第218話 時間切れ
「こ……降参だ……。俺の負けだ……負けを認める……」
一発目を入れる前から、ジンの戦意はなくなっている。
「…………なら、お前は謝罪する相手がいるだろう?」
ミズトはシュンタたちに視線を向けた。
ジンはミズトの意図を悟り、シュンタたちのいる場所へ向かう。
しかし、ミズトの力を何度も刷り込まれたジンは、ポーションで回復しても足がうまく動かせず、ゆっくりと進む。
「早くしろ」
ミズトが後ろからジンを蹴り飛ばすと、ジンはシュンタたちの前で膝をつき、両手も着いた形になった。
「…………」
ずっとミズトとジンの光景を見ていたシュンタたちは、何一つ言葉が出ないようだった。
「す……すまなかったな……」
ジンがシュンタたちを見ながら言った。
「おいおい、お子ちゃまは頭の下げ方も知らんのか?」
ミズトはジンの髪を掴むと、そのまま顔面を地面に叩きつけた。
「ぶゎっ!?」
そして髪を掴んだまま顔を引き上げる。
「す……すまない……すまない……」
血だらけの顔をしたジンが声を漏らす。
「謝り方も知らんのか? ほら、もう一度だ」
ミズトは再びジンの顔を地面に叩きつけ、引き上げた。
「す……びま……せん……」
鼻の潰れたジンが何とか声を出す。
「よし、あと三回だ」
ミズトはそう言ってジンの顔を叩きつけて、引き上げた。
五回目の頃には、前歯がすべてなくなり、両目も潰れ、ジンは声を出すこともできなかった。
(もう十分か……?)
さすがのミズトも、やりすぎたのではないかと急に感じてきた。
【はい、そのものは生涯ミズトさんに逆らうことはないでしょう】
気づくのが遅いことは言わずに、エデンは結論を言った。
(そうか……ならいいか……)
【それに、そろそろ時間切れです。このダンジョンでスタンピードが発生しました】
(スタンピード!?)
ミズトはそうエデンの言葉をなぞりながら、気配を探る範囲を広げた。
すると下層からかなりの数のモンスターの気配を読み取った。しかも急激に増え続けているようだ。
【スタンピードは最下層で発生しました。このまま増え続けるモンスターは徐々に上層へと移動し、約百万体がダンジョンから溢れることになるでしょう】
(百万体!?)
ミズトは確実な未来視であるエデンの言葉の重みを実感し、エデンへ続けて質問した。
(ダンジョン内の冒険者は大丈夫なのか? 下層にいる奴らはどうしてる?)
【幸いなことに『日本卍会』による不法占拠や、魔王軍やノワールと呼ばれる黒いローブの集団の出現により、ほとんどの冒険者はダンジョンから脱出しております。残りの方々も脱出するまで時間の問題です】
(そうか……)
ミズトは少し安心すると、周囲を日本卍会のメンバーが囲んでいることに気づいた。
テントが吹き飛んだ後、どうやらジンとの戦闘を、途中から見ていたようだ。
「…………」
「…………」
「…………」
皆、顔をこわばらせ、化け物でも見るような目でミズトを見て恐怖している。
黒いローブの集団は見えない。戦闘は終わったようで、日本卍会が勝利したのかもしれない。
髪を掴んだままのジンの様子を確認すると、まさに虫の息で動くこともできずピクピクと痙攣している。
ミズトはジンに初級ポーションを浴びせて立ち上がった。
「皆さん! このダンジョンでスタンピードが発生したようです! この方々を連れて早々に脱出してください!」
転がっているケンスケたちを指しながら言った。
「…………」
回復したはずのジンは、何も言葉を発しないままミズトから離れていった。
その動きを合図に日本卍会のメンバーはケンスケたちに近寄り、肩を貸して起き上がらせた。
ミズトの言葉を信じたのか分からないが、沈黙したまま撤退の準備を始める。
「あ、そうそう忘れていました」
ミズトはマジックバッグから剣を取り出した。
「ぎゃぁぁぁぁつ!!?」
そして、ジンの両手首両足首を斬り落とした。
「そちらのボスは歩けないようなので、連れて行ってあげてください」
「っ!!?」
日本卍会のメンバーはミズトの言葉に怯えながら、二人がかりでジンに肩を貸し、慌ててミズトから離れていく。
(死にはしないだろ?)
【はい、すぐに彼らが回復ポーションを使用しますので、死亡することはありません。他の方々は見逃すのでしょうか?】
(ん? 日本卍会の他の奴らか……。まあ、一番の問題はジンだろうから、後は勝手に崩壊するだろ。あいつさえ何とかなれば)
ミズトは日本卍会がジンの手足を置いていっていることを確認してから、シュンタたちに向き直った。
「今お話しした通りですが、このダンジョンでスタンピードが発生した模様です。ナカガワさんたちも脱出しましょう」
「はは…………何が何だか分からなくなってきたけど、ミズト君相手に考えても仕方ないことだけは分かったよ……。ありがとう、でも、俺たちは動けないから……」
「失礼しました。最初にお渡しするべきでした」
ミズトは上級ポーションを取り出し、三人へ渡した。
「上級ポーション……!?」
三人はアイテム名を確認すると、両腕で挟んだポーションを慌てて飲み干した。
すると淡い光に包まれ、身体中に痕のあった傷の回復とともに、手足が徐々に再生していく。
「すごい……ミズト君はこんなものまで……!」
「ああ……あたしの手足……」
「おっしゃ……! おっしゃ……!」
反応に大小あるが、三人とも再生する手足を見て泣き出した。
「さあ、ここを出ましょう」
ミズトは膝をついたままのシュンタに手を差し出した。




