静寂の山谷、魂の庭
晩秋の禁苑は、立ちこめる雲霧に包まれていた。遠くには幾重にも重なる山々がそびえ、その青々とした様子はこの世のものとは思えないほど美しい。都の郊外、静かな山谷に完成したばかりのこの庭園は、山の地形を活かして築かれ、引き込まれた水が池を満たしている。
侍女の小荷が、鈴を転がすような声で笑った。
「朝霧が立ちのぼる頃には、ここが人の世なのか、それとも仙人が住む秘境に迷い込んだのか、分からなくなってしまいそうですわ」
沈婉は、かすかに微笑んだ。山川のありのままの姿と、人の手による精巧な造作がひとつに溶け合い、これまでにないほど生き生きとした息吹を放っている。
夜が更けると、園内には灯火が赤々とともった。今日は主上から宴を賜った日で、席には長年蔵で眠っていた芳醇な酒が並んでいる。その香りは非常に強く、それでいて花木のような不思議な清香を漂わせていた。まるで山林の魂そのものを杯の中に溶かし込んだかのようだ。客たちは杯を交わし、華やかな衣の香りが漂うなか、誰もがこの庭園の見事さを語り合っていた。
沈婉は席に座り、月明かりと灯火がその身を照らしている。今日の彼女は淡い桃色の宮廷装束に身を包み、鬢には朝露をふくんだ芍薬の花を一輪挿していた。
庭園が完成して以来、至高の権威の象徴である龍紋の宮車が、頻繁に園の門前に姿を見せるようになった。車輪が青石板を踏みしめる音は、静まり返った山谷にひときわ鮮明に響く。
「この園内の景色はどれも瑞々しく素晴らしいが、沈殿の才知あふれる玲瓏な心には、到底及びもせぬな」
宴が終わり、沈婉は池のほとりに立ち、遠ざかってゆく宮車の赤い影をじっと見送っていた。
画像のURL:https://50514.mitemin.net/i1145658/




