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11.ファナン視点

魔王を倒す者が勇者。

その逆は?

 

「どういう事よ!?」

「断罪だぁ!? ざけんな!」

「ありえないの!」

「アタクシ達がぁ! 裁かれるぅ! 覚えはぁ! ありませんわぁ!」


 大声で叫べば、皇帝とオリーブは煩いとばかりに耳を塞いだ。それがまた、火に油を注ぐ。

 叫び続けるファナン達だが、無駄だと分かって無言で睨みつける。騎士達が不敬だと騒ぐが、知ったことではない。




「やっと落ち着いたか……まるで獣だな。いや、獣だからこそ、このような所業ができるのだろうな」


 呆れた皇帝が大臣から書類を受け取る。それをペラペラと捲りながら、眉をひそめた。


「自分より年下の少女へ、数ヶ月に渡る暴行。爪を剥がし、指を切り、内蔵を引きずり出し、眼球を抉り、焼けた鉄杭やガラス片を挿入……これが一部に過ぎないとは、なんとも恐ろしい。仮にも『勇者パーティー』を名乗る者がする所業ではない」

「何が悪いのよ! その女はオリーブを惑わす魔物だったのよ!?」

「例え魔物だろうと、ここまでいたぶる必要はなかろう」

「でもぉ、それがぁ、」

「まだ何かほざく気か。ここに立派な証拠があるというのに」


 皇帝は冷ややかな目でファナン達を見下ろす。


「この書類はな、貴様らの味方をしていた神官が、懺悔と共に提出したのだ」

「はっ?」

「奴らが加担していたのは、偏に『勇者パーティー』だからだ。違うとわかった途端に、掌返しで上司に媚びたらしいぞ?」

「ちょっと!? あたい達が『勇者パーティー』よ!? 何を言ってんの!?」


 皇帝を疑う言葉に、騎士達が殺気立つ。それでも、今の発言は抗議するしかない。




 女神の神託で選ばれたのは、間違いなく自分達。

『勇者パーティー』は自分達なのだ。




 吠えるファナン達に皇帝は呆れつつ合図を出す。すると、案内してきた神官がファナン達の前に立ち一礼した。


「心中お察し致します。何せ、私共も初めての事態に戸惑い、司教様を中心とした話し合いがございましたので」

「意味わっかんねぇよ!」

「そちらの修道女なら、その部分の教義をここで言えますよね?」

「当たり前ですわぁ」


 小首を傾げながら問いかける神官に、むしろその場にいる全員に聞こえるようにミズリーナが述べる。






 我らを慈しむ女神は、巨悪に対する力を持つ者を指し示す。

 その者達、女神に応え、巨悪を倒すべく立ち上がる。

 巨悪を倒せし者、それ即ち、女神の使命を果たせし者。

『勇者』を名乗る事を認める。






「あ……!」


 言い終えたミズリーナは、小さく声を上げた。何かに気づいたようだ。そのまま顔色を青くし、震え始める。

 声を掛けても、杖を強く握りしめて返事をしない。


 一体、なんだと言うのだ。先程の教義とやらが原因だろう。その内容をゆっくりと自分の中で繰り返す。



 そして、ファナンも気づいてしまった。




「魔王級を倒した奴が、勇者を名乗れる……?」




 矛盾点を口にすれば、ララもわかったらしい。唯一分からないビリィが騒ぐが、心臓の痛みでそれどころでは無い。

 否定したいのに、体は理解しきってしまっている。それを見た神官が、首を縦に振った。


「そう。長い年月の中で、順序が変わっておりました。本来であれば、神託に選ばれた者が魔王級を倒して初めて『勇者』、『勇者パーティー』と呼べるのです」

「だが、貴様らは選ばれたものの、魔王級討伐に参加すらしていない。その上、討伐の証を持ってきた者が、そいつらの断罪を望んだ。全く、今回は異常事態が多すぎる」


 神官の言葉に続き、皇帝が疲れた様子で口を挟んだ。

 丁寧な説明で、ビリィもようやく理解したようだ。静まり返った部屋で、権力者と女神教代表の声がやけに響く。


「ここまでの道のり、長いとは思わなかったのか? 通常、ルイドンからはこの城までは馬車で一週間だ」

「時間を稼いでいる間に、審議をしていました。少女の件と、神託後の貴方達の行動を吟味した結果、『勇者パーティー』の名誉を破棄させて頂きました。貴方達は神託に選ばれたけれども、何も無いただの冒険者です」

「う、嘘よ……!」

「加えて、英雄の希望通りに断罪する。貴様らの所業は正に悪魔そのもの。よって、死刑である」


 ひゅっと喉がなった。畳み掛けるように告げられた事実に、処理が追いつかない。

 ただ、最後だけははっきりと認識してしまった。




 死刑。すなわち、死。




「嫌よ! 死にたくない!」

「あ、ああ……!」

「おかしいの! 一人だけで死刑だなんて!」

「今までのオレ達の功績を考えろよ!?」

「無駄ですよ」


 穏やかな、それでいて圧のある声色。話を聞いていたオリーブの声だ。


 オリーブなら、助けてくれる。


 そう信じて見れば、先程と変わらぬ冷笑でファナン達を見下ろしていた。


「数ある国から、ニースチェン皇国を選んで漆黒のオーブを献上しました。その理由、わかりますか?」

「な、に……?」

「刑法が厳しいからですよ」




 全てを凍てつかせる瞳で、抑揚のない話し方で続ける。




「悪質な殺人は一人でも死刑。それも、被害者の悲しみを背負わせるという意味で、()()()()()()()()()()()()()()()。それまでは死なないよう、きちんと管理してくれるらしいです。なので、安心して()()()()()()()()


 にっこりと、目を細めて微笑む。心からの微笑みに、ファナン達は恐怖しか感じない。

 数ヶ月に渡っていたぶった記憶が蘇る。



 あれを、自分が受ける。

 受け入れられるはずがない。



「牢へ連れて行け」

「いやぁああああああああぁぁぁ!」

「離せっ、離せぇっ!」

「オリーブ! 許してなの!」

「女神様ぁ……お救いをぉ……!」


 皇帝の無慈悲な命令に足掻くが、多くの騎士に囲まれた状態では分が悪かった。

 あっという間に拘束され、手荒に連れ出される。




「絶望しましたね。その顔が見たかったのです」




 満面の笑みで吐き捨てられた言葉が、強く耳に残った。


目には目を、歯には歯を。

痛みには痛みを。

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