最終話 永遠の英雄(後編)
さぁ!二時間遅れてしまいましたが今日で最終回の後編!エピローグ?そんなものはありません。では、この小説の最終回の後編、最後の最後をお楽しみください!
―――――――――――――――【夏井視点】
ポトリ、とこめかみから汗が伝い、顎から地面へと落ちる。それでも尚体温は上がり続け、息が上がっているのを忘れるほどピン、と張り詰めた空気を浴び続け油断が一切出来ない。俺は【反転の魔剣 アリス】を強く握ると足に力を籠め駆ける。圧倒的な力の差を見せつけられ、屈した筈の魂が、もう一度といわんばかりに輝く。
「『ファイアジャベリン』!」
今や魔法は名称を叫び、魔力を供給するだけで展開できるようにまで成長した。爛々と焔によって輝く槍が十、二十、三十と増え、俺と並走する。俺は『ファイアジャベリン』を二つに分け、一つは残っている神獣フェンリルに向けて放ち、もう一つは新澤へと飛ばす。フェンリルは善戦していたが二十を超えたところで串刺しにし消滅した。新澤の方は新澤の放った『ファイアウォール』によって相殺された。そして下段から新澤を斬り伏せに掛かり、新澤はそれを剣で弾く。俺はその隙を見て叫んだ。
「ツクヨミ!」
俺の背後に潜んでいたメイド服に身を包んだメイドが俺の声に合わせ姿を現す。そのメイドの手には薙刀が携えられており、そのメイド――ツクヨミは横薙ぎに振るった。新澤はそれをも見抜いていたのか顔には未だ笑みが浮かんだままである。それを俺は確認し、俺も笑みを浮かべた。俺は右手と背中に魔力を練り、魔法を発動した。
「『陽炎』」
俺の背後に居た筈のツクヨミが消え、新澤の背後に姿を現す。それと同様に【アリス】の刀身が不可視になり、間合いが図れなくなった。
「チェック」
俺はそう、宣言した。刹那、新澤の身体がブレ、消える。その光景を目の当たりにした俺はコンマ数秒、思考が回らなくなった。戦闘中、この僅かな時間が命取りとなることは俺も心得てはいた。だが、実際未知を体験すると考えがまとまらなくなり、パニックになる。そんな経験を俺は一切しなかった。だからだ、このいくつか上がった新澤の動きから逸脱したこの現象に目を奪われたが為に背後から迫る魔の刃に気付くのが数コンマ遅れた。
「主!」
故に、ツクヨミが俺を押し飛ばした。刹那、ツクヨミの首が飛び、新澤の左腕が宙を舞った。その光景に目を疑った。何故ならツクヨミの首が飛んだ後に新澤の腕が飛んだからだ。その真意は今見た光景の中にあった。あれは奇跡だと明言できる、否定するのは本当に奇跡を見たことが無い者か奇跡を信じない者だ、俺はその後者に分類されるだろう、俺は奇跡を信じていなかった者だから。だが、そんな俺でも今は、奇跡が起きたと感じる。あの鋭い一閃にはツクヨミの全て、意思、能力の全てを以って放ったと言える。頭と身体が分離しようとも止められない、否、止まらない意思。それが俺を動かした。
「っち、クソがメイド如きに腕を飛ばされるとはな・・・」
悪態をつく新澤に一つ、ナイフを投げた。音速で飛ぶナイフを他所に、新澤は斬られた腕を見る。ナイフが地面に刺さり、其方へと新澤が視線を移した瞬間、新澤の胸から手が生えた――。
「――――え?」
俺はあまりの衝撃的な出来事に戦闘中であるのだが数秒、固まってしまった。生えた手に握られていたのは――新澤の物と考えられる臓器・・心臓だった。指は細く、きめ細かい白い肌。その手はまるで・・・・まるで少女の様で――新沢の倒れた先に居たのは・・・赤黒い血で濡れた手を突き出したままの妹――夏井菜々がいた。菜々は身軽そうな巫女装束で血の付いた指をペロリと舐めた。
