」


「そうだったな。なんとなく分かってはいるが、念のため、お前からも聞かせてくれ」


「分かりました。俺は確かに、お市様と結婚はしました。しかしあれは、信長様がいなくなり、お市様といえども織田家での地位が盤石ではなくなったので、形の上でだけ俺の妻になり、身の安全を確保して頂くためでした。

 一歩間違えば、秀吉の妻に…なんていう可能性もありましたからね。秀吉の妻どころか、一切 秀吉の世話にはなりたくないとお市様から相談され、あのような処置を取らせて頂きました。

 お市様はとても魅力的なお方でしたが、俺にとっては、信長様の妹君です。もちろん、一度も抱いてなどいませんし、同じ布団で寝たこともありません。一応は夫婦ですから寝室は一緒でしたが、それも俺が自ら、お市様の身辺をお護りするためでした。

 お市様も、俺を信頼してくださいました。しかし秀吉との戦になり、俺が不甲斐(ふがい)ないせいで、お市様を護り通すことができず、せめて最期は苦しまぬよう、やむなくこの手にかけました。申し訳ありませんでした」


「分かった。昔から市は秀吉(さる)が嫌いだった。逆に秀吉は、市に惚(ほ)れていたのかも知れない。市を浅井長政に嫁がせたときは、ちょっと泣きそうな顔をしていた。でも長政なんかに嫁いで、可哀想なことになっちまったな。

 お前、秀吉(さる)と戦って死んだんだろう?市は、逃げていれば死なずに済んだよな」


「はい」


「なのに、死ぬことを選んだってことか。死んでからお前に会うまで、市のことを思い出すことはなかった。だから、お前から話を聞けて良かったぜ」


「はい」


「よくやってくれた。お前は俺の、年上で暑苦しくて鬱陶(うっとう)しくて頼もしい、かけがえのない義弟(おとうと)だ」


「信長様。褒められたのか貶(けな)されたのか微妙でしたが〈よくやってくれた〉と言われたのは、初めてです」


「そうだっけ?」


「地獄まで来てやっとですよ。もうちょっと、家臣に優しくしてくださいよ」


「うるせえ。お前、やっぱり切腹しろ」


「まあ……これからも仲良くしましょうよ、お義兄さん」



【天下なんて取りたくなかった!〈織田信長と豊臣秀吉〉】に続く

お読み頂きありがとうございます。

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