第34話 過保護ボーイ
誰か…誰か俺に時間を下さい…
殺意を抱く。
そんな経験をしたことがある人が、この世界にどれだけ存在するだろう。
むかつく。腹が立つ。
そんなレベルの怒りなら多くの人が経験しているだろう。
だがしかし。
殺してやりたい。
それほどの激情を沸き上がらせるのは余程の事が無ければ不可能だ。
そう、余程の事が無ければーーー
「いじめ…だと…」
「いや、ハッキリとは分からんぞ。ただ、1人でいる事が多いから可能性の話をな…」
俺とテッド、ヴィーで囲む学食のテーブル。
ユキカゼも誘ったが今日は用事があるという事で、本日は男3人の食卓だ。
ちなみにヤロウ3人全員、ポークジンジャー定食ライス大盛りである。
テッドはイメージ通りだが、ヴィーも以外と健啖家らしい。
世間話でB組でのアインの様子をヴィーに聞いたところ、衝撃の真実がもたらされた。
「よし…殺るか。」
「音でしか分からないが、その”やる”がデストロイ的な意味に聞こえるよ。」
ヴィー、正解だ。
うちの子がいじめられているかもしれないという情報。
そんなものを聞いて冷静でいられるだろうか?いや、いられない!(反語)
怒りで手が震え、箸で持つポークジンジャーが暴れ回っている。
「ちょ、わぶっ、アッシュ、飛んでる!タレが飛んでるから!」
「あ、ああ。すまん、テッド。」
「ったく…アインって、前に話してた下宿先の子だったっけ?」
「ああ。俺にとっては妹みたいなもんだな。」
ナプキンで顔を拭くテッドに説明する。
情報源のヴィーが捕捉するように話を続ける。
「いじめというよりは孤立している、と表現した方がシックリくるかもしれん。他のクラスメイトと話しているところを見た事が無い。」
「いじめじゃないって事?」
「おそらくな。」
「でも、もしいじめだったらどうするんだ!もしいじめだったらこれは、これは問題ですよ!精神的に追い詰められて何か大変な事が起きるかもしれないでしょう!どう責任を取るんだ!!!」
「落ち着け、モンペみたいになってる。」
「オイラ、日に日にアッシュのキャラが分からなくなってるよ。」
おっと、俺としたことが。
こういうのは俺の役目じゃない。
ビークール…ビークール…よし、落ち着いた。
「で?どいつから殺ればイイ?」
「「そこから離れろ。」」
全然冷静じゃなかった。
~~~~~
元々アインは引っ込み思案な子供だった。
俺との出会いの時も、精一杯頑張って俺に話し掛けてきていた。
その後の俺との関係も、俺が強引に近付いたからこそ形成できた側面がある。
つまり彼女は。
親しくなれば会話や付き合いも平気だが、親しくなるためには長い時間と相手の根気が必要になるのだ。
初対面ばかりの教室で人見知りのアインが友達を作るのは限りなく難しいだろう。
という訳で…
「ティム!君に決めた!」
『サトシか。』
ところ変わって狼の昼寝亭2階、自室。
オオイさんと協議した結果、明日、教室でのアインの様子を窺うため、ピュアスライムのティムをB組に送り込む事にした。
ティムは話す事は出来ない。
だが何となく思った事が伝わるし伝える事が出来る。
オオイさんはピュアスライム独自のこの力をテレパスと呼んでいた。
「アインのためにも頼んだよ。」
「(ティムに、おまかせ。)」
学園以外ではほぼ一緒にいる俺とティム。
このテレパスによって、俺とティムは話せなくてもおおよそ相手の言いたい事が分かるようになっていた。
それはまるで長年連れ添った夫婦の様に!
…違うか!
結局何がしたいかというと、アインの行動を検証し、いじめられているのなら助け、ただ単に友達が出来ていないだけなら改善策を授けようという話だ。
ピュアスライムはその性質上、隠密行動に優れているし、例え見つかってもティムの外見なら怯えられる心配も無い。
事情を説明したところ、ティムもメッチャ乗り気だった。
プルプルッ!
いつもより誇らし気に、その軟体が揺れた。
~~~~~
「(さて。そろそろ?)」
アインの通学用バッグ。
その中からゆっくりと表に出て行く小さな物体。
生徒の皆が黒板を見つめる歴史の授業中、誰にも怪しまれずにティムは監視を開始した。
「(アッシュのお願い、復習。いじめ犯人、殴る。友達いない、可哀想。うん、完璧。)」
物騒&失礼な事を考えながら教室の天井に張り付くティム。
元々透明な上に広がって張り付いているので見ても全く分からない。
そんな完璧な監視の中、アインの学園生活が始まった。
1時限目 歴史
「ゎぅゎぅ…(カキカキ)」
発言無く、真面目に勉強。
中休み
「ゎぅぅ…(キョロキョロ)」
自分の席で周囲を窺う。
2時限目 算数
「わぅ!47です!」
「不正解…57だ。もう少し頑張れ。」
「わうぅ…(しゅん)」
教師から質問・不正解。
怒られて落ち込む。
中休み
「……」
自分の席で教科書を読む。
3時限目 薬学
「わぅ!アリワンの葉っぱは煎じて飲むと痛み止め、潰したものは止血剤になります!」
「素晴らしい!よく勉強していますね!」
「わ、わうぅ…(テレテレ)」
教師から質問・正解。
褒められて照れる。
中休み
「く~…く~…」
自分の席で寝る。
4時限目 音楽
「わうぅ…指が分かんない…」
リコーダーに苦戦する
全ての時間において話し掛ける者、話し掛けてくる者、無し。
昼休みに入り、ティムはアッシュとの待ち合わせ場所である時計塔の裏庭へ向かった。
~~~~~
「ぼっちだな。」
『ぼっちだね。』
「(ぼっち。)」
ティムからの報告(?)を受け、俺達はひとまず安心した。
いや、友達がいない事は安心材料ではないが、いじめが無い事は大変良い事実だ。
だが、問題はここからだ。
『どうするの?誰が敵って話ではないよ?』
「一番簡単なのはヴィーに友達になってもらう方法だけど…」
『それはやめといた方が良い。』
「えっ?どうしてですか?」
ヴィーは優しいし、事情を説明すれば助けてくれそうだ。
良い考えだと思ったがオオイさんは何故反対するのだろう。
『考えてごらん。クラスのイケメンと今までぼっちの女の子が急に仲良くなったら周りはどう思う?特に女子。』
「…それこそいじめられますね。」
う~ん、どうしたものか…
「理想は女の子ですよね。」
『更に優しくて、人見知りの彼女に付き合ってくれる根気強い子が良いね。』
「そんな子がいるなら俺が友達になりたいですよ。」
『君が友達になったっていうユキカゼちゃんはどう?』
「優しいかもしれませんけど…根気強さとは対極に位置する人間ですよ。」
好奇心旺盛だが飽きやすい、ネコみたいな子だからな。あと毒舌だし。
それにクラスが違うから根本的な解決にはならない。
「まさかこんな事で頭を悩ませる事になるなんて…」
『僕も可能な限り考えてみるよ。』
「(ティムも、考える。)」
「…ありがとう、俺も頑張るよ。」
頭を悩ませる人1人と犬1匹とスライム1匹。
周囲から見ればかなりシュールな光景だ。
そんな光景の一部になっていた俺達だったが、この時油断していた。
「…?どなたか、いらっしゃるのですか?」
後ろから声を掛けられるまで、その人の気配に全く気が付かなかったのだから。
更新が遅れ申し訳ありません。
本当に、時間って大事ですよね…(しみじみ)




