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ゴッドブレス・ミー  作者: tonton
第一章 幼年編
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第24話 君は俺の嫁か

「らっしゃい!空いてる席へ適当に座ってくれ!」

「お待たせしましたぁ。日替わりランチ2人前ですぅ。」



 昼食時間帯の狼の昼寝亭は賑わっていた。この時間帯だけではあるが宿泊客以外の食事が可能であり、ベルクの作る料理を目当てに客が入るのだ。狼の昼寝亭は主に旅人や短期の宿泊客の利用が多い宿であり、必然的に朝のチェックインと夕方のチェックアウト時に客が集中し、それ以外の時間帯は客が少なくなるのだ。部屋数自体もそれほど多い宿ではないため、宿泊客の受け入れ準備もすぐ終わる。暇なことを良しとしないベルクが試しにと始めたのが切っ掛けだった。


 そんな大勢の客で賑わうその中に交じり、カウンター席ではアインも昼食を食べていた。自身の父親が作る料理が評判のこの宿で、客達がその美味しさに頬を緩ませる中で、彼女は浮いていた。朝食を抜いたせいもあるかもしれないが、ヤケ食いと言える勢いで評判の料理を小さな口に運んでいる。その食べっぷりと次々に積み上げられていく皿、9歳とは思えないやさぐれた雰囲気に客の視線は自然と吸い寄せられていく。



「本当に、わうわう、アシュレー君は、わうわう、女たらしだよ!わうわうっ!!!」

「すげえな…あの小さな体のどこにあの量が入るんだ…?(ヒソヒソ)」

「俺でもあんなに食えねえぞ…(ヒソヒソ)」

「………」



 愚痴を叫びながら次々と料理を平らげていくアイン。カウンターの反対側ではベルクが調理中であるが関わると絶対にロクなことならないと直感し、実の娘相手に今まで一度も目を合わせていない。逃げようにも逃げられない状況で一方的に捲くし立てられているように見えるその構図は、周囲からの同情を誘った。



「あらあら、どうしたのぉ?周りのお客さんもパパもビックリしちゃってるよぉ?」



 母親であるアイシアが料理を乗せた皿をカウンターに置きながら、娘にやんわりと注意する。つい最近まではパートのため外出していた時間帯であるが、レナの退院が決まったことによりパートも辞め、宿の手伝いに戻ったのだ。エプロンでは隠し切れない抜群のプロポーションとその美貌に、周囲の男性客はデレデレだ。ちなみに亭主があれ(・・)だということは周知の事実なので、バカなことをする輩はいない。料理の美味しさのみならず、この看板娘(?)も集客に一役買っていた。そしてそんな看板娘は、いつもより長い散歩から帰ってきた自分の娘の豹変に素直に疑問をぶつける。



