転生ヒロインは与えられた道筋を思い出す
「模索する」の本文に入れてたゲームの設定部分など。
長すぎて普通に読み飽きそうだったのでごっそり削った分です。
私室でペンを取って鍵の付いたノートに向き合う。
唸れ私の脳細胞。この辺で来年入学予定の王立学校のシステムと攻略対象を確認しときたいんだ。
これまで下手に形として残すと誰かに見られそうで怖かったから、脳内で反芻するに止めていたのだ。
気狂い扱いされたくないから、特に義父母には知られたくない。
ようやく最近貴族子女としての振るまいが身につき、勉強面でも合格を貰ったため、侍女さんたちの監督が緩くなり、一人の時間が持てるようになった。
これまでいつも見張られてたんだよ。主に立ち居振る舞いを矯正するために。
本来なら、おぎゃーと生まれたその日から徐々に身につけるべき貴族の動作、振る舞い、考え方を曲げるのだ。しかも突貫で。
普通これだけ違う常識を、日常の無意識まで落とし込むには4年なんて短い短い。順調に進めても常に気を張り詰めつつ外面を装うだけで精一杯だ。
しかし私は頑張った!自分を褒めよう。
「これまで勉強してきたことを日々思い出せるよう、日記を付けたいんですの。でも恥ずかしいから見られたくありませんわ」などと義母に可愛くおねだりして、鍵付きのノートを手に入れた。
ノートについてる鍵にスペアキーなんて作られたら元も子もない。慎重に立ち回り、家人の手を介さず直接商店に赴いて購入した逸品。下調べはばっちり行った。
貴族御用達で、スペアキーなんて物は存在しないと宣伝していた商店だ。
何に使うんだ?裏帳簿とか??黒い。
まぁ、もしこれで内容が外に漏れるようなら、商店の悪口を言いふらしてやる。貴族にも平民にもな!!
荒ぶりながらガリガリと書き進める。
確かマンガ原作である乙女ゲームでは、入学時は淑女科下位クラスでスタート、各パラメータの上げ具合と学年末ごとの希望選択で、翌年のクラスが変わるんだったかな。
在籍するクラスによって攻略対象の難易度が変動する鬼仕様だった。
ちなみに学校全体では、成績順に特別科、騎士科、淑女科、一般科に分かれている。
特別科は一クラス、文字通り成績優秀な学生が集められている。攻略対象の王子様とか一部側近、ライバル令嬢様とかはここ。
他の貴族は、基本的に男性は騎士科、女性は淑女科で、一部文官目指す貴族子息や平民よりの貴族子女
、平民は一般科に収容される。
そんでもって騎士科と淑女科は上位、下位の2クラスづつ、一般科は人数が多いから上、中、下位の3クラス。の全部で8クラス。多いな!!
そんでもって騎士科は男性のみ、淑女科は女性のみで他は男女共学。
騎士科、淑女科の下位と一般化の上位が同じくらいの成績具合で、希望する将来で選択可能と。
特別 > 騎士 上位 = 淑女 上位 > 騎士 下位 = 淑女 下位 = 一般 上位 > 一般 中位 > 一般 下位
といった具合。
いやーこの辺かなり現実的だよなー。騎士になれない子息も居るし、下位貴族女性や高位でも三女、四女とかは貴族との繋がりより金満家の平民との出会いの方がうれしいから一般科狙いだよねー。
騎士科、淑女科に在籍するような高位貴族は婚約者いることも多いし、男女別の方が安心。
特別科はまさに特別で、男女問わず国の運営に関わるような優秀な人材を育てるために存在する、と。
ヒロインは、スタートこそ淑女科下位だけど、普通に満遍なくパラメータを上げていくと2年目は上位クラスになれる。
そこで勉強に手を抜いてたりするとどんどん落ちる。逆ハー目指してイベント追いかけてばかりでパラ上げに手を抜くと、強制的に一般中位以下に移籍になったり、淑女科下位残留で這い上がることができなくなってしまうのだ。
なお、1年目から勉学に全振りすると2年目で特別科に上がれるが、それはそれで長期休暇のイベントしかこなすことができず、最終的に好感度が足りなくなる。