「まっず!・・・物凄い不味いわ。・・・お兄様、御機嫌よう!半年ぶりですわね」
ニッコリとした笑みを浮かべた。その笑みには狂気が詰まっていた。ゾクリ、寒気がした。何か、得体の知れないモノと相対しているようで、気味が悪く、少しでも何か、行動を起こせば殺されるような威圧感。俺は無意識に一歩下がっていた。
「・・・・」
地球で話していた時の空気感ではなく、宿敵同士が町中で突然で会ったような空気感。菜々の腰にはいつか、何者かの神殿で手に入れた無名の聖剣。煌びやかな装飾が施されており、昔は名高い聖剣だったのだろう。菜々の手で金の鞘から聖剣が抜かれた。
「この剣の銘は【デュラス】、【聖剣デュラス】ですわ。そしてこの聖剣にはとある女神の御霊が封印されていまして、その女神の神名は災厄と災害の女神デュラス。つまりは――」
――昔のワタクシの名前ですわ。
その言葉に今まで感じていた不可解な神気に先程の寒気、そしてこの威圧感。全てがそれで噛み合った。うなじにピリリとひりつく感覚があり、そこから飛びのく。と、いつの間にか振り下ろされた剣は地面を抉り外殻の三分の一までが斬り裂かれていた。そしてそこから溢れ出すマグマに即座に菜々が真一文字に斬る。
「瘴剣型 十文字改」
真一文字の不可視の斬撃が俺に向かって飛んでくる、見えない。見えないが――感じる。
「【アリス】!」
ズズズッ・・・。意識と思考が加速し、視界が広がる。ゆっくりとした動作で【アリス】が斬撃に対してぶつかるコースで進む。バチリと視界の中央で火花が散り、加速と広がっていた視界が狭まった。【アリス】が確実に斬撃を斬り裂いたときには既に菜々は消え、菜々の居た場所には地面には先程手に握られていた剣ではなくごく普通の鉄剣が刺さっておりその刀身に映るのは、俺の背後で聖剣の掲げている菜々だった。再び意識と思考が加速、そして視界が広くなり【アリス】を振って聖剣を受ける。そして想定していたより重い一撃に歯を食いしばり軋む体を無理に動かし受け止める。視界と加速が元に戻り、菜々は早く鋭い剣戟で俺を圧倒する。その剣戟をいなし続けるがそれも、剣戟の一つ一つが重い。それをいなし続けるのは腕に更なる負担がかかり何れ動かなくなる危険性があった。そして、その腕の、いや、体の負担が動きを鈍らせたのか、防御が遅れ、斬り飛ばされた。俺の右腕が宙を舞い体が真横に飛ばされる。暗黒の地面を転がり、動きを止めた。ゲホゲホと吐血し立ち上がる。
「・・・お兄様は、何の為に立つのですか?お兄様の心の拠り所はもう既にいないではないですか。どうして、お兄様は・・貴方は、誰の為に戦い続けるのですか?」
「俺は・・・」
その菜々の問いを、俺は一度考えたことがあった。ユキノが死んだ後の事だ、俺はその時に出した答えを胸を張って言う。
「俺は、俺を助けてくれた人たちに顔向けが出来るように、そして・・・俺の為に命を犠牲にしたユキノの為に、戦うんだ!」
残った左手でストレージから【トリニティア】を取り出して魔力を通す。全身を光が包み、鎧を形作る。
「『魔装、トリニティ』」
暗黒の鎧を纏い、剣には漆黒の焔が包む。初めて使った【トリニティア】の固有能力、『魔装』。体に馴染むこの鎧はまるでずっと装備していたような感覚だ。湧き上がる力を使い魔法を形成する。
「『魔導収束砲クレパリオン』」
白色の魔法陣が一瞬で形成され、巨大な魔力砲が発射された。菜々は刀身の見えない速度で聖剣を振り、『クレパリオン』を斬り刻み消し去る。俺は続けて魔法陣を数枚配置して放つ。菜々は先程『クレパリオン』を斬り刻んだ速度よりも早く全てを斬り刻んだ。
「お兄様、もう無駄です。その魔法は読み切りました」
