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明日、僕は君を忘れるらしい  作者: les.
1週目

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18/19

最終話 始まると知って終わった恋

最終話です、、

 桜の向こうへ続く光の前で、神崎陽斗と少女は立ち止まった。


 風はやわらかく、花びらは静かに舞っている。


 隣にいる少女の手は、ずっと握ったままだった。


 離したくないと思った。


 もう二度と。


 けれど同時に、ここが“終わりの場所”でもあることを、陽斗はちゃんと分かっていた。


 初恋が止まっていた春。


 言えなかった言葉。


 届かなかった想い。


 助けられなかった後悔。


 忘れてしまった痛み。


 全部を抱えて、ようやくここまで来た。


 だからこそ、最後に言わなければならないことがあった。


 陽斗は、隣の少女を見る。


 少女も、ちょうど同じタイミングでこちらを見上げていた。


 目が合う。


 少しだけ笑う。


 それだけで、昔みたいに胸があたたかくなる。


「なあ」


 陽斗が呼ぶ。


「ん?」


 少女が返す。


 桜の花びらが、二人の間をふわりと横切っていく。


 陽斗は、小さく息を吸った。


 もう迷わなかった。


「……好きだった」


 少女の目が、少しだけ揺れる。


 でも陽斗は、そこで止まらなかった。


「ずっと好きだった。あの頃も、忘れてた間も、思い出してからも」


 声は静かだった。


 でも、はっきりと届く声だった。


「助けられなかったこと、ずっと後悔してた。言えなかったことも、ずっと残ってた」


 少女は何も言わずに聞いている。


 その目が、少しずつ潤んでいく。


「でも今は、ちゃんと言える」


 陽斗は、握っていた手を少しだけ強くした。


「好きだ」


 その一言が落ちたあと、春の世界がほんの少しだけ静かになった気がした。


 少女は、泣きそうに笑う。


 頬に光るものが浮かんで、それでもちゃんと笑っていた。


「……うん」


 小さく頷く。


「私も、ずっと好きだった」


 陽斗の胸の奥が、静かに震える。


 昔、聞けなかったはずの言葉。


 もう届かないと思っていた言葉。


 それが今、ちゃんとここにある。


「陽斗のこと、ずっと好きだったよ」


 少女は少しだけ背伸びするみたいに顔を上げる。


「泣き虫で、不器用で、優しいところも、全部」


 陽斗は少しだけ笑う。


「褒めてんのか、それ」


「半分くらい」


「半分かよ」


「でも、好き」


 その言葉に、もう返す言葉なんていらなかった。


 二人は少しだけ笑い合って、それから自然に黙った。


 長い沈黙だった。


 でも苦しくはない。


 ようやく全部が終わって、ようやく全部が始まる前の、静かな間だった。


 少女が、そっと言う。


「ねえ、陽斗」


「ん?」


「次も、会いたい」


 陽斗は目を細める。


「次?」


「うん」


 少女は光の向こうを見た。


「もし春がまた来るなら」


 それから、もう一度陽斗を見る。


「そのときは、ちゃんと最初から会いたい」


 陽斗は一度だけ、ゆっくり頷いた。


 その願いは、自分の願いでもあった。


「……ああ」


「次は、忘れないでね」


「努力する」


「努力なんだ」


「絶対って言うと、また外したら嫌だろ」


 少女がふっと笑う。


「そういうとこ」


「何だよ」


「やっぱり好き」


 その言葉に、陽斗は少しだけ困ったように笑った。


 風が吹く。


 桜が一斉に舞い上がる。


 世界が、やわらかい光に包まれていく。


 たぶんもう時間だった。


 終わりの時間。


 そして、次の始まりの時間。


 少女が、手を握ったまま少しだけ前へ出る。


 陽斗も一緒に歩幅を合わせる。


 光の手前で、二人は最後にもう一度だけ立ち止まった。


 どちらからともなく、顔を見合わせる。


 泣きそうで、でも笑っていた。


 言うことは、もう決まっていた。


 ほとんど同時に、口を開く。


「好きだよ」


「好きだよ」


 ぴたりと重なる。


 二人とも一瞬だけ目を見開いて、それから同時に笑った。


「来世で会おうね」


「来世で会おうね」


 また、同時だった。


 今度は、笑いながら。


 声が重なったまま、春の中に溶けていく。


 それが、この春で交わした最後の約束になった。


 二人は手を繋いだまま、光の中へ歩き出す。


 桜が舞う。


 風が吹く。


 景色が白く、やわらかくほどけていく。


 春が終わる。


 でも、終わりきらないまま、次へ続いていく。


 光の中で、二つの影は少しずつ輪郭をなくしていった。


 手のぬくもりだけを残して。


 今の記憶は来世に引き継がない"らしい"


 昨日君と約束したことを忘れてしまうだろう






















 腕時計の日にちが変わった





















 『明日、僕は君を忘れるらしい』






















 そして、世界は静かに暗転する。


 しばらく、何もない。


 音も、光も、言葉もない。


 完全な静寂。


 けれどそれは、終わりの静けさじゃなかった。


 何かが、これから始まる前の静けさだった。


 やがて、遠くで音がする。


 最初はかすかで、でも確かにそこにある音。


 鼓動のような。


 水の中から世界を叩くような。


 そして次の瞬間――


 産声が響いた。


 一つ。


 少し遅れて、もう一つ。


 重なるように、世界へ放たれる。


 生まれたばかりの、まだ何も知らない声。


 けれど不思議と、それはどこか懐かしかった。


 春の匂いがした。


 光が差す。


 真新しい世界のどこかで、二つの命が同じ季節に泣いている。


 まだ名前もない。


 まだ記憶もない。


 でもきっと、また出会う。


 今度こそ最初から。


 好きになるために。


 約束を、もう一度始めるために。


 春は、また始まった。


 誰も知らない来世の最初の朝で。


 4月という春に生まれたんだ、


 あの世で始まった恋は今終わったんだ。

ご愛読ありがとうございました!!

続けるか迷ってます、、

最後の最後で題名回収できてよかったです

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