第40話 「遥との、最後の灯り」
第40話 「遥との、最後の灯り」
深夜の灯台最上部。
海人は古びた灯台のペンダントを握りしめ、目を閉じていた。
風が強く、波の音が荒々しく聞こえる。
その音が、十数年前の、あの夜を呼び起こした。(遥……
もう一度、君の声を、ちゃんと聞きたい。
あの最後の会話を、胸に刻み直したい。)海人の心に、鮮やかな記憶が蘇った。
その日も、灯台荘はいつものように穏やかだった。
冬の夕暮れ、荒れそうな空模様だったが、遥は微笑んでいた。「海人、今日は施設の子どもたちを迎えに行くね。
翔太くんが『灯台のおじちゃんに会いたい』って、ずっと言ってたの。」遥はコートを羽織りながら、海人の胸にそっと寄りかかった。
彼女の髪から、いつものハーブの優しい香りがした。
海人は遥の肩を抱き、額に軽くキスをした。「気をつけてな。
波が荒れてるみたいだ。
迎えが遅れたら、俺が車で迎えに行くから。」遥は笑って、海人の手を握り返した。
その手の温もりが、今でも海人の掌に残っている。「大丈夫。
私は灯台の光を信じてるもの。
たとえ暗くても、君の灯りはいつもそこにある。
……ねえ、海人。
もし何かあったら——」遥の声が、少しだけ真剣になった。
海人は彼女の瞳を覗き込んだ。「もし、わたしが少し遅くなっても……
灯りを消さないで。
たとえ一人の胸の中でも、消さないでね。
この灯台荘に来る人たちは、きっと君の光を必要とする。
私がいなくても……君は、灯台でい続けて。」海人は軽く笑って、遥の頭を撫でた。
「何を言ってるんだ。
すぐ帰ってくるだろ?
一緒にハーブティー淹れて、星を見よう。」遥は頷き、いつものように明るく微笑んだ。
でも、その瞳の奥に、ほんの少しの寂しさが浮かんでいたような気がした。「うん。
行ってきます、海人。
……大好きだよ。」遥は海人の唇に、優しくキスをした。
その感触は柔らかく、温かく、
十数年経った今でも、鮮明に思い出せる。海人は灯台の入り口で見送った。
遥の後ろ姿が、夕闇に溶けていくまで、手を振っていた。それが——最後の会話だった。
海人の指が、ペンダントを強く握りしめた。
胸の奥が、熱く、痛く締め付けられる。
あのときの自分の軽い笑い声が、今になって後悔に変わる。(遥……
俺はあのとき、もっと真剣に聞いておくべきだった。
「何かあったら」なんて言葉を、
ただの冗談として流してしまった。
君の瞳の奥にあった寂しさを、
ちゃんと受け止めておくべきだった……)涙が、一筋、頰を伝った。
海人はそれを拭わず、ただ風に任せた。あの夜、遥は施設の子どもたちを迎えに向かった。
激しい波にさらわれ、消息を絶った。
残されたのは、いつも首にかけていたこのペンダントだけ。
そして、彼女の最後の言葉が、海人の胸に永遠に刻まれた。「灯りは、たとえ一人の胸の中でも、消さないで。」海人はゆっくりと目を開け、星空を見上げた。
今、灯台荘には悠真、美咲、あかり、澪……多くの光が集まっている。
遥の言葉が、すべての人を照らしている。(遥……
君の最後の言葉は、俺の命綱になった。
君がいなくなったあの夜から、俺は灯りを消さなかった。
そして今、皆の灯りが、ここで重なり合っている。
君の「行ってきます」が、
こんなにもたくさんの「ただいま」を連れてきてくれた。)海人の胸の痛みは、まだ消えていない。
でも、その痛みの中心に、遥の温かな笑顔が、確かに灯っている。
翌朝。
海人は皆の前に立ち、珍しく自分の過去を少しだけ語った。「遥という女性が、俺にはいた。
彼女との最後の会話が、
この灯台荘を今も守り続けている理由だ。」悠真が静かに頷き、美咲がそっと海人の手を握った。
あかりが「海人おじちゃん、寂しくない?」と聞いてきた。海人は微笑み、あかりの頭を撫でた。
「寂しいよ。でも、皆がここにいてくれるから……
灯りは、消えずにいる。」岩場で奏のギターが響く中、海人は心の中で遥に語りかけた。(遥……
君の最後の「大好きだよ」が、
今も俺の胸を温かく照らしてくれている。
ありがとう。
この灯台の微光は、
これからも、たくさんの人を迎え続けるよ。)
(第40話 完)
遥との最後の会話を、詳細に、感情豊かに描写しました。
・別れの情景
・会話のやり取り
・遥の予感めいた言葉
・海人の当時の軽い返事と今の後悔
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