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ロマン・ストーリー 剣に導かれし者たち  作者: 灰庭論
第一章 勇者の条件編
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第四十一話 ふたたび王都へ

 それから七日かけて王都へ戻った。出発してから三十四日目のことである。通常ならば往復に五十日以上はかかる行程なので、二週間は早く帰って来られたということになる。オーヒン国での裁判がなければ胸を張って帰国していたことだろう。


 この一週間はろくなものしか口にすることができなかった。ただし、山育ちのボボがいなければもっと悲惨な旅になっていただろう。野鳥なんてそう簡単に狩ることなんてできないからだ。


 しかし、褒めるべきは兄貴が育てた馬たちなのかもしれない。長距離移動できるように調教された馬がなければ、途中で行き倒れていたかもしれないからだ。しかも危険な夜道も怖がらずに大人しく歩いてくれたので助かった。


「よし、もうすぐミャーコンだな」


 ケンタスの口調はまるで最終目的地にでも到着したかのような語気だった。ミャーコン村と言えば宿屋のベリウス・スカタムが住んでいるところだ。王都に急いで戻る理由が友達に会うことだったとは思えなかった。


「ケンよ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? オーヒン国で裁判を受ける前に、どうして王都へ戻らなければいけなかったんだ? カレンに会うためというわけじゃないんだろう? それ以外にどんな用があるというんだ?」


 馬上でケンタスが考え込むが、月明かりなので表情までは分からなかった。


「オレも確信があるわけじゃないんだ。だから本人に直接訊ねてみないことにははっきりしたことは口にできないな。でも、この機会を逃すと一生後悔すると思って、会いに行こうと決めたんだ」


 要領を得ない答えだ。


「会うって誰に?」

「それはもうすぐ分かるさ」


 ということでミャーコン村へ入った。この七日間はあえて村や町を避けてきたので、久し振りに人里へ下りてきた気分だった。日は沈んでいるが、酒場の方にはまだ人がいるようである。ただし、俺たちを呼び止めるような者は一人もいなかった。


「ベリウスに馬を預かってもらおう」


 馬を預けてどこへ行こうというのだろうか? ここなら兄貴の牧場も近いのでわざわざベリウスに預ける必要もないはずだ。何か危険を察知しての行動だろうか? 色々と考えてみるが、腹が減って食い物以外の事が考えられなくなっていた。


「すまないが馬を預かってほしい。朝までには出て行くから親父さんには内緒だ」


 ベリウスにはこれ以上の説明は必要なかった。兄妹揃って芝居が好きなので、短い台詞だけでも俺たちの抱えている事情をすべて汲み取ることができるのだ。余計な詮索をしないのは、宿屋の息子だからというのもあるのだろう。


 それからケンタスが向かったのは、旅に出て二日目にベリウスに連れて行ってもらった酒場だった。これから酒でも飲むつもりだろうか? といっても、俺たちには酒を飲む金などなかった。


 店の中から明かりが見えたが、辺りは静まり返っていた。元々繁華街ではなく、村外れにある店なので、酔っ払いがうろつくような場所でもなかった。店に入るとカウンターの蝋燭だけが店主を照らしていた。


「すまないが、もう閉店だ」


 老店主の声は小さかったが、よく響いた。


「貴方に会いにきました」


 ケンタスの声が震えていた。


「ワシに?」


 そう言うと、読みかけの本を丁寧に閉じた。


「はい」


 珍しくケンタスが緊張していた。


「ワシの元へ訊ねてくる者など、何十年振りのことだろうな」


 何十年?


「やはり貴方で間違いないのですね?」


 ケンタスの顔が喜びに満ちた。


「ワシを誰と思っての言葉かね?」


 老店主はケンタスを見つめているのに、俺まで睨まれているように感じた。


「それはモンクルス、あなたです」


 モンクルス?


 いま、モンクルスと言ったか?

 モンクルスが生きている?

 この老主人がモンクルスだと?