「散歩中に何かあったぁ?(いつもは懐いてるマメくんも早々に逃げ出しちゃったし)」

「あのねあのね!アシュレー君ったら女の子と話してたんだよ!」

「そ、それだけで怒るのは流石に可哀想かなぁ?(やっぱり彼絡みなのねぇ)」

「それにそれに!手まで繋いで!」

「うんうん、他には?」

「あとあと!…アクセサリーショップで…その子に…ペンダントを勧めてたんだよー!!!わうわうわうわうわうわうわう!!!」

「なるほどねぇ。(…私の娘、ストーカーの素養があるのねぇ。将来が心配だわぁ。)」



 アシュレーを意識しているのは明らかだが、それを伝えもせずに1人で怒っている娘。子供らしいと言えば子供らしいが、行き過ぎないか心配になる。特に犬の獣人は好意を持った相手に依存する傾向があるので、しばらくはシッカリ見ておかなければ。娘のストレスを小出しに発散させながら将来を心配する健気な母親と、この手の話題にはめっぽう弱い父親であった。





~~~~~


 アクセサリーショップを出た後、俺とターニャは彼女のお勧めの店で昼食を食べ、噴水広場をゆっくりと散歩していた。別段何かしているという訳ではないが、ターニャと過ごす時間は非常に心地良いものだった。俺自身あまり話すタイプの人間ではないが、ターニャの方は結構話し好きだったらしく、会話は途切れることはなかった。互いのことも色々と話し、身分や立場のこと以外はだいぶ知ることができた。好きな食べ物や趣味、周囲の人間や両親についても話をした。特に田舎での暮らしの話が都会育ちのターニャには面白いらしく、薪割りや川への水汲み、狩りの話などを目をキラキラさせて聞いてくれた。



「妾はいつか、旅をしてみたいのじゃ。世界中の色んなものを見て、色んな人達の声を聞いて、色んなことを経験してみたいのじゃ。」

「そっか。そのためには色々なことを頑張らないといけないね。」

「もちろんじゃ!習い事も、魔法の訓練も頑張ってるのじゃ!」



 自身の将来の夢を一生懸命に語るターニャ。はにかみながら答えるその姿を俺は優しく見つめた。妹がいたら、たぶんこんな感じなんだろうな。ちなみに予想していたとおり彼女は年下で、8歳だった。



ゴォーーーン…ゴォーーーン…



「あっ…もう”オヤツの鐘”か。」

「ん?どうかした?」

「すまぬ、今日はこれから習い事があるのじゃ。」

「そうだったんだ。ごめんね、引き止めちゃって。」

「いや、妾も完全に忘れておった。」



 この街では時間を知らせる鐘が午前6時、午前9時、午後0時、午後3時、午後6時の5回鳴る。時計は一般市民には手の出ない高級品であり、この鐘の音が街の皆の規則正しい生活周期に役立っている。

 今のは午後3時の鐘。街の皆は”放課後の鐘”とか”オヤツの鐘”なんて呼んでいる。前者は学園生の授業がこの鐘が鳴るころに終わることから、後者はそのままの意味で子供がよく使っている。ターニャが俺の前に回り込んで頭を下げてくる。



「今日は本当にありがとう、なのじゃ。お主と遊べて楽しかったのじゃ。」

「お礼なんて言う必要はないよ。俺達は友達だろう?」

「うん、なのじゃ!また遊んでくれるかの?」

「もちろん。(来年まで基本暇だし)」

「あっ、でも明日から予定が多くて、いつ暇になるか分からないのじゃ。」

「それなら待ち合わせた場所の宿の人に言ってくれればイイよ。それで伝わるから。」

「うむ、分かったのじゃ!それじゃあ、バイバイ、なのじゃ!」



 元気に手を振りながら走っていくターニャ。前回もそうだったが走って帰るのはクセなのか?まあ、あの速度ならいじめっ子に絡まれることはあるまい。今日はネックレスも直せたし、気分転換もできたし、良い1日だった。



「…ウサギさんに感謝、だな。」



 今ならベルクさん達ともちゃんと向き合って話ができる。俺は晴れやかな気分で宿へと戻っていった。





~~~~~


「あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ!”俺は晴れやかな気分で宿まで戻ったと思ったら、いつの間にか床に正座させられていた”。な…何を言ってるのか分からねーと思うが、俺も何が起きたのか分からねえ…!」

プルプルッ

「アシュレー君?」

「あっ、はい、すいません。」

プルプルッ



 ベルクさん達との話し合いのため宿へ戻った俺だったが、大人2人は丁度ランチタイムの後片付け真っ只中だった。邪魔をするのも悪い気がしたので後で話があるとだけ伝え、作業が終わるまで自室で待っていようと階段を上がったところで、部屋の前で仁王立ちするアインに拘束された。

 そして現在、自室でこんな状況である。部屋にいたティムはそんな俺に同情してくれたのか、並んで一緒に正座(?)してくれている。優しさが身に染みる…。

 最初はティムの存在に驚いていたアインだったが、害がないと知ると納得したようだった。それ以上に気になることがある様子だ。



「あの、アイ…」

「アシュレー君に質問があります。」

「はい、何なりと。」

「…あ、あああの子は、誰?」

「へっ?アアアノコ?」

「だ、だから!あのウサギ耳の女の子のことだよ!」



 ああ、ターニャのことか。



「ターニャっていう子で、この間、友達になった。」

「どういう関係なの!?」



 俺、今、友達って言ったよね?その後も今日の行動を逐一、詳細に、綿密に報告させられる。もしかして、こんな質問がずっと続くのか?君は、あれか?俺の嫁か?俺は足の痺れに耐えながら、ベルクさん達が助けに来るのをひたすら待ち続けた。

 

 ちなみに2人の救助はそれから1時間ほどしてからだった。俺の足は完全に痺れ、産まれ立ての小鹿はおろか立つことすらできない状態だったが、アインはようやく納得したのか、自分の部屋に引き揚げていった。



「…ぐはっ」

プルプルッ(ひしっ)



 床に倒れ込む俺のほっぺたに心配そうにひっつくティム。だ、大丈夫、まだやるべきことが残ってるんだから。

 こうして俺は、ティムに励まされながら、何とかベルクさん達と今後についての話し合いができたのだった。



 尻に敷かれる未来が見える…。

 

 

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