進化
「いやぁ、それにしても木の実が不味い。いやぁ、なんでだ?」
俺は釣ってきたしょっぺえ魚を食べながら例の女に言った。
「これはどうしようもないねぇ」
これで終わってしまった。何も変革する気はないのか。
——変革しようとしない者ほど弱い者はいないな。
ムラにて、男たちが全員集められた。
魚は確かに取れるようになったがしかし、木の実は食えたものではない。
それに魚自体、取れる日と取れない日で偏りが出ている。
やはり、やはり肉が必要だ!
そういうことでムラの意見が纏まった。
今、ムラにはリーダーが不在だ。
というのも、大蛇に叉状研歯が喰われてしまったのだ。
この集会では意見の総和ともう一つ、新たなリーダーを決める会議でもあった。
それは皆も重々承知。
でかっ鼻が先走って立候補した。
しかし皆、聞く耳を持たない。
それからは猿のような悲鳴混じりの声で我こそがと立候補するばかりだった。
野太い声が轟く。
その声が互いの耳を劈けば、ただ、石を持ち出して殴り合った。
噛みついたり、エルボーしたり、なんでもありだ。
そんな轟の中、一際ヨボヨボで渋い声がわっと貫いた。
皆、止まった。
声の先を見れば、弛んで皺くちゃな肌を纏った百何歳かの老人が凛と立っていた。
「新たなリーダーを決める!皆、私に託せ!年の功だ。見る目はある!」
しーんと静まって数十秒後、わあっと男たちは喧嘩を止め、猿のように手を上げ、狂喜乱舞。
「うむ。発表する!新たなリーダーはこいつだっ!」
老人の指の先、そこにいたのは俺だった。
そうと決まれば、切り替えの早い奴らで、俺の腕を掴みひーひーふーというジェスチャーをした。
その息が臭え。
しかし力だけは一丁前でびくとも動かずにいる。
老人がそこら辺の石を握って徐に近づいてくる。
俺の口をその老いた細い手でこじ開けると、前歯に向かって持った石でガンガンと何回も何回も削り叉状を作り出した。
無論、麻酔などない。
歯を削る音がカーンと響けば泣き叫んで掻き消すばかり。
どれだけ暴れ回ろうとしても、びくともしないこのもどかしさと絶望でとうとう失禁してしまった。
「よし、作戦を考えよう」
だらだらと血を口から垂らしながらそう言った。
鉄の味が野生を解放させる。
「やっぱり槍だろ。槍を投げて仕留める」
若い奴がそう言った。
「いや、それじゃあほんの少ししか取れない」
「じゃあ、走って囲って捕まえる!」
彫の深い男がそう言った。
「いや、あいつらの方が我々より速いだろう。たとえ速さで勝っていても奴らは小さく柔軟だ。捕まえるのは至難の業だよ」
皆、黙って考えた。
一人、腹の音がぐるぐる鳴った。
釣られたのか、みんな一斉に腹の音を鳴らした。
「もうっ!わっかんねえよっっっ!!」
でかっ鼻が地面を叩きながら吠えた。
その咆哮は獣よりも獣だった。
「落ち着いてくれないか」
「腹減ったよぉ!!!!!」
「うーむ」
「吠えてても何も起きねえだろうがよぉ!!!!」
睫毛の長い男がそう吠えた。
睫毛の男とでかっ鼻が案の定殴り合うのでため息すら吐けない。
二人とも同じような性格のくせに、なんでこうも、お互いがお互いの敵になるんだ。
いやしかし、お互い似ているからこう敵対し合えたり、理解し合えたりするのだろうか。
俺は二人をじーっと見つめた。
「わっ!」
なんだなんだとこちらを覗く。
「俺に策があるぞ!何か速い動物を一匹捕まえるぞ!獰猛なのがいい!」
皆、驚いた顔でこちらを見る。
どうだ、感心して声も出せないか?
「どうやって捕まえんだ…?」
「あ」
俺は最近、悩んだりしたことがあると海をぼーっと眺めてしまう。
潮風が鼻を刺す。しょっぱい。
朝凪だったので海の中に足を突っ込んで歩いた。
ただ、歩いた。
遠く、遠く、遠くへ。ただ歩いた。
どんどん波が強くなり、水が深くなり、圧が俺を止めるので、進むのが難しくなっていく。
それでも、歩いた。
こうしている今もバタバタと飢餓で亡くなっている。
リーダーになってからというもの、より自分の無力感というものが堪らなく現れてくる。
より、賢くなってしまう。
これが責任というものか。
ぼちゃんと不意に落っこちた。
不意だったのでバランスも取れず、深く深く沈んでいく。
また、空気など吸う余裕もなかったので泡吐いて直ぐに無呼吸になってしまう。
目を開いたまま落ちていく。
暗い暗い怖い怖い怖い。
必死に踠いて、踠いて、踠いて、波を掴もうとして、何も掴めなくてまた落ちて落ちて落ちて…。
波に流されて、陸が実は近くにあって、息を吸って、太陽にご挨拶。
「死んだかな?」
太陽は笑っていた。