スパパパと『クレパリオン』を斬り裂く菜々は徐々に俺との距離を縮めていく。俺は無意識にギリッと歯軋りをして、新しく魔力を練り上げ魔法を発動する。
「『アクセラレイト』、『世界の絶対』」
自身にバフを掛け、世界魔法を発動する。この世界魔法は〈必中〉を付与する付与魔法に属する魔法で、基本は槍などの投擲武器に付与するものなのだが俺は【トリニティア】に付与した。『アクセラレイト』とはその名の通り自身に移動速度上昇の効果を齎す魔法だ。腰のベルトから隠しナイフを二本菜々めがけて投げ、駆ける。菜々はナイフを弾かなかった、何故ならその二本のナイフは菜々に当たる飛翔ルートではなかったのだから。二本のナイフは菜々の左右に分かれ、そのまま飛翔を続け、菜々の真横にナイフが来ると同時に『縮地』を発動した。俺の視界が一気に切り替わり菜々の顔が一メートルに近付いていた。菜々の顔には驚愕の色が浮かび、後ろに飛ぶ。俺は菜々が完全に間合いから出る前に【トリニティア】を振った。刃は菜々の腹を裂き、両断するかに思われたが、突然【トリニティア】の刀身が腹の丁度中央で九十度向きを変え心臓に向かって斬り上げ始めた。そして菜々を真っ二つ――とはいかないものの、右上半身の全てが消し飛んだ。
これが【トリニティア】に〈必中〉の魔法を付与した理由である。この〈必中〉とは心臓を必ず射抜くという効果であり、剣に付与すると先程起こった現象のように不自然な斬り方をするのだ。右半身の消し飛んだ菜々の遺体を見つめ、剣を握り直す。
「・・・用心深いお兄様ですね」
右上半身を失ったはずの菜々が腕を使わずにスーッと立ち上がる。あまりにおかしな動きに警戒レベルを更に引き上げる。カタカタと菜々の体が振動をはじめ、欠損していた右上半身から赤黒い血と鮮やかなピンク色の肉が盛り上がるようにして増殖を続ける。
「クリーチャーかよお前は・・!」
特撮の悪役のように相手が変身するまで待つ、という事はしない。
「『世界魔法完全開放』『禁忌の世界魔法』『世界武装展開』」
『世界魔法完全開放』は世界魔法にかけられたリミッターを解除する魔法でこれを発動すると魔力が三分の二持っていかれるので発動したのは片手で数え切れるくらいしかない。大して『禁忌の世界魔法』は次に発動する世界魔法の威力と数、そして範囲を増加させる所謂チートを更にチート化させるチート。
『世界武装展開』はこの世界に存在しうる武具全てを投影し存在ごと虚空に作り上げる魔法。簡単に言えば『剣製』の上位互換とも言える、が耐久が心もとない。
無数の剣や槍、バトルアックスや銃が宙に現れ刃が、銃口が、切っ先が、全て菜々へと向けられる。宙に浮かぶ無数の武器に菜々は目を見開き唾を飲む。
「こ、こんな魔法をお兄様は・・・いいです!いいですよ!!お兄様!!!さぁ、殺し愛いを始めましょう!!!!!」
ニヤリと口角をあげ怪しい紫の神気を聖剣に纏わせ此方に駆ける。俺は右腕を左肩へ寄せると、薙ぎ払うようにして腕を振った。その動きに合わせ、無数の武器が菜々へ向けて飛翔する。この光景は宛ら、『神々の黄昏』だ。飛翔する武器を一つ一つ聖剣で斬り落としながら着実に距離を詰めてくる菜々。その剣戟は刀身が見えない速度で振るわれ、斬り伏せられた武器は例外なく粉砕され、魔力へと変換される。確実に底が見える魔力を両手に集め、集中する。
「お兄様、私を忘れないで、よっ!」
聖剣に纏いつく神気を聖剣を振って此方へ飛ばす。それも無数にある武器の一つがその神気を断ち斬り、地面に突き刺さった。両手の間に小さな魔力の塊が浮き、紅く、黄金に輝く。そしてその魔力が剣を形作り、轟、と燃える。その剣の切っ先を空に掲げ叫んだ。