一番の王道である王子様攻略における最適解は、2年目で淑女上位、3年目で特別科になるようパラメータの調整を行い、1、2年目は日常イベントは王子様少々、王子様と同じ上位クラスの側近のイベントも数回だけ、出会いイベント程度は起こしておいて長期休暇は王子様攻略に全振り、3年目でパラ上げ6割、残り4割の内、王子様イベントと側近イベントを7対3でこなして、晴れて卒業イベントで上がりといった具合である。
イベント、下手に王子様一本に絞っちゃうと隠しステータスのカリスマ値が足らず、信頼が置けない人間として王子妃は無理、となってしまうんだって。NTRやっといて信頼とはいかに。笑える。
前世ではゲームを履修しておらず、SNSや二次創作、興味半分で見た攻略サイトで仕入れた情報だけど。
そんな感じでパラ上げ調整のしやすい仕様は喜ばれていた。
「2年次でのお目当て王子イベントはあと△回以上発生しなくちゃいけど、3年で特別に上がるにはパラメータを総計80以上、上げる必要がある。王子様は座学と実技のパラメータを7対3にする必要があるから、××の授業を3回で~」とか。SNSでつぶやいてるのを見た。めんどくせぇ。気が狂う。
マンガの方でも入学時は淑女下位クラス。地頭が良いせいか、入学試験の成績は良かったけどマナーが壊滅で。平民から貴族にジョブチェンジしたばかりだったからだろう。
それでも侯爵家に対する忖度か、一応淑女科への入学は認められていて。
1年間、子女からは平民よと馬鹿にされ、子息からは明るくておもしれー女枠でかまわれて。でも何事も一生懸命なヒロインは、勉学を大いに頑張り2年目で特別科に大幅ジャンプアップ!一番豪勢な攻略対象である王子様と級友になり、本格的な物語が始まる……的なあらすじだ。
なお、ゲームでは攻略対象が各科2名ずつ在籍していた。
特別科だと王子様とお約束の宰相子息であるクール眼鏡。一般中位クラスには平民枠の幼なじみ商人子息、一般上位には芸術家ショタ枠とかさ。なお一般下位は所謂落ちこぼれで攻略対象はおらず、一発バッドエンド。
クラスによって変動する攻略難易度の違いは、例えばヒロインが淑女上位だと仮定した場合。
同レベルの騎士上位に在籍する騎士団長息子脳筋枠は発生したイベント通して満点回答あり、無難回答ありで、イベント完遂時の上昇値を3ポイントとする。
一般上位のショタ枠だと無難回答、なんだったら出会っただけで爆上がりで5ポイント。
逆に特別科のクール眼鏡は、パーフェクトコミュニケーションでも雀の涙程の1ポイント、とか。
なお、基本的なストーリーや好感度イベントの骨子、各キャラクターのエピソードは同じだが、会話の内容が微妙に違う。おかげでシナリオ量は膨大で、全部見るにはかなり周回を重ねないといけないとSNSや攻略サイトに書かれていた。
会話イベント網羅した攻略サイトの情報量は半端なかったことを思い出す。スマホの画面をいっくらスクロールしても終わりが見えなくてあきらめた。
そんな所もゲーマー受けしたのだろう。自分の在籍中クラスと同レベルのキャラクターを「中」、上下クラス相当をそれぞれ「上」「下」と称して「上○○が素敵!中○○は微妙」とか「下の○○泣ける」などと、推しの細分化がすごかった。
SNSでフォローしていたガチ勢のあの方なんて、例えば淑女上位に在籍しといて一般下位の幼なじみ商人を「下の幼なじみチョロい」とあざ笑いながら攻略し、同時進行の別データで一般中位に転科して、最高難易度の王子様を「上の王子、Sかよ」と震えながら攻略とか。そんでもって同じイベントでの上王子と中王子の台詞を並べてつぶやくとか。いやーすごかった。熱い。
私?私に推しはいない。強いて言えばマンガエンジョイ勢。最初は作者買いで惰性で読んでた口。
マンガを見てゲームに興味もって、攻略サイト見たり、SNSで熱く語っている人をフォローして楽しんでたくらい。
あーあ。せめて王道エンドくらいは動画チェックでもしとくんだった。
残念。