 モンクルスは五十年前の英雄だぞ?

 三十年前に戦争を終わらせた時もご老体ではなかったか?


「その名で呼ばれたのも何十年前のことだったか」


 老店主が認めた。

 本物なのか?

 額が後退した、黒紫色の髭を生やした老人が剣聖モンクルス?


「どうして分かった?」

「はい。それは以前こちらに来た時に、貴方自身が告白したからです」


 いや、俺も同席していたが、そんな話は聞いた憶えがない。


「それはどんな言葉だったか?」


「はい。貴方は『モンクルスとジュリオス三世は剣を交えていない』と断言されたんです。それを事実として断言できるのは、ジュリオス三世本人か、モンクルス本人以外には存在しませんので」


 思い出したが、確かに引っ掛かる言葉ではあった。


「名を騙る者かもしれぬぞ?」


「剣聖の名を騙るような者ならば、わざわざ立てた武勲を否定するようなことは言わないと思うのです。そのような男は、自分こそがジュリオス三世を倒した男だと自慢するに違いありません」


 確かにケンタスの言う通りだ。あれから多くの歴史を学び、教えられている歴史が必ずしも史実ではないことを知ったが、モンクルスとジュリオス三世の決戦に異を唱えたのは目の前の老人、ただ一人だ。思えば、ここが出発点だったのかもしれない。


「しかしながら」


 ケンタスが続ける。


「この世の中、歴史をまるで実際に見てきたかのように語る人間が多いのもまた事実です。ですから私もその場では貴方に何も言い出すことができませんでした。ですが、暴君として語られていたジュリオス三世を知るうちに、人々から今も愛されている別名の『パルクス』に辿り着き、モンクルスと戦ったという事実まで疑うことができたのです。そして疑念が確信に変わったのは、実際にパルクスの幻と戦った時でした。彼の背中には短剣が突き刺さっており、それが致命傷となる位置に受けていたのです。話に聞く、黒金の剣による裂創はありませんでした」


 モンクルスが驚く。


「貴君も幻を見たと?」


 ということは、モンクルスも幻を見たということか。


「はい。二度この目で見ました。一度は友が現れ、それは斬ることができましたが、二度目はパルクスが現れて、こちらの剣先が相手のわき腹をかすめたと思ったのですが、空を斬り、そこで諦めて、逃げ帰ることになりました」


「そうか、また幻が現れおったか」


 モンクルスの表情に憂いが帯びた。


「『また』と言いますと、剣聖、貴方も見たことがあるのですか?」


「歴史が変わろうとする時に決まって幻が現れるのだ。多くが亡き者にされ、生き残りは気が触れた者のように扱われおる。ワシの前にも現れおったが、斬っても斬っても、消えてなくなってくれんのだ」


 老騎士はまるで悪夢にでも憑りつかれたかのような顔をしていた。


「この世のどこかに、幻を見せている者がおるのだろう。男なのか、女なのか、老いているのか、赤子なのかも分からん。しかしな、確かに幻を見せている者はおるのだ。人間に化けている、魔導士のような存在が確かにおるのだよ」


「その正体は何なのでしょうか?」


「『わからない』ということだけが分かっておる。一人なのか、二人なのか。死ぬのか、死なんのか。名がある者なのか、名のない者なのか。すでに知っている者なのか、知らぬ者なのか。何も分かっとらんのだよ。だがな、歴史の変わり目に現れるということは、為政者の側におることは確かだろう。繰り人形のように見える奴がおったら、その近くに存在しているはずなのだ。この世界は、たった一人の魔導士の意思でできているのかもしれないということだな」


 この目で幻を見ていなかったら、とても信じられる話ではないのだが、この目で見てしまったので、もう疑うことなどできなかった。魔法なんて神話や言い伝えの中だけのものだと思っていたが、実際に見てしまったら信じるしかない。


 ただし、これはモンクルスが語っているから信用できるというのもある。この世界がたった一人の意思によってできている、なんて陰謀論にしても大袈裟すぎるからだ。


 もしもそれが真実ならば、誰がそんな大きな絵を描いているというのだろう? 俺が知る人物なのだろうか? それともまだ出会っていない人物なのだろうか? 権力者なのか、それとも権力者を裏で操っている無名の人物なのか?