「『神の秘剣』!!!」
黄金の炎の剣と共に黄金の焔が空に色を付ける。黄金に輝く炎は伝説の霊鳥、フェニクスの纏う炎のようだった。黄金の剣は地面を割り、黄金の炎を一直線に放出する。菜々は黄金の炎に見とれたまま、炎の中へと消えた。掌を黄金の炎で焼かれた鋭い痛みが走り、痛みを我慢をするように歯を食いしばる。
「・・・『回復』」
掌に回復魔法を使ったことで、魔力が底を着いた。ガクリと膝を着き、口に溜まった血を地面に吐く。荒い呼吸が音も無い荒野に響き、戦いが終わった事を物語る。
「・・・・遂に、終わった。。終わったよ――」
―――ユキノ。
そう呟いた刹那、菜々の死体が――菜々が聖剣を軸に立ち上がる姿はまるで満身創痍のようで、よろよろと立ち上がった。
「お兄様・・・詰めが、甘いわよ・・・・この勝負、、私の勝ち。。ね。」
聖剣を掲げ、致命傷を喰らっているのだが、不敵に、美しく、微笑んだ。
ふと・・・心の奥底で、、何かが燃え上がった。。久しく忘れていたような、昔の日々が、、ユキノの姿が、一筋の光が現れ、俺の視界を一瞬閉ざした。暗い空間に一つ、輝く道が一直線に続き、その先に人影がぽつりと見えた。目を凝らし、人影の正体を見る為、その輝く道を辿り、その正体が判明した刹那。俺の目から一筋の涙が頬を伝って落ちた。それは正しく、自身の望んだ、夏井楓真の恋焦がれた女・・・
「・・・ユキ、、ノ・・・一体、どうして・・」
不意に、無意識に、不可解に、その言葉をその幻影――ユキノに対して言ってしまったのだろう。まるで、ユキノがそう、言ってもらうように俺の体を操作したかのように。ユキノはただ一言、俺に向けて言い放った。
「叫びなさい。私がかけた、魔法の言葉を。そして、私を、いえ。私達を使って、敵を―――撃ち滅ぼしなさい。これが、妻である私の、最初で最後のおねだりよ。さぁ、叫びなさい」
俺は空気を肺いっぱいに吸い込み、両手を天に掲げ、ユキノと声を揃え、目を見開き、言い放つ。両手には確かに剣の、使い慣れ、愛用した剣の柄の感触があった。
「「『堕ちし神、幻想とは最凶たるこの世界なり』!!!!」」
ここにはない筈の漆黒の剣に俺自身の神気と、それを優しく包む暖かい魔力が纏い、振り下ろされた。その日、『世界』は――否。この次元は跡形もなく、漆黒に染まった―――。
気が付くと俺はだだっ広い平原にいた。何故だろうか、ここは心が物凄く落ち着いた。此処に留まりたい。そんな気持ちが生まれ、、何分だろう、何時間だろう。時が流れふと目を覚ますと、視線の先に花畑が見えた。そこにはユキノや神剣、そして淺野やクラスメイトの数名が楽しく花畑を駆けていた。
「おーい!ユキノ!皆ー!」
俺は立ち上がり、ユキノ達に向かって手を振りながら花畑へと走る。ユキノ達も俺に手を振り返しニコニコと微笑んでいた。そして俺が花畑に足を踏み入れようとした瞬間、ユキノが突然俺を突き飛ばした。まるで、此方に来ることを拒んでいるかのように。そして俺は気が付いた。魔法が、使えないということを。そして全てを理解した。俺をユキノ達が拒んだ理由を、そして俺が魔法を使えず、ただの平原にいる理由さえも。だからこそ、俺はユキノ達の拒絶を無視し、花畑へ足を踏み入れた。
「これで、みんなで楽しく暮らせるだろう?」
その一言がこの花畑に響き、風が花びらを舞い上げた。
―Fin―
このエンディングは作者の納得がいくエンディングとなっています。読者の皆様は何か引っかかっているか、物足りないかしているかもしれません。申しわけないです。
さて、それでは神薙リンシアの次回作にご期待ください。二年ちょっとお付き合いいただき、ありがとうございました!!!




