第207話 魔王軍とノワール
「やっと見つけたぞ! ノワールのクズ共!」
大きな声がダンジョン内に響いた。
黒いローブの集団の反対から魔王軍も現れた。偵察の報告を聞き、戻ってきたのだ。
その中で低い声で怒鳴ったのは、魔王軍でも一際身体の大きいレベル78の魔族のようだ。
「ほお、お前はたしか幹部のヘルラフか。わざわざ魔王軍の幹部がこんなとこまで来るとは、ご苦労なことだな。我々に何か用か?」
答えたのは、黒いローブの集団で最もレベルの高い男だった。
「とぼけても逃がさんぞ、ノワールよ! 貴様らが魔王軍を名乗り、各地でグリノス召喚をしていることは調査済みだ! 魔王軍を語った大罪、ここで裁いてくれよう!!」
「ハッハッハ、今さら嗅ぎ付けるとは、魔王軍もウスノロばかりのようだ。だがしかし、我らノワールとお前ら魔王軍は、目的は似たようなものだろう。誰がやろうと構わないのではないか?」
「ほざくな! 誇り高き魔王軍を、貴様らノワールのクズ共と一緒にされては困るのだ!」
魔族ヘルラフは、黒いローブの集団へ向けて指を差した。
「ふん……いつも勇者に負けてばかりの魔王軍が何を言っているのか。お前らは勇者や世界騎士団と戦って時間稼ぎでもしてればいい。その間に他は我々ノワールが相手をしてやる」
「笑わせてくれる! 落ち目の黒騎士団が率いる貴様らに、いったい何が出来ると言うのだ!」
「黒騎士の方々を侮辱するか……。やはり魔王軍とは相容れん。魔王などそのうちあのお方が倒してくださるが、その前にお前らもここで滅ぼしてやろう」
黒いローブの男は剣を抜いて構えた。
「それはこちらのセリフだ! 皆の者、クズ共を蹴散らすのだ!!」
魔族ヘルラフの合図で、魔王軍が一斉に動き出した。
対する黒いローブの集団も、全員が武器を構え飛び出していった。
(おいおい、ここで戦いを始めるんかい)
その様子を、ミズトは岩陰から顔を出して見ていた。
【ミズトさんなら、彼ら全員を眠らせることも気絶させることも麻痺させることも可能です。しかし、まとめて消し炭にすることが最も手軽で手っ取り早い手段になります】
エデンが事務的に提案した。
(…………エデンさん、若者の前でそういう過激な発想はやめてくれ)
【さすがミズトさん。若者たちの未来を憂いていらっしゃるのですね】
(そういうのじゃないが……政治家が票を欲しがって過激な発言をするみたいで、なんだか気に食わないんだよな。大人として若者に聞かせる言葉じゃない)
【承知いたしました。ではここは戦乱に乗じて、気づかれないよう離脱することを提案します】
(まあ、それが一番だろうな)
「ウィルさん、今のうちに離れましょう」
ミズトは、恐怖で顔が引きつっている若者たちを横目に、ウィルへ提案した。
「あ、ああ、そうだな。すまん、判断が遅れたようだ。キミたち、俺が先頭を行くから付いて来てくれ。悪いがミズトはしんがりを頼む」
ウィルはそう言って、腰を抜かしたままの若者を一人ずつ立ち上がらせ、彼らを連れて歩き出した。
ミズトはその後ろにつくと、周囲を警戒しながら進んだ。
魔王軍と黒いローブの集団の戦闘は益々激しくなっていった。
*
ミズトたちは見つかることなく、何とか地下二階に戻ることが出来た。
「あ……あれが……魔王軍……」
気が抜けたのか、デイヴたちはまた座り込み、震えて動かなくなった。
黒いローブの集団なんかより、この世界の人々にとっては魔族の方がよほど恐怖の対象のようだ。
ただ、異界人である『幻影の方舟』のメンバーに目をやっても、状況は同じようだった。
「き……聞いてないよ……。なんで魔族が……」
「魔王軍ってことは……魔王のいる時代ってことじゃん……」
「魔王軍の活動は確認されてないって……ガイドに書いてあるのに……」
彼らは初めてダンジョンを目の前にした時のように、いやそれ以上に現実の恐怖に絶望しているようだった。
「大丈夫だ、キミたち! 別にこれから魔王軍と戦おうというわけではない! これからダンジョンを抜けたら、帝都に帰って終わり。ただそれだけだ!」
ウィルが若者たちを励ますように言った。
「ウィルさん……」
『幻影の方舟』の一人がすがるような目でウィルを見た。
「大丈夫、あれを野放しにしたりもしないぞ! 俺とミズトは戻って冒険者ギルドに報告する。そうすれば冒険者ギルドはもちろん、魔王軍や噂の黒いローブ集団なら、きっと帝国騎士団も動くだろう! キミたちが心配するようなことは何もないさ!」
「で、ですよね!」
『幻影の方舟』の異界人は、少し元気に答えた。
ウィルがその後も励まし、早く進まなければ魔王軍が戻ってくるかもとミズトが脅すと、若者たちはやっと重い腰を上げ歩き出した。
それから地下二階をミズト、ウィルを含め十四人で進んだ。
若者たちは足がすくんで戦闘できる状態ではなくなっているので、モンスターと遭遇するとミズトとウィルが戦った。
ミズトは当然だが、ウィルもレベル20程度のモンスターは相手にならない。
二人の圧倒的な強さは、若者たちを落ち着かせ、それと同時に二人への憧れの気持ちを募らせていった。
そして数時間が経った頃には、立ち直った若者たちが、二人の代わりに戦闘をするまでに回復しているのだった。
そんな地下二階の戦いも、その日はセーフティエリアに辿り着けば終了の予定だった。
来る途中も寄ったが、この先にあるセーフティエリアは巨大な空洞になっていて、たくさんの冒険者がキャンプを張り、休んでいた。
数百人でも簡単に入れそうなほど広大なセーフティエリアのはずなのだが、そこに異変が起きているようなのだ。
「なんだ? かなりの数の冒険者が集まっているな」
ウィルが、セーフティエリアの手前の人だかりに気づいた。




