南禅寺と僕と1匹の猫
心地良い風を感じながら、
2人並んでベンチに座っている。
ここまで僕が辿った京都の名所も、次で最後。
1日で回るのはかなり大変だった。
それでも、行ってよかったと思う。
「最後は南禅寺。
ここも行きたかったんだ。
南禅寺の三門は有名みたい。
歌舞伎で石川五右衛門のセリフ『絶景かな、絶景かな』はここなんだって。
でも、実際に三門に石川五右衛門が立ったことはないみたい。
それと、京都の三大門のうちの一つというのも調べて知ったよ。
他には知恩院、仁和寺。
他のお寺を加えることもあるみたいだけど。」
お皿に水を入れて、君の前に置く。
ちびちび飲み始めた君の頭を撫で、話を続ける。
「僕が見たかったのは水路閣なんだ。
お寺の敷地内にレンガ造りの水道橋があって、珍しいと思ったんだ。
アーチ状の橋で、良い意味で日本っぽくないのだけど、それがお寺のある場所にあるのが何だか面白くて。
写真スポットで有名だし、確かに写真撮りたくなるね。」
琵琶湖の水を運ぶための水路として作られたらしい。
今でも水が流れているんだよ、と君に言うと、これ?とでも言うように僕を見てくる。
頭を撫でると少し目を瞑り、また水の方に顔を向けた。
「国宝の方丈にも行ってきたよ。
方丈庭園っていう庭もあって、雨との調和が見ていて美しかった。
白い砂に石と草花。
砂の海に浮かぶ島が目に浮かんで来て、心が震えたよ。」
晴れの日だとまた少し見え方が違うのだろうな。
季節によっても違うと思うし、その時々によって別の感覚を味わえるのは本当に素晴らしいことだ。
「それと雲龍図も見てきたよ。
迫力があって恐ろしくも思えるけど、ロマンも感じるよね。」
いつの間にか香箱座りをしている君。
もう少しだけ聞いてね、と君に伝える。
「南禅寺から歩いてすぐの所に、蹴上インクラインっていう場所にも行ってきた。
琵琶湖疏水で船を引き上げるために使われていたらしいよ。
桜が綺麗な所みたい。
満開の時に行ってみたいな。
ちなみに線路を歩けるんだよ。
中々ない経験してきた。」
線路の両側に桜が咲いた姿を想像しただけで、感動する。
桜の儚さ、今は使われていない線路が相まって、奥ゆかしく感じる。
最後にはかなり疲れていたけど、
沢山見ることができて楽しかった。
それぞれが特別で美しかった。
1人で行くのは本当に勇気がいることだったけど、
行ってよかったし、世界が広がった気がする。
君と2人で並んで見る景色も、
それに負けず劣らず美しく感じる。
君はどう思っているかな。
風が吹く。
もうすぐ夏が来る。