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可惜夜(あたらよ)に君を想う  作者: ウエハース
第三章 恋の裏方と気付き
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移動中の一コマ

「八神さーん、あとどれくらいですか?」

「この渋滞だと、2時間くらいかな」

八神さんの車で揺られること2時間弱。本当はあと1時間ほどで到着の予定だったが、渋滞に引っかかってしまった。これを機にみんな遅めの朝ごはんを食べることになった。

運転している八神さんも隙をついて少しずつつまんでいる。助手席の人に食べさせてもらえばいいのに、なんて口が裂けても言えない。というか互いにその考えはあるようで、ソワソワしている。見てるだけで面白い。

「渚、それ1つちょうだい」

「いいよ。口開けて」

「ん」

渚が食べているお菓子が美味しそうだったので1つもらった。うん、美味い。

「2人とも、馴染みすぎじゃないか……?」

その光景を見た海瀬が、そう言ってくる。元はと言えばこいつらのせいなんだがな……。

「なんか、なぁ?」

「うん。ここまで来たら」

「「開き直った方がいいかと」」

「う、うん?」

恥ずかしいとか考えるくらいならもういっその事最大限楽しんでやろうとなったわけだ。

「まぁ2人とも楽しそうだからいいじゃん湊」

「まぁ……そう、だな」

若干理解しきれてない感じがするけど。

「八神さん、私たちって海の家でどのようなことをするんですか?」

「接客とキッチンで別れてもらうよ。女の子は接客で、男の子はキッチンかな。みんな可愛いからキッチンが悲鳴を上げそうな予感がするけどね」

「「え?」」

地獄が確定した男の子が信じられないという顔をしている。俺だけでなく、喜野も、3人の顔とスタイルの良さは痛いほど身に染みている。学校でもあんなに人気なのに、水着なったら、さらに……。恐らくとてつもない人がこの3人目当てに来店するだろう。そして注文が殺到し、キッチンが地獄と化す。想像しただけで嫌になる。

「一ノ瀬……」

「ああ、頑張ろうな……」

喜野も既に遠い目をしていた。

「いやぁ、ごめんね?私たちが可愛すぎて」

俺の膝の上で、渚が煽ってくる。俺は無言で保冷剤を取り出す。アイスを買った時に付いてきたやつ。そしてそれを渚の腹に。

「ひゃっ!ちょっと遥何それ!」

面白いように予想通りの反応をしてくれる。

「ムカついたからちょうどあった保冷剤を少しな」

「わ、悪かったから!ホントに冷たいからやめて!」

「よろしい。俺の上に乗っている間はこれ飛んでくるから気をつけるんだな」

「鬼……」

ふぅ、スッキリした。

「「………………」」

「どうした2人とも」

「「破廉恥……」」

「渚」

「承知」

手に持っていた保冷剤をそのまま投げ上げる。そしてそれを受け取った渚が海瀬と鈴名に保冷剤を握った手を伸ばす。見惚れるほどのスムーズさだ。

「ま、待て渚。待ってくれ」

「ちょっと考え直してよ渚っち。ね?」

急に標的が自分たちに変わって焦り散らかしてる。逃げようにもここは車内だ。逃げ場がない。けれどそんなこと知ったこっちゃない。

「GO」

「ラジャー」

「「やっやめ、ぎゃああああああああ!!!」」



「「────────」」

2人とも、保冷剤を何回も皮膚につけられて死んでいる。

「任務完了です。長官」

「よくやった」

「仲良いねぇみんな」

そんな風景を見て、八神さんが微笑みながらそう言った。

「喜野、仲間はずれにして悪かったな」

「別に大丈夫でーす。そっちで楽しんでろ」

「酷い目にあった……」

「まったくだ……」

お、復帰した。渚は相変わらず例のものを構えている。

「渚、ステイ。私たちが悪かったから。な?」

「……仕方ない、許してやろう。」

そう言って渚は保冷剤をゴミ袋に投げ入れた。ナイスコントロール。

「よかった……。渚っち怖かったよ〜」

「いやまぁあともう1個保冷剤俺のところにあるんだけど」

「「「!?」」」

もう1個の保冷剤を見せびらかすと3人が固まる。

「何が言いたいか分かるな?」

コクコクコク!と3人ともとてつもない速さで頷く。

「みんな〜そろそろ動くから掴まってね〜」

「「「「はーい」」」」

「ひゃっ!」

「あ」

人力シートベルトをしようとしたが、保冷剤を持っていたため、手が冷えていたらしい。

「………これは、すまん」

「はーるーかー!」

「あっちょ揺れるな!下の俺が死ぬから!ほんとに!悪かったって!」

「仲良いなお前ら」

「見てないで助けてくれない!?」

「助手席からは無理に決まってんだろ。大人しく諦めろ」

その後、渚の気が済むまで暴れられて、案の定俺はボロボロになった。


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