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次の巣まで、ごきげんよう

そしてこの巣は終焉を迎える。駒鳥の姿をした怪物がすべてを喰らう。


ニンゲンノソンゲンとかいう抵抗などなかったように。

この国は餌場に成り果てた。親鳥と雛鳥の比喩で覆い隠されていた本質があらわになる。そこにあったのは捕食者と餌の関係。ただそれだけだ。

何もかも、すべてが飲み込まれていく。新しい発明に表情を輝かせる技術者も、神を殺す策を練っていた革命家も、神に忠義を唱える貴族も、彼らを護衛する騎士も兵士も。

今日は妙に鳥が騒ぐねと雑談を交わしていた主婦も、洗濯をしながら井戸端会議に花を咲かせていた老婆も、働きに出る夫を見送る腹の大きな新妻も。

こまどり、こまどり、と歌っていた子供たちも。そんな物騒な歌やめなさいと叱る教師も。小麦粉の値段に文句を言っていたパン屋も。不漁に舌打ちする漁師も。今日は肉の大安売りだと値札を書き換える肉屋も。いい天気だと仰いだ空に無数の駒鳥の姿を見つけてしまった農夫も。隣に立っていたはずの農夫が消えたことに事態を理解し悲鳴をあげる花売りも。炭焼きの老人は上半身がちぎれ、薪割りの青年は右半身が引き裂かれた。


恐怖も混乱も最小限に。いや、恐怖も混乱もする暇などなく。あっという間に『すべて』は更地になった。

猛禽ほどの大きさだった分身たちは食事をとるにつれ大きく育ち、本体と変わらぬ質量になる。それがまた捕食を容易にし、何もかも喰らっていく。

血一滴すら無駄にしない。駒鳥が喰うものは肉体だけではない。その魂も、そこに宿る感情もだ。血の一滴にすら人間の生き様は刻まれているというのなら、啜らない理由がない。憎悪に歯噛みした人間が、怒りのあまり拳を血が出るほどに握る。その手のひらから滴る一滴はどれだけ甘美だろうか。


パイ包み焼きで例えるならば、立ち上る湯気すら味わう執拗さで。何もかも丁寧に、執念深く。

だってそうだろう。どれだけ保育したと思っている。どれだけ手間を掛けたと思っている。この巣を営むことにどれだけの労力を費やしたか。それを思えば、この執拗な徴収は妥当なのだ。

人間だってそうだろう。土作りから始めた畑に苗を植え、葡萄を育てて収穫して、踏み潰してワインにして。ボトルに詰めて、そこで飲むかと思いきや蔵に入れて熟成させる。そんな手間暇かけたワインを丁寧に味わうのと同じだ。それなりにしっかりとテーブルを整え、これまでの苦労を噛み締めながらワインを口に含むだろう。がぶ飲みしたりはしない。ましてや床に叩きつけてぶちまけたりするなど。


そんな比喩の描写の間にも、この巣は根こそぎ刈り取られていく。

何でも言うことを聞く、逆らわない、従うと叩頭する人間。最後の最後まで諦めずに剣を握っていた人間。がむしゃらに走り、安全な場所という幻想に向かって疾走する人間。どうかこの子だけはと泣く人間。はい捧げますと笑う人間。こいつを先にやれと順番を押し付ける人間。もう楽にしてくれと五体を投げ出す人間。


最後の一人は何味だったろう。煮詰まった味に羽毛を震わせて、神と呼ばれていた駒鳥は空になった巣を見回した。


「うん、おなかいっぱい!」


じゃぁ飛び立とう。渡り鳥の本能で翼を広げた。次の巣も美味しい餌で満たされるといいな。


***


誰が駒鳥姫を殺したの? 「わたし」と神が言いました。


「わたしのごはんにするために、わたしが育ててわたしが殺した!」

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