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二十話 生還

 暗い。

 息が出来ない。

 身体は固まり、身動きが取れない。


 目を開けているのか、呼吸はしているのか、身体は動いているのか。


 そのどれもがわからないまま、ただひたすらに時が経つ。


 苦しくはなかった。

 しかし、なぜこうなったのかは思い出せない。自分が誰なのかも分からない。ただわかるのは、気を抜けば意識を持っていかれそうになるということ。


 僕は──いや、私だったか。まぁいい。どちらが正しいかなんて、今は些細な問題でしかない。


 誰かの声が頭に響く。


 強くなれと。


 まるで呪いのように付いて離れない言葉。


 なぜ? もはや強くなる意味はない。

 これ以上何を望むというんだ?


 そもそも──『私』とは誰なんだ?


 世界が変わる。

 いや、記憶の幻が来たというべきか。


 これは……一人の少年の記憶だ。


 力なき少年は、力を求めて家を出た。

 様々なことに巻き込まれた。死にそうになった時もあった。

 それでも諦めきれず、何千、何万、数えられないほどに木の枝で素振りをした。


 皆に笑われながらも、諦めず立ち上がった一人の少年の記憶。


 これは……『僕』……いや……『私』か……?


 その少年と目が合った。


 その青い瞳は、何が見えているのか。


 そして──幻に亀裂が入り、光が身体を包み込む。


 鋭い光に思わず目を瞑る。

 痛みが引く頃、ゆっくりと瞼を持ち上げると、そこには見知らぬ白い空が広がっていた。


 背中には柔らかい感触があり、まるで羽毛の上に寝転がっているかのようであった。天国があるならば、こういう世界なのだろうかと考えて、ふと気が付く。

 私が──いや、僕が見ていた空がただの天井であることに。

  

 僕は身体を起こす。自分が寝ていた場所がベッドである事を確認してから、辺りを見渡した。


 見知らぬ光景、見知らぬ部屋。物はあまり置いていないが、村長の家よりも丈夫で豪華そうに見える。


 次に窓を探す。窓自体は見つからなかったが、恐らく窓があるであろう場所にはカーテンが閉められている。外の様子は確認できないが、下から漏れる太陽光から外はまだ明るい事が伺えた。


 最後にドアだ。僕の向かい側付近にあり、そこは木製のドアになっている。


「ここは……何処だ──ぐっ!」


 頭に殴られたような痛みが走る。

 自分の身体に目を向けてみると、白い布がぐるぐると身体に巻かれていた。


 何が起きたんだ……?


 そんな事を考えているとガチャリという音が鳴り、ドアが開く。そこから現れたのは、これまた見たことない服装をした男の人だ。

 金の髪は長く、後ろで結んでいる。黒色の服、その胸元にはふさふさの羽毛が付いており、下には白い服が見えている。


 僕が身に着けていた粗末な服とは違い、ほつれ一つない綺麗な服だった。ズボンも黒を基調とした高級そうなズボンだ。


 そんな男は鼻歌混じりにドアを閉めると、数歩歩いた所で僕と目が合った。しばらく目をパチクリとさせたあと、慌てた様子で何処かに行ってしまう。


「なんだったんだ……?」


 そんな事を思っていると、またすぐにドアが開いた。

 そこからは数えるのが億劫になるくらいの人が雪崩のように入り込んできた。

 広い部屋が狭く感じるくらいの人が入った所で、人の雪崩は落ち着きを見せる。

 僕の事を見た人達の反応はそれぞれだった。


「おぉ、本当に目が覚めたのか……」


「これが噂の……」


「ちゃんと生きてたのか……」


 珍しい動物でも見るような目で見られるこの状況。村では慣れたものだったが、心地よいものではない。


 僕が対応に困っていた所に、先ほど最初に入ってきた男が僕の前に立った。その男は満面の笑みを浮かべ親指を立てる。


「おはよう、少年。いい夢は見れたかな?」


 無駄にいい声で話す男は反応のない僕を見て首を傾げると、僕の頬をぺちぺちと叩き始める。


「これ起きてるよな?」


「……起きてます」


「おぉ! やっぱそうだよな! ほらテル! 言っただろ起きてるって!」


 そう言って男が目を向けた先にいるのは青髪の男だ。金髪の男も若く見えるが、青髪の男はさらに若く見える。僕よりも五歳くらい上の人だろうか。


 青髪の男──テルと呼ばれた男は、ハイハイと面倒くさそうに相槌を打つ。 


「テルじゃなくてテムです。そろそろモラハラで大団長に訴えますよ」


「おいおい冗談だって。アイツからは一週間前に小言を言われたばっかりだしチクるのはやめてくれ……」


 どうやらテルではなくテムという名前らしい。

 そんなやり取りを傍観していると、金髪の男は僕のほうを向いて「ごめんごめん」と笑いながら謝る。


「君が目を覚ましたのが嬉しくてついテンションが外れちまった。俺の名前はオルカ・ミレニアムだ。気軽にオルカって呼んでくれ」


「オルカ……さん。分かりました」


「それで、君の名前はなんだい?」


「僕……の……名前…………?」


 あれ……。

 おかしいな……。



 ──僕の名前って、何だったっけ。


話は一度、ここで一段落です。

次からは街編、ついに本編が始まります。

『私』の記憶に呑まれ始めた少年は、何を目指し、何を得るのか。

ヒロインとの出会いで何を得て、何を失うのか。

騎士団との関係はどうなるのか。


ここから更新が毎日更新ではなくなります。

話のストックがあるとはいえ、暫く準備期間として書き溜めるつもりです。

おそらく週1の更新になると思います。


よろしくお願いいたします。


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