10.ファナン視点
じわじわざまぁ回
「あーもう! どうなってるのよ!」
叫んだ所で、何もならないと分かっている。
冷静に意見を出し合うべきだが、限界を超えた苛立ちはそう簡単に落ち着くはずがない。
ファナンは爪を噛み、ビリィは枕に八つ当たり。
ララはぶすくれた顔で足をばたつかせ、ミズリーナは眉間に皺を寄せている。
そうしてどれ程の時間が経っただろうか。
枕が破けて中の羽が飛び出した頃、唯一頭を巡らせていたミズリーナが口を開いた。
「ニースチェンへぇ、行きましょうぉ。まずはぁ、噂の真偽とぉ、それをしたぁ、相手をぉ、確認しないとぉ」
至極真っ当な意見だ。怒りのあまりに見失っていた考え。アイコンタクトで頷きあっていると、扉のノック音が響いた。
ニースチェン皇国は、ルイドンがある国から少し離れている。
お陰で、ファナン達が皇国へたどり着くまで二週間も馬車移動だった。
ミズリーナの提案後、部屋を訪れた神官達。皇国から遣わされた彼らは、ファナン達を皇帝の元まで来るように伝えた。正に渡りに船である。
周辺国の中でも豊かな皇国の王都は、ファナン達がメインで動いていた国よりも賑やかだ。
特に、自国ではあまり見なかった亜人も多い。笑うエルフの姿を馬車から眺めながら、失った美しい男を思う。
しかし、代わりの男を探すよりも名誉を取り戻す方が先だ。
城内で馬車を降り、神官と騎士の案内で玉座へ向かう。漆黒のオーブを提出した冒険者もいるという話だ。
大嘘つきをどのように糾弾しようか。色々と言葉を思い浮かべる内に、玉座への扉が開く。
頭を下げ、一番弁が立つミズリーナが口上を告げる。
「失礼します皇帝様ぁ。アタクシ達がぁ」
「『勇者パーティー』でしたね」
ミズリーナの声を遮る、冷たい声色。聞き覚えのある声に、思わず全員が顔を上げた。
死んだはずのオリーブが、王族達の前に立っている。
許可なく面を上げた四人に、大臣らしき人が声を荒らげる。しかし、四人にはオリーブしか目に入らない。歓喜で涙が溢れてくる。
「オリーブ!」
「生きてたんだな!?」
「嬉しいの!」
「オリーブ様ぁ!」
歓喜のあまりに駆け寄ろうとする。だが、室内の騎士達が槍を交わして道を閉ざした。
邪魔する騎士を睨む間に、皇帝が口を開く。
「貴様らがオリーブ殿に近づく権利はない」
「は!? どういう事だ!?」
「口を慎め!」
ビリィが反論した瞬間に、騎士の一人が大声で制した。一瞬で殺気が滲みだし、ビリィ含めて四人は口を閉じるしか出来ない。流石に、皇帝の前て暴れる程の無遠慮さはない。
目を合わせ、互いに頷く。そして、ミズリーナが声を出した。
「皇帝様。そちらにいらっしゃるオリーブは、アタクシ達のパーティーメンバーでございます。近づく権利とはどういう意味でしょうか?」
「オリーブ殿の希望だ」
意味がわからない。困惑したままオリーブを見た瞬間に、目を丸くした。オリーブがこちらを見すえて微笑んでいる。
目を細めたその奥は、少しも笑っていない。射殺すような冷たい笑みに、背筋が凍る。
同時に、オリーブの奥にある存在に気づいた。
オリーブの腰まで高さがある豪華な台座に、禍々しい気を発する黒い球体。
本物である。冒険者の勘がそう告げた。
「流石に目に付いたか? これが、献上されたオーブだ。紛れもなく本物だと、我が国の魔術師も言っておる」
皇帝が子供に諭すような声色で言う。膨大な知識と確かな魔法の腕を持つ魔術師が確定している。つまり、偽物を献上ということは無い。
では、『勇者パーティー』である自分達抜きで魔王級を倒したというのか。ありえない。
オリーブがいることも、魔王級が倒されたことも、何もかもが頭の中でごちゃ混ぜになる。
混乱するファナン達に、皇帝が語り続ける。
「オリーブ殿が、このオーブの献上者だ」
「えっ!?」
「詳しくは話したくないらしいが、わかるのは魔王級が討伐されたという事実。その褒美を取らせようとしたところ、二つほど願いを叶えて欲しいと言うのだ。一つは多少の金と楽器類。これはまぁいい。それと、もう一つ」
「それとララ達が何の関係があるの? あ、わかったの! ララ達四人を娶りたいって」
「貴様らの断罪だ」
ピシャリと、空気が凍る音が聞こえた気がした。
断罪。言葉の意味を理解すると共に憤りが湧いてく。
再会の復讐者は容赦しない




