第205話 忌み嫌われし者たち
「ま…………ま……ぞく……!?」
地下三階へ降りてウィルたちを待っていると、地下二階から大勢の集団が降りてきた。
その姿を見た『裂空の槍』のメンバーは絶句した。
肌はどす黒く、おでこの辺りから湾曲した二本の角が伸びている。
瞳は赤く、尖った耳と牙も特徴的だ。
ステータス画面の種族の欄には『魔族』と表記されている。
(なあ、エデンさん。あれが魔族か?)
【はい、ステータスに表記されている通り、世界中から忌み嫌われ、呪われた種族として長きに渡って人間たちと争ってきた、魔族です】
(なるほど)
ミズトは『裂空の槍』のメンバーを見回した。
皆、恐怖に震え、腰を抜かしたように動けなくなっている。どんなモンスターよりも、彼らにとっては恐怖の対象なのだろうと感じた。
そんな彼らを何とか促し、ミズトたちは魔族に気づかれる前に物陰に隠れた。
こういう時、ただの犬ではないクロは物分かり良く従う。
降りてきた魔族は、全部で五十人ほど。
レベルは高い者で78、低い者でも30台前半だ。
普通の冒険者が遭遇したら、どうにかできるような相手ではなかった。
「ミ……ミ……ミズト様……」
犬の獣人オレステがミズトにしがみついてきた。
当然ミズトは不快に思ったが、さすがに振り払うようなことはしなかった。
「だ、大丈夫だ。俺たちにはミズトさんが付いている」
「そ、そうよ。なにせA級冒険者なんだから」
デイヴとブレンダが声を掛け、六人は寄り添うようにミズトの周りに固まってきた。
「いざとなったら、あ、あたいの盾があるわ」
「オラだって皆を守るぞぉ」
「わ、私の弓も忘れないで」
声を震わせながらも、必死でお互いを励まし合っている六人を見て、ミズトはなんとなく微笑ましい気分になった。
「申し訳ございません、ヘルラフ様。奴らを見失いました」
魔族たちの話し声が聞こえてきた。
「まあいい。どうせ奴らの目的は、最下層にあるあれだ」
「やはり、奴らはあれを起動する気でしょうか」
「だろうな。あれが起動し帝国に大きな被害が出たところで、我ら魔王軍には関係ない事だが、やってもいないことを魔王軍のせいにされるのは気に食わん。起動する前に、奴ら全員を根絶やしにするぞ」
「はっ!!」
魔族の集団は、ミズトたちに気づくこともなく、そのまま『グレイガント大回廊』地下三階の奥へと進んで行った。
「…………」
『魔王軍』という言葉を聞いてから、『裂空の槍』のメンバーは何一つ言葉を発しなくなっていた。
魔王軍が去って十分は経つが、呼吸をしてないんじゃないかと思うぐらい身動き一つしていない。
ただ遭遇しただけで、精神魔法に侵されたようだった。
しかし、ミズトは何とも感じていなかった。
もちろん能力的にミズトが警戒するような相手は、この世界に存在しないのだが、そういうことではない。
そもそもミズトが魔王軍の接近に気づかなかったのは、彼らから強い悪意を感じなかったからだ。
さすがに善人とは言わないまでも、今までミズトが出会った悪人に比べれば、悪意は遥かに小さい。
ミズトから見れば、気性の荒い冒険者程度でしかなかった。
だいたいミズトは、迷惑を掛けられたり、自分へ敵意を向けられたりしなければ、何一つ興味はない。
『魔族』という種族名には少し驚いたが、すでにどうでもよくなっていた。
「さ、さすがミズトさん……。魔王軍と会ったというのに……落ち着いていますね……」
デイヴがミズトへの敬意を、なんとか言葉にした。
「いえ、初めて会ったので少し驚きました。見た目はモンスターっぽいところもありますが、そんなに怖くはなかったですね」
角や牙が生えている獣人だっているので、ミズトには特別な存在には見えなかった。
「怖くない……!? ははは……さすが過ぎて言うことが……」
デイヴはぺたんと座り込んでしまった。
「よ! ミズト! 先越されたみたいだな!」
その場の空気を壊すように、ウィル率いる『幻影の方舟』のパーティが追いついてきた。
「ウィルさん、お疲れ様です。思ったより差がつかなかったようですね」
連携力の上がった『裂空の槍』を見ていたミズトは、それが本音だった。
「ミズトって人! 俺たち『転移者』を舐めないでもらえるかな? たしかに『転生者』でレベルを50まで上げたのは凄いと思うけど、こっちはステータスも高くて、天使の加護持ちなんだ! そのうちあんたも追い抜くぜ!」
反応したのは『幻影の方舟』の一人だった。
『グレイガント大回廊』の入口で怖気づいていた様子は消え、随分と強気になっていた。
「まあまあ、同じ異界人同士なんだし、仲良くやろうぜ! ミズトだって悪気があって言ったわけじゃないんだしな!」
「はい……ウィルさんがそう言うなら……」
その異界人は、肩に手を置いてきたウィルに答えた。
(あれ?)
ミズトは、その異界人の態度以外にも変化に気づいた。
異界人に接するウィルからぎこちなさが消え、本当に親しみを込めて話しているように見えた。
さらに異界人である『幻影の方舟』メンバーからは、ウィルに対して敬意のようなものを感じる。
この数日で、しっかりと絆を築いたようだった。
【さすがウィルさんです】
(エデンさん……俺は何も言ってないが……?)
【安心してください。ミズトさんも負けていません】
(だから何も言ってないって……)
ミズトにとって、魔王軍なんかよりよほどエデンの方が疲れるのであった。




