「決意」
教室の中、隼人は目を見開いていた。原因は彼の目の前にいる白峰揚羽の発言である。
「揚羽も参加するのか」
「うん! 私も前線で戦う!」
揚羽が戦闘に参加すると言い始めたのだ。
「分かっているのか。戦場はこの前の一件どころじゃない。山ほど忌獣と遭遇するぞ」
「分かっているよ。危険だって事くらい。でもいつまで怯えてはいられない」
揚羽の硬い意志が宿ったような眼差しが隼人を捉えた。そこにはいつもの快活で戯けた雰囲気は感じ取れなかった。
一人の戦士として戦場に向かう者の目だ。
「えっ! 揚羽ちゃん! 現場行くの? どーしよ。私も行こうかなー」
「俺も行こう。この前の一件であいつらの恐ろしさを思い出した。あんな思い。他の人にはして欲しくない」
「私も!」
「俺も!」
揚羽の周りに次々とクラスメイト達が集まっていく。隼人には大きな渦に巻き込まれていく魚群に見えた。
「白峰さん。気をつけて」
「ありがとう! 結巳ちゃん!」
明るい笑顔を作る揚羽。それとは対照的に結巳の表情には陰りが見えた。
「まさか、揚羽までもがな」
「ええ。クラスメイトから志願者が出てくるとは思っていたけど、いざ出てくると思う所があるわね」
ロビーの自販機の近くで隼人と結巳は缶ジュースに口をつけていた。
「おふくろさんとは連絡取れているのか?」
「ええ。今は実家の方にいるとの事よ。ほとぼりが冷めるまで表には顔を見せられないみたいだわ」
「そうか」
隼人は安堵した。彼自身、何度か顔合わせをして、話をした仲だ。結巳ほどではないにせよ情がある。
ふと近くを見ると人集りができていた。その視線の際には一枚のポスターがあった。学生達に出陣を促すポスターだ。
「お前、参加するか?」
「俺は行くよ。あの一件のせいで母ちゃんのトラウマが再発した」
「私も弟があの日以来、ショックで部屋に引きこもっている」
教室と同じく生徒達が志願を胸に言葉を交わして行く。
「文化祭が終わってたった数日で色々変わっちまったな」
「まさか、こんなに変わるなんてね」
結巳が寂しげな目でポスターに目を向ける。特待生ならともかく、普通の訓練生を戦場に向かわせるなど普通ではない。
しかし、今の対策本部は明らかに正気を失っている。文化祭の一件で恐怖を抱いた生徒がいる一方、かつての忌獣への怒りを過度に燃え上がらせた者や、復讐心を植えつけられた者もいる。
心に傷を負った生徒の大半が学校にいない中、校内にいる生徒のほとんどが出陣を志願する者達だ。
「そういえば、今日だったわね。兄さんの提案への返事。どうするの?」
「それはー内緒だ」
隼人は唇に指を添えて、笑みを浮かべた。
「何よ。それ」
「まあ、後からどうせ分かるからいいだろ?」
眉をひそめる結巳。その様子を観て、隼人はクスリと笑った。彼が選んだ選択。
それは対策本部からの離脱である。
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