「私たちはどうすればよいのでしょう?」


 ケンタスの問いに、モンクルスが答える。


「歴史を学ぶ他あるまい。その者は必ず歴史の闇に潜んでおる。幻を見たというならば、今もこの世のどこかに生きておるのだろう。いいや、生ある者とは限らんのだがな」


 聞いていると頭がおかしくなってくる。


「ならば剣聖、貴方の知る歴史を私たちに教えていただけないでしょうか? 半月ほど前にジェンババにお会いして話を聞かせていただく機会にも恵まれました。今度は貴方の口からも同じ話を聞いてみたいのです」


 ケンタスの言葉に、出会って初めて老騎士の表情が緩んだ。


「ほほう、あの料理人もまだ生きておったか」


「はい。五十年前の停戦協定に至った経緯についても伺いました。勝負の分かれ目となったのは、『カグマン国にはカエルの共食いがあったからだ』と仰っていました。つまり貴方は味方に足を引っ張られたということですよね?」


「それを見抜いたということは、その時点で、ワシらに勝ち目はなかったということだろうな。ワシの意思では馬さえも自由にできぬことを知っておったのだ。それどころか、遠征部隊の内情をすべて掴んでおったのだろう」


 老騎士が回顧する。


「産みの親の顔も知らずに売られた赤子は、幼い頃から鞭で打たれながら働かされておった。その領主の土地には、そんな子どもがたくさんおったのだよ。ワシもその中の一人にすぎんかった。いまのワシがあるのは……、そうよな、死んだ子どもを穴に埋める作業をやらされている時に『お前のようになるものか』と罵ることができたからだ。そう思うことができなければ、土の中から生える小さな手に足を掴まれ、そのまま地中へと引っ張られるように死んでいたことだろう」


 それがモンクルスにとっての悪夢ではなく、現実ということか。


「初めて人を殺めたのは、八つか九つの時だった。深酒をした地主が鞭ではなく、棍棒を手にした時に、いつものように身体を差し出せば、死んでいった者たちのように頭を割られてしまうと思ったからな。いや、それは殺した後の理由づけに過ぎないのかもしれんな。実際は殺す機会を窺っていたのだ。それで身に危険が及んだことを義として、迷うことなく殺めることができたというわけだ。逃げ出す自由があり、山賊として生きていくこともできただろうが、ワシはそうしなかった。それは領主を『殺してやりたい』と心から願っていたからに違いない。あの頃は従順な振りをしては、内心殺すことばかり考えていたからな」


 領主殺しは重罪なので、実体験を語る人と会ったのは初めてだ。


「それから山の中で暮らし、原住民に見つかって、しばらく世話になったのだ。都の人間から『猿』とか『非人』とか『蛮族』と呼ばれている者たちだな。そこで食うために弓術を覚え、逃げた馬を捕まえるために馬術を仕込まれ、捕まえた馬を盗まれないために剣術を磨いたのだ。しかし、ワシは心のうちまで原住民になりきることはできなかった。そうさせなかったのは、あの土から伸びる子どもの手であった。あの小さくて真っ白い手が怖くて仕方がなかったのだ。ワシだけ助かってしまったという、負い目を感じておったのだろう」


