「悪魔崇拝者達」
夕暮れのカフェ。隼人は結巳と無言で向かい合っていた。普段なら会話に花を咲かせるが状況が状況なだけあってあまり明るい話が出来ない。
「生前、お父様は忌獣の繁殖や信徒の増加を食い止めるので手一杯と言っていたけど、その意見が今、覆されようとしているわ」
結巳がため息交じりに言葉を口ずさんだ。歴史が変わろうとしている。おそらく彼女にはそんな気がしてならないのだ。
「この調子じゃ近いうちに『鳥籠』は壊滅して、忌獣もいなくなるかもな」
隼人の言う通り、忌獣と信者の数も激減しており、それに比例して忌獣や信徒からの被害も少なくなっている。
光の活躍はまさに神懸かり。破竹の勢いで敵を粛清し、アジトを次々と破壊していくなど、歴代首長の中でも異例の活躍ぶりを見せた。
しかし、方法は今までよりも遥かに残虐だ。構成員はなぶり殺し。または磔にして火炙りにするなど、中世ヨーロッパで行われていた処刑を目の当たりにしているようだった。
そこには倫理や道徳などはなく、あるのは計り知れない無数の憎悪と淀んだ正義感のみだ。構成員や忌獣達の阿鼻叫喚がその場に響き渡る。
怨敵が拷問のような苦しみを味わう姿を見て、戦闘員達は絶叫をかき消す勢いで狂ったように笑い声をあげる。
まるで罪人達を煮えたぎる釜の中に入れて、もがき苦しむ姿を嘲笑う地獄の鬼のようである。
「首長のやっている事はきっと間違ってない。けど、けどこんな方法が正しいと言えるのか?」
「松阪君」
隼人は憂いを帯びた濁った目で静かに拳を握った。認めたくなかった。自分達がしているのは善行なのだと、信じていたかった。
「こんな事言いたくないけど、あれは勧善懲悪を盾にした虐殺だ」
隼人の言葉に結巳が項垂れてながらも、首を縦に振る。
「世間は賛否両論ね。方法はかなり過激だけど忌獣と信徒の駆逐率は歴代首長の成果を遥かに上回っているから」
「このまま行くと戦いが本当に終わるかもな」
隼人は動揺を落ち着かせるため、コーヒーを流し込んだ。コーヒーのおかげか少し、高鳴っていた感情の波が引いた。
「松阪君。あれ」
結巳がある一点を指差した。目で追うとカフェに設置されていたテレビから聞き覚えのある声が流れた。
画面の向こうでは新首長が街中で街宣車の上でマイクを片手に立っている。
その周りにはいる有象無象の人々が彼の演説に耳を傾けていた。
「これまで忌獣の脅威に怯えて来た市民の皆様。どうかご安心ください! これまでとは違い、私は彼らを野放しにはいたしません。全ての忌獣をこの世界から駆逐して、平和な世界を目指します!」
光の高らかに演説を述べた後、人々の歓声が湧き上がった。
その後、コメンテーターや司会者達が光の一連の活動に対して、論議し始めた。
「新首長である聖堂寺光氏。飛ぶ鳥を落とす勢いで忌獣や信徒を捕らえており、アジトの発見率も非常に高いとの事です」
「さらに端正な顔立ちと若い見た目。女学生を中心に彼自身も高い人気を得ています」
液晶画面の向こうでは首長の顔写真を貼り付けた団扇を掲げる少女達が黄色い声を上げていた。
「ねえ。あれって最近、就任した対策本部の偉い人だよね」
「結構カッコイイかも」
「討伐数すげえ多いらしいな。てか忌獣ってこんなにたくさんいたんだな」
「でも殺した構成員や忌獣の動画を無修正でホームページに出すのはちょっとね」
カフェの中から様様な客の声が漂い始める。まさに賛否両論。
しかし、結果が重なっていけば否定意見も消滅する勢いなのは確かだ。組織の大多数は復讐の為なら悪魔に魂を売るような連中ばかりである。
彼らのやる気も伴って、肯定派は増えていくだろう。
その時、隼人の携帯に連絡が来た。内容を確認した時、彼の背筋を悪寒が駆け抜けた。
落ち着いた空気が漂う夜の首長室。隼人は新首長である聖堂寺光と向かい合っていた。
夕方。メールで対策本部から首長室に来るように呼び出しがあったのだ。内心凄まじい緊張感を覚えながらも、隼人は堂々と入室した。
「お呼びでしょうか。首長」
「こうしてお会いするのは初めてですね。松阪隼人君」
光が朗らかに微笑んだ。しかし、隼人は感づいていた。嘘の笑顔だ。何かを隠そうとするための貼り付けた仮面の笑み。
隼人は不快感を覚えたが、肺に力を込める事で抑えた。
「君の優秀な活躍はこの私の耳にも届いていますよ。偉大なお祖父様の意思を受け継ぎ、これからの対策本部を担う存在として私も心から期待しております」
「それはどうも」
「そこで一つ提案があります。他ならぬ君だからです」
「提案?」
隼人は思わず首をかしげた。
「松阪隼人君。貴方を対策本部の幹部に推薦します」
ありがとうございました!




