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ゴッドブレス・ミー  作者: tonton
第一章 幼年編
9/50

第9話 オペレーションASH

栄養補給には、肉が一番。

作者はま〇やの牛めし(ツユ抜き)が好き。

 朝食を食べてから約1時間後。

 俺はアインと一緒に宿屋〈狼の昼寝亭〉を出た。

 アインに聞いた話だと、ベルクさんは狼の獣人、アイシアさんは犬の獣人だそうなので、アインやレナは狼と犬のハーフなのだとか。

 まあ、狼と犬なら系統的に同じだし、問題はなさそうだ。

 そんな狼さんが経営しているから狼の昼寝亭、と。

 ……看板の狼、犬だと思ってました、ごめんなさい。



「それじゃ、治療院まで案内頼むよ。」

「う、うん。なんかゴメンね。レナちゃんとは会ったこともないのに。」

「気にしない気にしない。ほら行こう?」



 そう言って俺はアインの手を引いて歩き出す。

 アインの顔が真っ赤だが、まあ気にしない。

 ちなみに俺の顔も若干熱い。

 何気なくアインの様子を窺うが、顔色は昨日俺と会った時より良くなっている。

 ベルクさんに聞いたが、アインは倒れた夜にパンを1つ食べたらしいから、そのおかげだろう。

 だが、あくまでそれだけだ。

 育ち盛りの子がそれっぽっちで足りるわけがないし、栄養バランスだって悪い。

 そんな状態で働いたり無理に動き続ければ倒れるのも当たり前だし、いずれ身体も壊してしまうだろう。

 しかし、家族が言っても(かたく)なに食べない。


 ーーーだったらうちらで食べさせれば良いんじゃね?ということで昨晩立案されたのが、恩返し作戦その1〈オペレーションASH(アッシュ)〉である。





~~~~~


『さて、恩返しについてだけど、まず外周から固めていこう。』

「外周、ですか?」



 小机の上で語り始めた美少女フィギュアに俺は問う。



『そう。まずレナという子の病気だけど、入院が2か月前という話だ。障魔病が末期に至るのは個人差はあるけど、おおよそ半年。猶予がある。』

「詳しいですね?」

『昔は治療法が確立してなくて、知り合いに亡くなった方がいてね。』

「…ごめんなさい。思い出させるようなことを言ってしまって。」

『気にしてないよ。でも、一度にやれることには限りがある。できることから始めるのが良いと思うよ。まず始めにアインちゃんからだ』

「アインにしてあげられることっていったら…」

『まあーーーご飯を食べさせることだろうね。』





~~~~~


 昨日のオオイさんとのやり取りを思い出し、俺は気合を入れる。

 オオイさんはこの作戦を『A(明日)S(商店街で)H(腹一杯)!』と、なぜか自信満々に命名した。

 『言語関係が前の世界と同じで助かったよ』と話していたが意味は分からなかった。

 俺の愛称に合わせると語呂が悪い気がするし、無理に当てはめなくても良いのではと質問したら、声が二段階低くなり様式美について切々と語り始めた。

 おそらく、彼は深く静かにキレていた。俺は、黙って頷いた。


 まずこの作戦だが、治療院までの道のりに商店街があるのがポイントだ。

 商店街には様々なものが売っている。そう食べ物だって。

 アインが食事をあまり摂らないのはお金を節約するためだ。

 だから家族からの食べ物は食べない。だ

 ったら他人からなら?食べると思った人、それは不正解だ。

 他人から食べさせるという方法を彼女の両親が思い付かないわけがない。

 それでも食べていないということは、他人から自分に対する直接的な施しは受け付けないということだ。徹底しすぎだ。

 本当に子供とは思えない。いや、子供だからこそ意固地になってしまっているのかもしれない。


 そこで、知恵の神の出番だ。

 彼(いわ)く、彼女はお金を貯める上で

 1 手に入れるお金は自分で稼いだものだけ

 2 お金を貯めるために最低限しか食事は摂らない

 3 他人から施しを安易に受けるのは良しとしない

というルールを自分の中で定めているという。

 俺もこの意見は正しいと思う。

 1は、俺のお金をちゃんと拾って返してくれたことからも明らかだ。

 2を曲げさせるのは、親が言って聞かないのであれば赤の他人が言ったとしても不可能。

 ただ、3についてはワンクッション置くだけで彼女に食べさせることは可能だと彼は断言した。

 その方法は……



「結構賑わってるね。」

「うん。この商店街、凄く品揃えがイイし、街中の人達が買い物に来るんだよ。」

「そうなんだ。何だか美味しそうな匂いもするね。」

「!!!わうぅ…」



 良し(ベネ)、反応あり。

 ていうか、わうって可愛いな。


 ベルクさんからの事前の聴取によってアインの好物はすでに把握済みだ。

 俺がこの街で最初に胃袋に叩き込んだ逸品、短足牛(ダッカウ)だ。

 俺達は昨晩、事前に今回の作戦を根回ししておいたオードさんの店の前に差し掛かる。さあ、作戦開始だ!



「おはようございます、オードさん!」

「オ、オウ、坊主。ソンナニ可愛イ子を連レテ、朝カラ、でーとカ?(カチコチ)」



 ………オードさん、酷過ぎるよ!

 名演とまではいかなくても、もう少し上手く話し掛けられないかな!?