 そこで、またしても老騎士が自分の言葉を否定する。


「いいや、違うな。そうではない。すべては金だ。賊に襲われていた行商人を助けて、それが金になることを知り、自らの生き方を見い出したのだ。それから金になる仕事を探しながら村から村へと渡り歩いていったのだ。十七になる頃には、もう金になる仕事などなかった。なにしろ皮肉なことに、賊を殺しすぎて、畑泥棒を捕まえるために金を出す村が無くなってしまったからな。そんな折、王宮に呼ばれて兵士として雇われたのだ。ワシとしても、金さえ稼げれば雇い主は誰であろうと構わなかった。それから命じられるがまま、北東地方の土地を奪っては、領主や地主の倅や小作人を移住させ、定着することができたら、また次の土地を奪い、そうして転戦を繰り返した。約束された報酬だけが、ワシを動かしていたのだ」


 どうしてわざわざ自分から晩節を汚すようなことを告白するのだろう? 知らなければモンクルスは偉大な英雄として名を残すことができたはずだ。それが金のために侵略していたなんて、少なくとも俺は知りたくもなかった。


 知らなければ剣聖、そう、聖人として永遠に記憶することができた。それを俺たちに告白してどうしろというのだろう? 知ってしまったら、もう以前のような感情でモンクルスという人物について考えることなどできるはずがない。


 ケンタスが訊ねる。


「カイドル国と戦争をしたのも報酬のためですか?」


 老騎士が頷く。


「そうよな。金以外に望むものは何もなかった。それ以外を望める者は、初めから満ち足りている者だけであろう。金を望んだといっても、ただの金ではなく、市場に流通していない純度の高い金貨や、小粒でも純金以上に価値のある宝石など、値崩れしない貴金属だけだ。金を得ることこそ、将来を約束してくれると信じていたからな。また事実、それが正しかったことは、これまでに充分実感することができた。金のために人は人を裏切るが、金を信じる者は金を裏切ることはない。金欲が救う命もあるということだ」


 金、金、金と、金の話ばっかりだ。


「しかし金を望むのはワシだけではなかった。最後の城攻めになって、初めて戦場に貴族が現れおったのだ。自分の手を汚したことのない貴族の倅たちのことよ。カイドル国には一万を超える訓練兵がおったが、ワシは大遠征などせずとも、これまでのやり方で一つずつ村を落として、時間を掛けて入植していけば、相手は勝手に降伏するという道筋は見えていた。それを敵の術中に嵌まっていることも知らずに山岳ルートに部隊を突撃させおって、ワシと一緒に戦ってきた者たちまで道連れにしおった。王宮で生まれた子の目には、山の中に狩り慣れした部族がいること自体、見えておらんかったのだろうな」


 ケンタスが訊ねる。


「ジェンババから、貴方は少数の部隊を引き連れて海上ルートから上陸したと伺いました。降伏が遅れて貴方の部隊が先にカイドル城に到着していたら、歴史はどのように変わっていましたか?」


「何も変わらん。負け戦を演出するのもジェンババの策謀だ。逃げたと思わせておいて、誘い込むのが、あの男の仕掛けた罠なのだよ。毎日のように伝令兵が、一万の兵が動いていないことを知らせていた、ということも全て承知の上であろう。急進させることも読んでおったに違いない。むしろ命拾いしたのは、ワシの方であろう」


 ケンタスが訊ねる。


「停戦協定が結ばれたあと、剣を置かれたのはなぜですか?」


「自ら置いたわけではない。恩賞と引き換えに五千の兵を死なせた責任を負ったまでだ。その頃すでに名前を金に換えることができたからな。名を汚したくない院政の貴族連中と、名を売って金や土地を得たいワシとで希望が合致したまでだな」


 また金の話だ。この老人は金のことしか頭にないのだろうか。剣聖モンクルスは最も偉大な英雄ではなかったか。これなら会わなかった方がマシだった。俺よりも崇拝しているケンタスはもっと落胆していることだろう。


「剣聖はその後、二十年間の空白を経て、再び剣を手にしました。教わった歴史では、貴方が黒金の剣でジュリオス三世を殺したことになっています。それもやはり報酬と引き換えに歴史を書き換えたのでしょうか?」


