第208話 想像していなかった接触
「セーフティエリアが満員なのでしょうか?」
ミズトは、セーフティエリア内に多数の人の気配を感じとり言った。
「いや、そんなことはないはずだ。どれほど冒険者が集まったところで、あそこが溢れるようなことはない」
「では、他に中へ入れない理由があるのかもしれません」
「どうだろうか――――みんな、ちょっと待っててくれ。俺が状況を聞いて来る!」
ウィルは皆を止めると、小走りで人だかりに向かった。
そして集まっている冒険者と少し話、また小走りで戻ってきた。
「どうやらセーフティエリアを占拠している集団がいるらしい」
「集団!? まさか魔王軍……?!」
デイヴが絶望するような声を出した。
「違う違う、魔王軍ではなく、数百人にもなる異界人の集団らしい」
「なんだ、転移者の集団かよ! ビビって損したぜ!」
『幻影の方舟』の一人がそう言うと、彼らは安堵したように勝手に進みだした。
ミズトはウィルの話を聞くと、改めてセーフティエリアの気配を探った。
言われてみれば異界人っぽい気配なのだが、悪意の強さは魔王軍以上のものを感じとっていた。
ミズトたちは冒険者の人だかりを抜け、セーフティエリアに入った。
セーフティエリア内にはたくさんのテントが綺麗に並んで設営され、軍の陣地のような様相だ。
そして、その中をたくさんの異界人が行き来している。
ステータスを見ると、彼らの所属は全員『日本卍会』だった。
「そんな……よりにもよって『日本卍会』だなんて……」
さっきまでの元気が嘘のように、『幻影の方舟』のメンバーたちは戸惑いを見せている。
「『日本卍会』をご存知なのですか?」
ミズトは『幻影の方舟』に訊いた。
「なんだよ、あんた。同じ異界人なのに『日本卍会』も知らないのか!?」
「いえ、名前ぐらいは知っているのですが」
「あいつらは普通のクランと違って、ただのギャングや半グレ集団みたいなもんなんだ! 『日本卍会』を作ったジンって奴は、前の世界でも暴走族の総長だったって話だぜ!」
(暴走族の総長が異世界に憧れたのか?)
「そうなのですね」
「そうなの! 普通のヲタクが多い転移者は、絶対に関わっちゃいけないクランなんだよ!」
『幻影の方舟』の一人は強く主張した。
「おい、てめえら! 誰が入っていいって言った! 通行止めっつっただろ!!」
突然、誰かがミズトたちに怒鳴ってきた。
目を向けると、二人の異界人が近づいて来る。
一人は丸坊主で肩にタトゥー。もう一人はパンチパーマで、どちらも分かりやすいほどチンピラ風情だ。
「おい、キミたちが『日本卍会』というクランの者なのか?」
怖気づいて下がっていった『幻影の方舟』と入れ違うように、ウィルが前へ進み出た。
「あ? そんなことはいいから、戻れっつってんだ!!」
丸坊主の男は剣を抜き、ウィルへ向けた。
(おいおい、他人へ簡単に剣を向けるんじゃねえよ)
ミズトは当然ドゥーラの町の頃の自分を忘れている。
「何故戻らなければならないのだ? ここはダンジョンのセーフティエリアだ。誰でも通る権利があるだろう」
ウィルは臆することなく、丸坊主の男に言った。
「権利? 俺たち『日本卍会』が決めたんだ! てめえら冒険者は黙って従えばいいんだよ!!」
「『日本卍会』なんて知らないな。そんなに主張したいなら、冒険者ギルドに正式に申請してみればいい」
「は? ざっけんな! ジンさんが決めたっつってんだ!」
丸坊主の男は、剣先がウィルに触れるギリギリまで近づいた。
「そのジンって奴がキミたちのリーダーか? なら会わせてくれ。直接話をつけてやろう」
「あ? ジンさんがてめえらザコに会うわけねえだろ! いいから戻れ! じゃねえとこのままぶっ刺すぜ!!」
「ん~、実力を見せれば会わせてもらえるってことか?」
ウィルは怯むことなく、一歩前に出た。
「こ、こいつ……」
丸坊主の男は、剣が当たる前に思わず一歩下がった。
「おい、ちょっと待て。こいつらのステータスよく見てみろよ!」
パンチパーマの男が丸坊主の男に話しかけた。
「あ? ……エルドー王国って言やあ、あの『神楽』と揉めてた王国じゃねえか。そっちのはただの転生者か。まあ珍しいが無所属じゃザコだな」
「ばか、名前をよく見てみろ! ミズトってのはソロ攻略のログで話題になった奴じゃねえか!」
「なんだと? …………『神楽』と揉めた王国騎士と、ソロでダンジョン攻略した転生者か。もしかしたらジンさん興味もつかもな!」
「だろ? 連れていってみようぜ!」
「よし、てめえら二人、来な! そこまで言うならジンさんに会わせてやる。ちびって死ぬんじゃねえぞ!」
丸坊主の男はニヤけた顔で言った。
「そうか、それは助かる。みんな、俺とミズトでちょっと行ってくる。悪いが冒険者がいるところで待機していてくれ」
ウィルは『日本卍会』の二人に従って歩き出した。
(日本卍会のジンねえ)
こんなところで日本卍会と接触するとは想像もしていなかったが、ずっと気になっていたことを確かめられるかもしれない、とミズトもウィルと同様に従った。




