第224話 多くを与えられたもの
(…………)
「どうやってなられたかは、今は置いておきましょう。しかし、『到達者』になられたからには、それに伴い責任が生じることをお伝えしなければなりません。ミズト殿にもご理解いただけるでしょうか?」
「はい……私のいた世界でも、多くを与えられたものには、それに伴う期待と責任が生じるという話があります」
「そうでしたか。ミズト殿の故郷は、随分と成熟した社会のようですね。我々の世界では、とくに到達者が常に問われております」
人間は社会を形成する動物だ。
強いものだけが生き残るのではなく、弱者強者、様々な人々が協力し合うことで成り立っている。
この世界でたった八人しか与えられていない『到達者』に、責任が生じるという話はミズトには理解できた。
それからフェルナンは、他の『到達者』について、ミズトに説明した。
現在、世界には他に七人いるとされている。
世界騎士、紅蓮騎士、聖銀騎士の三大騎士ロードの三人。賢者クローイ。長い間消息の分からない先代勇者。魔王。そして唯一ユニーククラス以外で『到達者』となった傭兵ヴァレリアーノだ。
「そこで問題になったのが、五年前に到達者になった傭兵ヴァレリアーノでした」
「問題?」
ミズトはフェルナンに聞き返した。
「はい。魔王は別として、それ以外の到達者はその力を己の利益のために使うようなことはありませんでした。ところが傭兵ヴァレリアーノは違いました。彼は極めて利己的で、己のためだけに戦う男でした。そして彼の存在が、人々に強い警戒と不安を与えていってしまいました」
「なるほど。例えば紅蓮騎士団のような公の力が強力なのは納得しますが、個人が『到達者』という強い力を持ち、さらには己のために力を振るうとなると、一般の方々は警戒してしまいます」
ミズトは、国ではなく一個人が核兵器を所持している恐ろしい状況を想像した。
「おっしゃる通りです。さすがミズト殿は年齢にそぐわぬ知見をお持ちのようですね。傭兵ヴァレリアーノが到達者に至ってから、人々は彼の存在を警戒し、そして彼の利己的な行動は、より一層人々に強い警戒心を植え付けていきました。しかし、世界の秩序を司る世界騎士団が、そんな不安を払拭しました」
(世界騎士団ね……)
「まず、傭兵ヴァレリアーノが悪事を働いた場合は、世界最強である世界騎士ロードのアレクサンダー様が彼を討伐すると宣言しました」
(あの野郎か……)
「本来、たとえ世界騎士団といえども、他の到達者勢力に介入することはありません。しかし、個人である傭兵ヴァレリアーノは例外として、何かあれば世界最強騎士が出てくると宣言することで、人々の安全と安心を担保したのです」
「同じ到達者でも、その世界騎士ロードという方なら絶対に勝てるのでしょうか?」
ミズトは嫌悪感を表に出さないよう気を付けながら質問した。
するとフェルナンは言葉を止め、少し考えてから、また話し出した。
「この世界には世界で一人しか就くことができない特別なユニーククラスというものがあります。その中でも、さらに特別なクラスが二つあります。一つはクラス『勇者』。これは世界のために魔族と戦う、人々の応援を力に変えて世界を救うクラスです。これについてはウィル殿もご存じですね?」
フェルナンはミズトの隣にいるウィルに確認を求めた。
「もちろんだ! この世界に勇者を知らない者はいないだろう。現勇者の若者は、歴代最強じゃないかって言われているのも知っているぞ!」
フェルナンは、おっしゃる通りです、とウィルの言葉に頷いて続けた。
「そしてもう一つが、クラス『世界騎士ロード』です。単純な強さだけなら他の騎士ロードとさほど変わらないかもしれませんが、決定的な違いは世界騎士ロードだけが使用を許された『支配者の力』です」
「支配者の力?」
ミズトは思わず言葉をなぞった。
「はい。この世界は『五柱の支配者』に支えられているという神話があります。その五柱の一つである『空の支配者』の力を解放することができるのが世界騎士ロードと言われており、その力を解放した世界騎士ロードには、いかなる到達者も抗うことができないと伝えられています」
(…………)
「世界騎士ロードにはそれほどの力があり、抑止力になるということですね」
ミズトは少し不服そうに言った。
「さらにもう一つ。世界騎士団は世界中の国家と協力して、ある制度を設けると共同宣言しました。それが『洗礼の儀』です」
フェルナンは話を続けた。
「洗礼の儀? 何かの儀式でしょうか?」
「はい。今後新たに発生した到達者は、大陸中央にある千年王国ハイデルンで洗礼の儀を受け、その力を世界秩序の貢献に使うと宣誓するというものです。それは利己のために力を使うことができない誓約を伴った宣誓で、人々に新たな警戒や不安を与えることがありません」
「それを、新たな到達者であるウィルさんは受けないといけないということですか」
「はい、世界中の国家が共同で宣言していますので、冒険者ギルドとしては到達者を確認した時点で、従わざるを得ないのです」