 ケンタスは落胆した素振りを見せず、質問者の役を淡々とこなしている印象だ。


「いいや、それは違うな。当時すでにワシの名が独り歩きしておった。それで利用されたのだろうな。おそらく名を売った罰が当たったのだろう。名を買った貴族の倅が親の地位を引き継ぎ、ワシの名で戦争を始めたのだ」


 ジェンババも名前を利用されたと言っていた。カイドル国だけではなく、カグマン国でも同じようなことをした者たちがいたということだ。しかし、戦争を始めたのが俺たちの国からだったというのは、初めて得られた証言である。


「しかし、誰がどう係わってもカイドル国の滅亡は避けられなかったであろう。戦力に差があり過ぎたのだ。比類なき才能を持つジュリオス三世がいても、剣士一人で歴史が変わる時代ではなくなっていたのだよ。それは単純に兵力の差というものがあった。わずか二十年で訓練兵の数が五万近く増えておったからな。少年兵ではなかったので徴兵ではなかったはずだ。とすれば、考えられるのは移民しかおらん。この島には大陸と繋がりの深い者がおるのだろう。移民を斡旋し、人を自由に売り買いできるほどの人物だ。ワシらは戦ってきたのではなく、そやつらに戦わされてきただけなのかもしれんな」


 それが前述した正体不明の黒幕なのかもしれない。大陸にいるとしたら、もう俺たちの手に負える相手ではないということだ。島の歴史が島民だけによるものではないとしたら、俺たちはなんてちっぽけなことで争っていたんだと、思わずにはいられなかった。


「黒金の剣も作り話なのでしょうか?」


 ケンタスの問いに、モンクルスが答える。


「いいや、それは真だ。なにしろワシ自ら王家に献上、いや、売り渡したのだからな。三十年前の戦争と、その数年前に起きた隕石落下を、同じ話として結び付けて語られているようだが、それはまた別の話なのだ。五十年前に前線から退いたが、剣を捨てたわけではなかった。それからワシは鍛冶に興味を持ったのだ。老いる身体に不安を抱いたのでな。山から鉄鉱石が採れたので条件も揃っておった。いや、鉱石が採れると知った上で山を褒賞として頂いたのだがな。しかし隕石の落下までは予想できたことではない。黒金の発見も偶然だ。それがどんな金属よりも優れた特質を持っていたかなど、予見しようがなかったのだ。それでも石に興味を持たなんだら、黒金の剣がこの世に存在していなかったことは確かであろうな」


 妖剣を作ったのがモンクルスだったとは驚きだ。


「私たちは国王が黒金の剣で斬られたと教えられています。それは本当でしょうか? 史実では、その後、貴方がその黒金の剣でジュリオス三世を殺したことにもなっています。実際は何があったのですか?」


 老騎士が水で喉を潤す。


「話が前後しておるな。黒金の剣を売った時、陛下はワシの腕も一緒に買われたのだ。それからジュリオス三世を殺すようにご命じになられたわけだ。相当に手を焼いておったのであろう。しかしオーヒン町へ行くと、もうすでに背中を刺されて死んでおったのだ。何があったのかはワシにも分からんかった。和睦を前提に話し合う約束を交わして会談を取り付けたが、それを望まぬ者がおったのだろう。しかもワシの手柄に見せ掛けたということは、名を伏せておきたい者がいたということだ。生きているうちにジュリオス帝とお会いすることができていれば、また別の歴史が存在していたかもしれんな」


 老騎士から自責の念が感じられた。


「それから王宮へ戻った、その夜に陛下は暗殺されたわけだ。すべてはワシのせいなのかもしれんな。名前や黒金の剣を売ったばかりに悲劇を招き寄せたのだからな。絵を描いた者は他にいたとしても、加担したのはワシの責任だ。それから黒金の剣を持ち去り、二度と人目に触れさせまいと誓ったのだ。それ以来、幻を見なくなったが、それでも土から伸びる小さな手は、今でも夜な夜な現れおる」

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