第217話 何一つ届かない何か
「こ……この、ニヤけてんじゃねえぇ!!」
ジンは再び拳をミズトに叩き込む。
しかし、ミズトに攻撃が当たっても、ビクともしていない。
ジンは何度も何度も攻撃を続けるが、ミズトは身動き一つせず、ジンを見下すような目で見ている。
「ば……ばかな……。どうなってやがる……クソが……!」
ジンは息が切れ、大きく肩で息をしながら言った。
「どうした? そんなもんか? 脳みそに栄養が足りねえと、ノロマなだけじゃなく貧弱みたいだな、ふっふっふ」
「何笑ってやがんだぁっ!!!」
ジンの膝蹴りがミズトの顔面を直撃するが、傷をつけることさえできない。
「クソがクソがクソがぁ!! てめえだけは、てめえだけは許さねえ!! 必ずぶっ殺す!!!」
ジンはポケットから覚醒石を取り出すと、青い光に包まれた。
「お子ちゃまの切り札か? ほら、最後にしっかりやってみな」
「舐めんな、コラァァァ!! 爆裂破ぁぁぁぁぁっ!!!」
ジンの拳が輝きながらミズトに命中した。同時に周囲へ衝撃波が広がりテントや物資が吹き飛んだ。
それはレベル75のノワール幹部すら大きなダメージを負う攻撃だったが、ミズトには子供に叩かれたほどすらも感じない。
ミズトとジンには天と地ほどの実力差があるのだ。
「なっ……!? なにが……どうなって……んだ……?」
ジンは何一つ状況が理解できない。
元の世界でも腕っぷし一つで生きてきた。
喧嘩の強さだけが自慢だった。
この世界でも大きな力を手に入れ、拳一つでてっぺんを取るつもりでいた。
しかしどういうことだろうか。自分の拳が何一つ届かない何かが、目の前にいるのだ。
「じゃあ交代だ」
「ぐえぇっ?!!」
今度はミズトが拳を叩き込むと、ジンは巨体を大きくくの字に曲げ血を吐いた。
「な……? な……?」
ジンは体重を支えるのがやっとのように、身体を曲げたまま一歩一歩、足が下がっていくが、ギリギリのところで倒れない。
ミズトの攻撃は、当然マジックシールドによりダメージを減らされていた。
しかしケンスケたちの時よりも、少しだけ動けるようにエデンは加減していた。
(よしよし、エデンさん、良い調整だ)
【五発まで耐えられる調整にしております。六発目で死亡します】
エデンは事務的に報告した。
「ならあと四発だな」
ミズトはそう言って、二発殴り、二発蹴り飛ばした。
「ぐはっ…………」
ジンはミズトの攻撃に耐えきれず倒れた。
ケンスケたちと同じように、気を失うことなく地面でピクピクと痙攣している。
ミズトは倒れたジンの元に立つと、見下しながら初級ポーションをかけた。
「…………!?」
傷が治り、体力が回復したジンは、慌てて立ち上がりミズトから距離をとった。
「て、てめえ……何を考えてやがる……。今さらポーションで回復させたからって、許すつもりはねえぜ……」
「五発じゃ足りないんだよ」
ミズトはジンに近づいていった。
ジンは一瞬躊躇したが、近づくミズトに攻撃を仕掛ける。
だが、それを遥かに凌ぐ速さで、ミズトはジンを殴った。
「ぶわっっ!? ぐわっっ!? がっ……!! おげっ?! っっ!??」
五発連続で殴りつけると、ジンは力尽きたように倒れ掛かる。
しかし、倒れるジンの髪を掴んで、ミズトはそれを許さなかった。
「五発でこのザマか?」
ミズトは戦意のないジンの顔を覗き込むように言うと、再び初級ポーションをぶっ掛けた。
「なっ!? なっ!? なんなんだ……てめえ……!」
回復したジンは、明らかに戸惑いを見せる。
「安心しろ。初級ポーションはいくらでもある」
ミズトはそう言うと、一瞬でジンとの距離を詰め殴り飛ばした。
そして、今度は連続ではなく一発一発を大事にするように四発殴り、倒れたジンを十秒ほど眺めてから初級ポーションをかけた。
「次は蹴りだ」
今度は五発蹴り飛ばし、初級ポーションをかける。
「半々ってのはどうだ」
三発殴り、二発蹴り飛ばす。
「蹴りが多めのほうがいいか?」
二発殴り、三発蹴り飛ばす。
ミズトは五発攻撃して初級ポーションで回復させることを、それから何十回と繰り返した。
途中、十五回を越えたあたりから、回復直後にジンは逃げ出そうとするが、ミズトはとっ捕まえて、それを許さなかった。
「ま……待て……。て、てめえは人間ってのも偽装か? 異界人のマネ事なんかして……いったい何もんだ……?」
ジンがミズトに手の平を向けながら言った。
ミズトは怯えだしているジンに近づき一撃を入れた。
「ぐぇっ!??」
「誰がしゃべっていいと言った?」
「ま……待て……待ってくれ……」
ミズトは問答無用でジンを四発殴ると、地面に這いつくばるジンを見下しながら、
「しゃべるなと言ったんだ」
と、そのまま数十秒放置してから、初級ポーションをかけた。




