第10話 「潮の音が運び続けるもの」
第10話 「潮の音が運び続けるもの」
夕暮れが岬を優しく染めていた。
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四人は塗り終えた外壁を眺めながら、縁側に並んで座っていた。
灯台の回転光が、ゆっくりと新しくなった白い壁を照らす。
5秒ごとに、世界が柔らかく輝いては闇に戻る。
澪が小さく息を吐いた。
「私……あと一週間、ここにいさせてください。
それから、施設に手紙を書きます。
『また戻りたい』って。」
彩が微笑んだ。
「私も……もう少しここにいます。
頑張りすぎない自分を、覚えていきたい。」
耕平は無言で頷いた。
ただ、その肩から、ほんの少し力が抜けていた。
海人は三人を見つめ、静かに言った。
「遥は、最後にこう言っていた。
『灯台の光は、決して船を無理に呼んだりしない。
ただ、そこに在るだけ。
誰かが闇の中で震えていたら、そっと照らす。
それでいいのよ』……
お前たちも、もうその光の一部だ。」
四人の間に、言葉の少ない沈黙が流れた。
でもそれは、温かく、満ち足りた沈黙だった。
夜が更け、機械室ではMax Richter - 「On the Nature of Daylight」が低く流れていた。
海人は窓の外を見ながら、独り言のように呟いた。
「……また何人か、潮が運んできたな。」
澪、彩、耕平——三人の部屋の灯りが、静かに灯っている。
灯台の回転光は、変わらず海を照らし続ける。
130年以上前から、今日まで、
これからも、ずっと。
弱い光でも、誰かの夜を少し明るくできる。
ここは、そんな場所だ。
灯台荘の微光は、静かに、変わらず灯り続けていた。
(第10話 完)




