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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第四章 文化祭
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文化祭 その2

「はいはい、あとやっとくからさっさと済ませてこい」

固まっている喜野に声をかけて、陽菜さんと一緒に先生に連れていってもらった。多分午前のシフトが終わるくらいには帰って来れるだろう。

喜野たちが出ていった途端、教室にざわめきが戻った。やはり話題は喜野らしい。王子様ではない素の喜野は女子たちを大いに驚かせた。

「あれ王子様!?」

「爽やかな感じも良かったけどあれはあれでいい!」

どうやら新たな一面ということでさらに人気が出そうだ。喜野の気苦労が増えそうだな……。

それからは色々憶測が飛んだりもしたが、王子様時代の貯金のおかげかそこまで尾ひれが着くことはなく沈静化した。

そして、午前のシフトが終わり自由時間がやってきた。喜野はギリギリで帰ってきていて、すごい申し訳なさそうな顔をしていた。


「どうしよ、誰と回るか決めてなかった」

喜野は陽菜さんと回るし、あの3人は全員午後からのシフトだし。あれ、そもそも相手がいなかったわ。

「ほらほら、今なら行けるって」

「ちょ、ええって別に!」

「取られる前に!ほらほら!」

「ちょっ……」

「うおっ…!?」

誰を誘おうか考えていたら、後ろから誰かがぶつかってきた。

「ってアネゴ?」

「あっいや、……あのさ、一ノ瀬はん、回る相手おる?」

「いないけど……」

気まずそうに質問してきたアネゴに違和感を覚えながらも答える。

「なら一緒に回らん?いつものメンバーがみんな午後シフトでおらんねん」

「別にいいぞ?」

「ホンマに!?助かるわ〜!」

同じ境遇の奴がいたらしい。

というわけで、アネゴと文化祭を回ることになった。



  □



それから、アネゴと2人で様々なお店を回った。お化け屋敷だったり、謎解きだったり。他にも3年の店でクレープなんかを買ったりした。

「そういやさ、一ノ瀬はんって2日目のキャンプファイヤーで蒼野はんと踊んの?」

クレープを食べながら、アネゴがそんなことを聞いてきた。

「あーそれなんだけどな、俺踊れないんよ」

「え?」

「実行委員な、最後に見回りとかしないといけないから踊れない」

そう、実はみんなが一喜一憂する文化祭のキャンプファイヤーに参加できないのだ。文化祭の実行委員という肩書きをこれほど呪った日は無い。おかげで渚と踊れなくなったのだから。

「あっら〜、それは災難やねぇ」

「こればっかりは仕方ない。みんなが楽しく踊ってるのを見ながら仕事します……」

「…………クレープいる?」

「ちょうだい……」

アネゴが自分が食べていたクレープを差し出してくる。その時は気づかなかったが、あとから考えたらこれ間接キス……。まぁアネゴもそんな気にしてなさそうだし気にする方がダメか。

『17時になりました。文化祭1日目を終了します』

「もうそんな時間か」

「はやいなぁ」

「明日はそっち午後だっけ?」

「せやな。そっちは午前やったな」

そんなことを言いながら、俺たちは自分たちの教室へと足を進めた。

その後、全員集合して、今日あったことなどの伝達や明日のシフトの確認なんかをした。特にあの盗撮犯のことは事細かに喜野から語られた。陽菜さんは気にしてないらしいが、恐らく喜野が我慢できてない。帰ったら満足するまで抱きしめるらしい。

みんなで帰っていると、喜野に言わなきゃいけないことがあったことを思い出した。

「あ、喜野」

「ん?」

「2日目のダンス、相手いる?」

その質問に何故か顔をしかめる喜野。もしかしなくてもあらぬ勘違いをされていないか?

「お前……そっちだったのか」

「違ぇよ!」

「いないけど。それがなんだよ」

「渚と踊ってやってくんね?」

俺の提案に「マジかお前」と言いたそうに、口を開いて驚いている。確かに俺の気持ちを知っている喜野からすればその反応も当たり前ではある。だが、そういう訳ではい。なんなら逆だ。

「俺実行委員の仕事で踊れないから、めちゃくちゃ群がられる者同士で組めばと思って」

「あ〜、そういうこと」

2人ともとてつもない人気を博しているため、絶対にダンスの前にとてつもない人が我先にと殺到するだろう。それなら利害の一致でその手を埋めておけばいい。

「私からもおねがーい!」

「まぁいいけど。というか俺に人来るか?午後に見せびらかしながら回ったのに」

そう、この男、自分の彼女をめちゃくちゃ見せびらかしたのだ。2人で食べ物をシェアしたり、あーんとかしたり、クラスのヤツらから聞いたところずっと恋人繋ぎだったらしい。が、それでも人気は落ち着かない。逆に人気が出たほどだ。

「なんかな、逆に増えてたぞ」

「なんでだよ」

「知らねぇよ。もう頑張れとしか言えん」

「お前に流れろよ」

「流れてこれなんだよ」

「流れてんのかよ」

「今日大変だったからな。会う度に誘われて。久しぶりだわこの感覚。しかも相手がいるとかじゃなくてそもそも踊れないから信じて貰えなかったりしたし」

アネゴと回ってる時にも道行く生徒たちからお誘いがきたのだが、踊れないものは仕方ないのだ。

「お前も苦労してんだな」

「お前ほどじゃない」

「「「……………………」」」

ふと、俺と喜野は他の3人が静かなことに気づいた。

「どうした?」

「「「仲良いなって」」」

その言葉に、2人して顔を見合わせ、笑った。

「「まぁな」」

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