誰が駒鳥怒らせた?
と、そんな様相なのだそうだ。真っ青な顔で語る伝令兵の言葉に息を呑む。
行為の残虐さもそうだが、何よりその短絡的な手段にだ。
そんな暴力的で一方的な『神の裁き』はあってはいけない。人間の理性的な手段によっておさめないといけないのに。そのために内紛という建前を作り、ディアデム卿と連携を取っていたのに。
それを無視する駒鳥神の横暴さ。カッコウという外敵を葬るために人間の理性など置き去りにする。そんなの、あってはいけない。
こんなことをされたら保守派だって手のひらを返す。神の気に障ったら法など無視して殺されるなんてわかったら、そこにあるのは畏怖と恐怖からの断絶だ。事は一気に神の排除になだれ込むかもしれない。踏みとどまり、駒鳥神についたとしてもそれは恐怖ゆえの服従。神を愛しているから、信仰しているからではない。
恐怖ゆえに頭を下げるか、恐ろしいものを排除するために戦うか。そんな話になってしまう。そんなことではいけない。
止めなければ。駒鳥神は今何をしているのか。まだ牢屋で残虐な処刑を楽しんでいるのか。
いや。自分がやるべきは神の行為を止めることではない。神の行為を受けた人間たちの動揺を鎮め、落ち着かせること。一時のパニックで極端な行動に走らないように。そうなればこの国の行く末は神による恐怖政治と人間による反乱だ。巣は崩壊する。
慌てて立ち上がった踵を返し、牢屋のほうへ駆け出しかけていた足を翻す。意を汲んだラディウスが外套を用意する。
そう、自分が向かうべきは牢屋ではない、議会だ。朝から定例会議の開かれているその場へ。きっと、神の横暴を見て恐れおののいているだろう。一喝し、宥めて落ち着かせてやらないと。少しでもこの混乱をおさめないと。それが『駒鳥姫』、神と人間の間に立つ自分の役目だ。
「行くわよ」
***
同時刻。定例会議が行われている会議場は騒然としていた。
『あの』の代名詞で知られるフリューゲル卿の話は朝一番、議会を貫いた。政治を決める会議の場に権威だけの駒鳥姫はいらないと押し出し、間接的に国の頂点抜きで好き勝手に政策を決める心地よさに緩んでいた定例会議は悲惨な一報によって痛いくらい引き締められる。
革新派の中でも過激なフリューゲル卿が駒鳥姫に害をなした。具体的に何をしたのかは情報が伝わってこないが、騒動の大きさからしてただ切りつけたとかだけではないだろう。暗殺を企み実行したのか、そんなところだろう。そしてそれが神に見咎められ、一方的で残虐な『神の裁き』が執り行われた。
事の発端の委細はわからない。だが事を受けての結果だけは伝わっている。『疑わしきは罰する』という断片的な言葉も一緒に。
「なんと……」
事の主犯はわからない。なのでいったん屋敷の全員を捕縛し、無実であるなら順次解放していくという手続きの最中だったという。
主犯がいたとしても、せいぜい数人だろうに。あの屋敷の者すべてがグルであったわけがない。それなのに。
罪ある者のそばにいるなら無実であろうが巻き込んで殺す。止めるなら殺す。気に食わないから殺す。なんと残虐なのだろう。
いや。フリューゲル卿は以前から言動に問題があった。革新派の筆頭であるディアデム卿も、彼の過激な発言には頭を悩ませていた。
いつか芽生えるかもしれない不穏分子が摘まれただけ。そう思い直せばいいのかもしれない。だが、素直にそう思えない。だって、その残虐さや横暴さがこちらに降りかからないと、なぜ言えるだろう。次の瞬間には自分たちもそうやって殺されているかもしれない。神の逆鱗はどこにあるかわからない。
駒鳥神をこのまま掲げていいのか。いつか、どこかで聞いた独り言をふと思い出す。あれは確か、行儀見習いのメイドが呟いていたことだ。
あの時は滅多なことを言うなと叱ったが、今はどうか。同じことを言われ、叱責できるだろうか。こんな横暴な神を掲げらていられるか。
「ひっ……!!」
窓の外が翳る。視線をやれば、窓の外には駒鳥神の分身がいた。
会議場は出入り口のある面を除いた3面すべてに大きな窓がしつらえられている。その3つの窓を覆うように、ずらりと駒鳥が並ぶ。
駒鳥神の分身に取り囲まれている。そう理解すると同時、会議場の天井中央のステンドグラスが破られる。愛らしいはずの丸い目が窓越しにこちらを見下ろしている。その羽毛は返り血でぐっしょりと濡れていた。
「ねぇ。あなたたちは、わたしに忠実よね?」
育てる雛鳥を選びに、親鳥が来たぞ。




