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十九話 騎士団の到着


「団長、集落を発見しました」


 森の中を調査していたオルカの元に、一人の団員が駆け寄り報告する。


「わかった。集落は無事だったか?」


「いえ……それは……」


「あぁ──言わなくていい。すぐに向かおう」


 白銀の甲冑の中は汗でびしょびしょになり不快感がオルカを襲う。しかしそんなことで足を止めるわけにはいかなかったオルカは足早に報告のあった場所へと向かう。


 やがて辿り着いた場所は、結構な広さが開拓された集落であった。およその人数でいうと、ざっと百人程度ならばこの集落に住めることだろう。

 しかしその集落も、今はもはや原型をとどめていたなかった。黒く燃え尽きた家屋だったものが殆どで、無事な建造物は見当たらない。そして見るも無残な死体も──悲しいことに、そこらに転がっていた。


「団長! お待ちしておりました!」


 また別の団員がオルカの元に駆け寄ってくる。

 オルカはしばし集落の悲惨な現状を見回したのちに、団員の方へと顔を向けた。


「これは魔物の仕業か?」


「はい、家屋の倒壊は魔物によるものだと推測されます。しかし出火の原因はまだ掴めておりません」


「そうか。魔力の残滓から見ても……これは人間による意図的な放火だな。魔物襲撃の混乱に乗じて燃やしたんだろう。なんの意図があったかは知らないが」


「それと、団長に見てほしいものがあります」


「ん、なんだ?」


 妙にたどたどしい団員に不信感を覚えながらも、団員の後ろを付いていく。そうして着いた場所は、集落からちょっと離れた森の中であった。


「ここです」


 そういって団員が指すそこには、木々をなぎ倒し、血だらけになった魔物の姿がある。

 その姿を見たオルカは目を大きく開いた。


「グリフォン…………!?」


 姿を見てなおも信じられないとオルカは暫く固まった。そして何とか絞り出して出した言葉が──


「まじか……」


 この一言である。


 ──グリフォン。

 滅多に人里に姿を現さない幻ともいえる魔物。

 自身の体格と同等かそれ以上の黄金色の翼を持ち、鳥類でありながらも四足歩行をする鳥型の魔物だ。

 問題はその強さである。グリフォンは小さな街一つ程度ならば滅ぼす事が出来るとさえ言われる魔物なのだ。

 それが今、死体となって発見された。


(目の損傷……この傷は……切り傷か。大剣のような大きな刃物で叩きつけた時に出来る傷……。でも死因はそれじゃない。腹を抉った風魔法……それが死因だ)


 しかし不明な点が一つある。

 魔物が残す魔力の残滓、そして人が残す魔力の残滓。それらは特徴が違うため一目で判別がつく。


(なぜ一つしかないんだ……?)


 そう、それはまるで、自分が撃った魔法が跳ね返されたかのような状態であった。だがオルカが知る限り、そんな魔法や道具はまだ開発されていない。


(この集落がグリフォンに襲われたのは間違いない。だが誰が殺したんだ? それも、魔力を使わずにグリフォンに勝ったとでもいうのか?)


 現実的にありえない事が、今目の前に広がっている。

 これが魔物同士の縄張り争いならば、もっと被害は大きい筈だ。


 オルカは思い返す。

 それは、木々が無茶苦茶に倒されたあの場所のことだ。

 そして、そこに残っていた小さな足跡。


「子どもがやった……のか……?」


 しかし、そんな突飛な考えでないと説明がつかない。

 この不可解な状況に頭を抱えていたオルカだったが、そこに団員たちが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「団長! 生存者がいますッ!」

「なっ……」


 まさかこの惨状で生存者が居るとは思っていなかったオルカは一瞬思考に空白が生じるが、すぐに立て直して団員に指示を出す。


「すぐに保護しろ。怪我をしている場合は応急手当を忘れるなよ。治癒魔法が使える団員はいるか? いるならすぐに取りかかれ。俺もすぐに向かおう」


 それは、また集落のはずれのところであった。

 隠れていたのだろうか。目立たぬ場所の草むらに倒れているのは一人の少年だった。褪せた白髪はもはや腰にかかるほどまで伸びている。身体は少し痩せ型であるが、筋肉はあるように見える。

 今は団員に囲まれ、応急手当を受けているところだった。


「状態はどうだ?」


「はい、見た目以上の傷です。腕の筋肉は裂け、骨も折れています。その他にも助骨も何本かと、この様子だと内臓もやられている可能性があります。あと、ミミックフロッグの毒らしきものもあります。正直、生きているのが奇跡なくらいです」


「そうか。絶対に死なせるなよ。この件について何か知っている可能性が高い」


「了解」


 そんなオルカだったが、一つの違和感に気付く。それは他の団員も同じようで、この場に緊張感が漂い始める。


「治癒魔法……効果出てるか?」


「は、はい。さっきからずっと掛けてはいます……。折れた骨までは無理でも、出血程度なら治せるはずなんですが……」


「速度は個人差があるが……まさか……」


 オルカは治癒魔法を掛けていた団員を少々強引に退かせると、その手を取って目を瞑る。

 そうして少ししてから、オルカはやはりそうかと冷や汗を流す。


「魔力欠乏症だ」


「なっ……!?」


 団員たちの動揺で場がざわつき始める。

 治癒魔法とは、対象の身体に魔力を流し込み、魔力による治癒力を更に促進させることによって回復させる魔法である。故に、対象にそもそも魔力が無い場合には効果が無いのだ。

 オルカは考える。

 治癒魔法は使えない。かと言ってこのまま放置すれば、最悪過度な出血によって死んでしまう。特に彼は子どもだ。出血していい血の量も大人より少ない。

 せめて街に戻れば、適切な処置ができる。しかしここから街に戻るにはあまりにも時間が掛かり過ぎる。 


 時間は限られている。


「帰還のスクロールを使う。調査に出ている団員をここに連れ戻してくれ」


「えっ!? 調査がまだ終わっていませんがよろしいのですか!?」


「調査なんて後で何時でもできる。集落の弔いもな。他の生存者がいる可能性も低い。ここをどれだけ調査しようと予想にしかならないが、この少年から出る言葉は事実になり得る。分かったらさっさと呼んできてくれ。時間が惜しい」


「は、はい!」


 普段はお気楽な口調で話すオルカだが、今はいつにもなく真剣な面持ちで話している。その本気度が伝わったのか、団員達は手分けをして集落の調査をしていた者達を呼び戻しに行った。


(魔力のない少年……か……)


 浅い呼吸を繰り返す少年を視界に入れながら、しばしオルカは思考にふけった。


(……いや、まさかな)


 ▽

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