 これじゃあ、アインにばれ……!



「(ジーーーーーーーーーッ)」



 アインの視線の先には串に刺さった短足牛。

 ばれていない…だと…?

 もしかして、彼女は結構な食いしん坊キャラなのだろうか。

 肉に気を取られて俺達の、というかオードさんの不審な様子には気付いていない。

 しかし、これは好機だ。

 このまま突っ切る……!



「今日も美味しそうですね。朝ご飯は食べてきたんですけど見てたら小腹が空いてきちゃいました。1本貰えますか?」

「わう!?」

「あ、ごめんね。アインも食べるかい?」

「私は、その、えっと、いらない…」

「そう?じゃあ1本で。」

「わうぅ~~~~」



 ……こんな状態で、よく1か月も我慢できたな。

 オードさんの串焼きを穴が開くほど見つめている。

 まあ予想通りの展開になったから良しとしよう。



「ア、アイヨ。串焼きオ待チ~」

「(ジーーーーーーーーーッ)」

「ありがとうございます。」

「(ジーーーーーーーーーッ)」

「うわっ、結構ボリュームある。食べきれるかな?」

「(ジーーーーーーーーーッ)」

「…そうだ!アイン、ちょっと食べてくれない?」

「!!!」

「小腹が空いたから買ったけど、ここの串焼きが大きいのを忘れてたよ。余らせちゃったら勿体ないし、少し食べてくれないかな?」

「で、でも……」

「余らせても捨てちゃうだけだし、俺を助けると思って、ね?」

「本当に良いの…?」

「うん、頼むよ。」

「わう!」



 フィーーーーーーッシュ!!!

 本当に釣れたーーーーー!!!

 オオイさんの言う通りだった。

 アインは、自分や自分の家族に金銭的な負担を掛けるという理由で食べない。

 他人からの施しも、その他人に金銭的な負担を掛けるからという理由で食べない。

 ならば、アインが食べなければ相手の負担になる(・・・・・・・・)状況を作り出せば?

 結果は見ての通りだ。

 アインは俺から渡された串焼きに幸せそうにかぶりついている。

 腹一杯とまではいかなくても、今後かなり違ってくるはずだ。

 結局、串に刺さった肉3つの内、2つがアインのお腹に収まった。

 その後アインは串焼きを半分以上食べてしまったことを恥ずかしそうに、必死に謝ってきた。

 シュンと垂れてしまった耳と尻尾が可愛かったが、落ち込んだままにしておくわけにもいかない。

 俺は治療院までの道中を、アインのメンタルケアに費やした。





~~~~~


 治療院は商店街を抜けた先、フォレストサイトの真ん中を突っ切る大通りに面して建っていた。

 木造の2階建て、清潔感のある白い塗装が全体に施されている。

 両開きのドアを開け、院内にいた看護師に一言二言話し掛けた後、アインは慣れた様子で迷いなく建物の2階へと上がっていく。

 板張りの廊下を進んだ先。

 ”レナ”の文字が書かれたプレートが貼ってある、2階の角部屋のドアをアインがノックする。



「はい。」



 鈴を鳴らすような可憐な声が室内から聞こえる。



「入るよ。」

「お邪魔します。」



 開いた窓から風が吹き込み、レースのカーテンがふわりと揺れる。

 白い室内に白いベッド。そこに、白い少女がいた。

 透き通るような白い肌、窓からの日を反射して白い髪が輝いている。

 その髪の間からはピンと立った獣耳が覗く。形的に狼っぽい。

 アインは母親の犬の形質を、レナは父親の狼の形質を受け継いでいるようだ。

 少女は眠たげな瞳を姉であるアインに向けると嬉しそうに頬を緩め、後から部屋に入ってきた俺を見て表情が固まった。



「……………」

「こ、こんにちは。」



 しまった、もしかして気難しかったり人見知りする子なのか?

 ベルクさんやアインからはそんな話は聞いてなかった。

 何とか警戒心を解かねば。必死に打開策を考えていると彼女が口を開く。



「お………」

「お?」

「お姉ちゃんが………彼氏を連れてきた。」

「わう!?ち、違うにょぉ!!!」

「アイン、動揺し過ぎだよ。それにそこまで否定されると傷付く。」

「ご、ごめんなさいぃ!!!」



 そんな俺達を見てレナは、冗談よ、と言いながら可笑しそうに笑っていた。

 もしかして、小悪魔系ってやつか。な

 かなか油断できない子のようだ。



「レナよ。あなたは?」

「俺はアシュレー。この街に来たばかりで、今は君の家の宿で世話になってる。アインとは昨日知り合ってね。妹さんがいるって話だったからお見舞いに来てみた。」

「そうなの。わざわざありがとう。いつも暇だから、話し相手が増えるのは大歓迎よ。」

「姉をいじるのは感心しないがな。」

「私、別にいじられてないよぉ?」

「「自覚ないんだ…」」



 優しい日の光が差し込む病室、俺達3人は自己紹介や他愛もないおしゃべりをして過ごした。

 レナからのツッコミで時折アインが暴走し、漫才みたいになってしまったのもまた笑いを誘った。

 いじられる優しい姉にいじる悪戯っ子の妹。

 何となく2人のポジションが分かった、そんな一時(ひととき)だった。


 

次話、ようやく主人公の力が判明…!

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