第206話 黒ローブの戦闘集団
「いや、同じ道を戻るのはよした方がいい」
戻ろうとするミズトを、ウィルが止めてきた。
「何か懸念されるようなことがあるのでしょうか?」
「実は降りてくる直前でな、黒いローブを着た集団と出くわしたんだ。何とか見つからずに降りてはこれたが、きっとまだ上にいると思う」
「なるほど、黒いローブの集団ですか……」
ミズトはウィルの言葉を聞いて、地下二階へ向けて意識を集中した。
すると魔王軍よりも強い悪意を持つ集団を感じとった。
人数も魔王軍の倍ほどいそうだ。
「あれはたぶん最近噂になっている戦闘集団だが、まあ大丈夫だろう。グレイガント大回廊は広大だ。上に上がる手段はいくつもある。少し回り込んでいこう」
ウィルがミズトの肩を軽く叩くと、先頭を歩き出した。
『幻影の方舟』のメンバーはすぐにウィルに従う。
何十人いようが何百人いようが、面倒になったらミズトが全員眠らせれば済む話なのだが、ここはウィルの話に乗っかることにした。
「私たちも行きましょうか」
『裂空の槍』のメンバーも、ミズトの掛け声で足を進めはするが、この先は魔王軍も進んだ道。
彼らの足が重くなるのは仕方のないことだ。
軽快に従うのはクロだけだった。
それから少し歩いたところで、ミズトがウィルに小声で話しかけた。
「ウィルさん。一つお伝えすることがあるのですが、実はウィルさんたちが来る前、私たちは魔王軍というのに遭遇しました」
「……なに?!」
ウィルは必死に声を抑えた。
「五十人ほどの集団で、私たちも見つからずに何とかやり過ごすことができました」
「そうだったか……」
「それで、その魔王軍がこの先に立ち止まっているようなのです」
「は? それを先に言え!」
ウィルは足を止めた。
ミズトが気配を読み取ったとおり、魔王軍はこの先へ行ったところで止まっていた。
分かれ道のようなものもないので、このまま進めば再度遭遇するのは間違いなさそうだ。
「いくらミズトがいるとは言え、魔王軍は危険すぎる。ここは引き返すべきか」
「それが、どうやら後ろから黒いローブの集団がやってきているようなのです」
「なんだと!?」
ミズトたちは、魔王軍と黒いローブの集団に挟まれてしまった。
しかし広大なグレイガント大回廊は、たとえ分かれ道がないといっても、隠れる場所はいくらでもある。
ミズトたちは身を隠し、やり過ごすことを選んだ。
「誰か来る! 身を隠すんだ!」
ウィルが小さな声で叫んだ。
ウィルが言った通り、前方から一つの影が近づいてきた。
現れたのは魔族の一人。ただの偵察のようで、辺りを警戒しながらゆっくりと進んでいる。
それが通り過ぎる間、みな息を潜め、見つからないことを女神に祈った。
ウィルは、ミズトから借りたままの剣と盾を構え、非常事態に備える。
ミズト以外のメンバーにはとても長く感じる時間が流れた。
魔族の偵察は一瞬だけミズトたちのいる場所へ目を向けたが、ここはかなり広い空間で大きな岩も多数ある。岩陰に隠れた彼らに気づくこともなくそのまま進み、反対の暗闇へと消えていった。
「ふう、なんとか切り抜けられたみたいだ」
そのウィルの声を合図に、ミズトとウィル以外のメンバーは全身の力が抜けたように座り込んだ。
戦闘をしていたわけでもないのに、長時間の激戦後のような疲労で立ち上がれなくなっていた。
そんな彼らを苛めるつもりではないが、ミズトが追い打ちをかけるように言った。
「皆さん、先ほどの魔族が戻ってくるようです」
「!?」
全員、這いつくばったままミズトの言葉に反応し、身を潜めた。
それから数十秒ほど経つと、消えた暗闇から先ほどの魔族が、今度は駆け足で戻ってきた。
「ヘルラフ様ぁー!! 奴らが、ノワールの連中がいましたぁー!!」
魔族は叫びながらミズトたちの前を駆け抜けていく。
そして、さらに時間が経つと、ミズトたちが来た方向から、黒いローブを着た集団が現れた。
人数は百人ほどで、レベルは20台から、最も高い者は75だ。
「ミ、ミズトさん……、あいつらは何者でしょうか……?」
声を潜めたまま、デイヴが訊いてきた。
「分かりません。ウィルさんのお話では、最近噂になっているようですが」
黒いローブの集団が何者であろうとどうでも良かったが、ミズトはエデンに聞くまでもなく、彼らがセレニア共和国の革命軍にいた、黒いローブの者たちと同様なのだろうと直感していた。




