負けられない競りの巻 その③
錯誤異物に対して、最初の額が提示される。
それはとても一般庶民が手を出せるような額ではないはずだったが、にもかかわらずそれを上回るような額が観客から次々と提示された。
「それで、ラミア嬢はどうなされるつもりです。私を脅迫しようと言うのですか?」
「脅迫なんてこと、考えていませんわ。ただ、ビノさんに、あの錯誤異物を私たちのものになるよう計らって頂きたいとお願いしているだけです」
「そんなことを言われましても、私は公平なオークションを心がけてきたつもりです」
「では、市長との関係は?」
「……な、なんのことです」
会場がどよめいた。
今までとはケタ違いの額が提示されたのだ。
そしておそらくそれは、ヌエ一家のものであることは間違いなかった。
「元々ヌエ一家はこのオークションにおいて重要な役割を担っていた。しかし、ビノさんと市長はそれを疎ましく思い、オークションの利権から彼らを除外しようとしている……違いますか?」
「いや、違いませんな。ラミア嬢……私が思っていた以上に聡明な方だ」
「それでは?」
ビノが苦笑いを浮かべる。
「表沙汰にされると、処理に困りますからな……ラミア嬢の望み通りにいたしましょう」
ビノが傍らに控えていた、彼の部下らしき男に何かを耳打ちする。
男はすぐに観覧席を出て行った。
その後まもなく、ヌエ一家の出した額のさらに倍の額が示され、それ以上の額を出す者は現れなかった。
※※※
オークションは終わった。
その裏でどのような取引があったかはおいておいて、錯誤異物である『神の遺骸』は、ラミアの手によって落札された。
落札した商品を運んでもらえるというので、アルとラミアはオークション会場の裏口で待っていた。
「うまくいきましたね、お嬢様」
「ええ。これで錯誤異物を手に入れることができたわ」
「ところで、どうしてお嬢様は『神の遺骸』が必要なのですか? パーツがすべて揃わなければ効果を発揮しないという話をされていましたが……あれを手に入れただけでは、意味がないのですよね?」
「ただ、錯誤異物の研究のために必要……というのでは納得できないかしら?」
「お嬢様がそう仰るのなら納得しますが、それにしては策を弄しすぎている気がします。何か、あの錯誤異物を手に入れなければならない特別な理由があるのではないですか?」
アルは、一息に喋った。
それを聞いてラミアがため息をつく。
「まったく、アルに隠し事はできないわね。でも、いずれ分かる話よ。その時がくれば教えてあげるわ」
「その時、ですか……」
とにかく、今この場で話せるような内容ではないらしいことくらいは、アルにも分かった。