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冥婚の契約妻と、『まだ俺は死んでない!』と言い張る幽霊な旦那様の一ヶ月  作者: 船田かう


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第17話 タルカイ石




 屋敷に帰ると、ちょうど伯爵夫人とミーシアが居たので、魔道具店の店主からリュシオンの遺作を譲ってもらった旨を報告した。


「おおー、すごー。モニカさん、やっぱり“持ってるー”!」


 ミーシアははしゃいでぱちん、ぱちんと手を叩いている。

 伯爵夫人は耳飾りをじっくりと眺め、またもや感極まっていた。


「あの、やはり奥様がお持ちになっていたほうが……」


 私が提案すると、夫人は静かに首を振った。耳飾りの小箱をテーブルに置き、私の方に押し返してくる。


「いいえ。これはモニカさんが持っていてあげて」


 食費三ヶ月分を所持するのをなんとか回避しようと、今度はミーシアに救いを求める視線を向けたが、ミーシアは興味なさそうにひらひらと手を振った。


「あたしも無理ー。見つかったらカレシにプチッと潰されちゃうー」


 そういえば、婚約者の愛が重すぎて、例え実の兄の形見だとしても、他の男性からの贈り物は御法度だと言っていたのを思い出した。


『あー、あいつ重力魔法得意だったな』


 潰されるのは耳飾りだろうか、それともそれを持ち込んだ私だろうか……。


「ねーねー、せっかくだからー、つけて見せてー」

「ええ、ぜひお願い、モニカさん」


 恐ろしい想像で内心震えていた私をよそに、ミーシアと夫人が盛り上がる。

 私は慎重に耳飾りを手に取って、身に着けた。


 着け心地は軽く、宝飾品に慣れていない私でもあまり違和感がない。

 首を動かすと、石と金具がちゃらちゃらと鳴る小さな音が聞こえて不思議な感覚だ。


「まぁ、本当によく似合うわね。まるで誂えたようだわ」

「あ、ありがとうございます……」

『フン、さすがお袋、わかってるじゃないか』


 喜ぶ夫人に、腕組みして頷いているリュシオン。

 あなたは私の何なんですか。


「にしてもー、そんなちっちゃいのー、よく見つけたねー。目立たないトコにあったんでしょー? あたしなら素通りしちゃうー」


 ミーシアに感心されて、私はこれを見つけた時のことを思い出して答えた。


「ええ、この石が気になって、思わず手にとってしまったんです」

「あー、タルカイ石ねー。キレイよねー」

「タルカイ石?」


 光の加減で水色から薄紅色に色が変わる、不思議な石。どうやら、この石にもきちんとした名前があったらしい。

 続けて、夫人が説明してくれた。


「タルカイ石は、媒介石の中でも最上級に性能がいい石よ。どんな魔法とも相性が良くて、魔道具に使えば高い効果を発揮できるわ」

『火でも水でもなんでもいけるが、時間魔法もこの石が一番使いやすい。何を作るにも悩まなくて済むのがイイな。見た目も綺麗だし』


 補足するように、リュシオンも同意する。

 作り手の選択肢として、重宝される石のようだ。


「でも、とても希少な石だから、ただの宝石として出回ることはなくて、ほとんど魔道具にしか使われていないの。一般にはあまり馴染みがない石ね」


 続いた夫人の言葉を聞いて、私は嫌な予感がした。


「そんなに珍しい石なのですか?」

「我が家の領地どころか、この大陸ではほぼ採れないわ。ここまで流れてきた物なら、物によっては金やダイヤモンドよりも価値があるわね」

「金より……!?」


 耳飾りの価値がさらに増してしまった気がして、私はまた震えた。首筋に鳥肌が立つ。

 今すぐ耳から外して箱に戻したい。なんならお店に返してきたい。


「それでは、私、勘違いでとんでもない物を手にとってしまったのですね……」

「勘違い?」


 石と同じくらい青くなってそう呟くと、夫人は首を傾げた。

 私は理由を話した。


「はい。私、これとそっくりな石を持っているのです。てっきり同じ石だと思って、あんなお店に置いてあるのが意外だったので、つい手にとってしまいました」

「え? そっくりな石?」


 夫人もミーシアも、興味があるのか身を乗り出した。


 この流れでは、実物を見せるしかないだろう。

 私は立ち襟のブラウスのボタンを緩めて、首にかけている色褪せた紐を手繰り寄せた。


「少々失礼します。いつもは邪魔になるので服の中に……はい、これです」


 引っ張り出して首から外し、手のひらに乗せて二人がよく見えるように差し出した。

 ソラマメほどの大きさのつるりとした石に穴を開けて、刺繍糸で編んだ紐を通しただけの、簡素なペンダントだ。

 ずっと身に着け続けていてすっかり古ぼけているので、高貴な人々の目に触れさせるのが恥ずかしいを通り越して申し訳ない。


 こうして見るとやはり石はそっくりだが、耳飾りの石は麦の粒ほどの大きさであの値段だった。

 特徴は似ているが、見る人が見れば、全くの別物なのだろう。そんな高級品を、私などが手に入れられるはずがない。


 夫人とミーシア、そしてリュシオンまで、食い入るように私の石を覗き込んでいる。

 やがて、夫人が顔を上げ、静かに口を開いた。


「モニカさん、この石は、どちらで?」


 なんだか迫力のある夫人の無表情に恐々としながら、私は答えた。


「ええと……地元の川に、たくさん落ちています。子どもたちが拾って遊ぶほど。水中だと透けて見つけにくくなるのが面白くて……。地元では“変わり石”と呼んでいます」


 きちんと説明したのに、三人とも無言の真顔で私の顔を凝視していた。

 なにか説明し足りないのだろうかと焦った私は、必死に考えて補足を加えた。


「こ、これは、私が子供の頃に、村の子に混じって近所の川で拾ったものです。もっと大きい石もあったのですが、一番形が気に入ったのを、母への贈り物にしようと思って……あ、ペンダントに仕立てたのは母です……すごく喜んでくれて……いつも肌身離さず持っていたいからって……」


 しどろもどろに余計なことまで話すが、誰も何も言わない。


 痛いほどの沈黙が場を満たした頃、やっとミーシアが口を開いた。


「ママ、鑑定」


 語尾が伸びていない……。


「そ、そうね、まずは確かめましょう。モニカさん、少しお借りしていいかしら」

「は、はい、どうぞ……」


 夫人は石を手に取ると、目を閉じて集中した。

 手のひらがぼんやりと発光し、石が淡い光を放つ。

 魔法だ。こんなに間近で見るのは初めてだった。


 やがて光が収まると、夫人はすっかり引きつった顔で呟いた。


「紛うことなき……タルカイ石だわ……」


 一拍の静寂の後、ミーシアは天井を仰ぎ、リュシオンは頭を抱えた。


「えぇーーーとぉーー……」

『待て待て待て待て……』


 私は頭の整理がつかず、途方に暮れるしかない。

 夫人が僅かに震える声で、私に確認した。


「何度も訊いてごめんなさい。本当に、この石が、たくさん……?」

「はい……“変わり石いくつ拾えるか競争”が我が領定番の遊びです……たくさんありすぎて集めても仕方ないので、遊び終わったらまた川に投げて戻しますけど……」


 とうとう夫人も顔を覆った。




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