世界の彼方への巻 その①
二人はたちどまり、ラミアはぐったりしたアルを地面に座らせた。
「すみません、お嬢様。見苦しいところをお見せして」
「構わないわ。あれだけのエネルギーを一度に使ったのですから……」
丘のふもとには、半壊した屋敷が見えた。アルが壊したものだ。
既にアルはいつもの姿に戻っており、その胸には十字型のペンダントがあった。
「それよりもお嬢様、どうしてこんなところへ? 一刻も早くこの街を離れ、錯誤異物を安全な場所へ運んだ方がいいのではないですか? いつオークションの連中が嗅ぎつけるか分かりませんから」
「いいえ、アル。その必要はありませんわ。この錯誤異物はわたくしに必要ありませんもの」
「……? どういうことです。まさか、オークションに返すのですか?」
「それも違うわ。……ねえ、アル。この世界以外にも世界が広がっているって、信じる?」
「いえ……」
「例えば、わたくしがこの街へやってこなかった世界。きっと、オークションではヌエ一家が偽物の『神の遺骸』を競り落として、市長とビノさんは本物を手に入れていたでしょう。そうなる世界も存在したのではなくて?」
アルは疲れた頭で少し考え、それから頷いた。
「確かに、ありえたかもしれません。ですが、それがどう関係するのです?」
「この世界でのわたくしはハリフォード家の末娘で、あなたはわたくしの大切な友人兼ボディガードだわ。だけど、何かが間違っていれば、あなたとわたくしは学校のクラスメートになっていたかもしれないし、もしかしたら姉妹だったかもしれない。この世界に強い恨みを持って、世界そのものを壊すために協力しあっていたかもしれない」
「分かりません、お嬢様」
「夢を見たの。その世界のわたくしは、何かを強く恨んでいた。そして、世界を壊そうとしていた。だけど、大切な人を失ってしまって、それを取り戻すために協力を求めていた。この『神の遺骸』は、その世界のわたくしを救うために必要だったのよ」
「……つまり?」
「この『神の遺骸』は、別の世界で必要としているわたくしに差し上げますのよ」
ラミアはガラスケースを両手で持ち上げ、空へ掲げた。
すると、ケースは光を放ちながらラミアの手を離れ、徐々に空中へ浮かび上がり、そしてひと際強い光を放ったあと、消えてしまった。




