146.勇者、次の戦いに挑む
対校戦3日目・宝探しが終了した。
俺たちは城から闘技場へと転移する。
「あにうえー!」
バサッと翼を広げて、義弟ミカエルが俺に抱きついてくる。
「ぼくの知らないうちに結婚したってほんとうですっ?」
「おう。嫁のダンタリオンだ」
俺が言うと、隣に立っていた彼女が、もじもじしながら言う。
「ゆ、ユリウス様……その……は、恥ずかしゅうございます……」
「え、なんで? おまえは俺の嫁だろ?」
「そ、そそう……ですが……その……人前で言われると……」
うーん、よくわからん。
「おまえは反対か、ミカ?」
「ぜんぜんっ! だいさんせーです! ぼく家族がおーいほーがいーです!」
ニコッと笑って、義弟がダンタリオンに抱きつく。
「わっ」
「あにうえの嫁……ってことは、あねうえ? あねうえー!」
むぎゅーっとミカエルがダンタリオンに抱きつく。
「わたくしのこと、義姉と認めくださるのですか?」
「はいです! ぼくも義弟です。わーい仲間仲間~」
うう……とダンタリオンがポロポロと涙をこぼす。
「おまえよく泣くなぁ」
「すみません……ちょっと、一生分の幸せが矢継ぎ早にくるもので、キャパシティをオーバーして……」
「あねうえ泣いてるですっ。ど、どうしたです? おなか痛いです? さすさすすると良いってあにうえ言ってたです!」
よしよし、と義弟がダンタリオンのお腹をなでる。
「大丈夫です、ミカエル様。わたくしはどこも傷付いておりませんゆえ」
「よかったです。でも様とかよけーです? ミカエルでいーです! あにうえのこともがいあすのことも、様なんていらんとです!」
ダンタリオンは目を丸くして、ふるふると首を振る。
「そ、そんな……! 恐れ多い!」
「難しい言葉わからんとです。でもだんたりおんは家族です? 家族に様とかおかしーです」
「で、ですが……」
戸惑うダンタリオンの肩に、ガイアスが手を置く。
「ミカの言うとおりだよ。いいんだよ、兄さんのことなんてユリウスでも朴念仁でも鈍感クソ野郎とでも、好きに呼べば」
「おいおいひでー呼び方だな」
フンッ……! とガイアスがそっぽ向く。
「全部ほんとのことじゃんか。兄さんのばかっ」
「つーわけだダンタリオン。様はやめてくれ」
「……はい。では、ユリウス……さん。ガイアスさん。それに、みなさん」
彼女は微笑んで、俺たちに頭を下げる。
「ふつつかな女ですが、どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げるダンタリオンに、俺たちは笑ってうなずく。
と、そのときだった。
「姐さん、良かったじゃあねえか」
仮面をつけた生徒たちが、ぞろぞろと俺たちの元へやってくる。
「ザガン! それにみんなも……」
ダンタリオンのチームメイト達だ。
「ごめんなさい、わたくし、試合中役立たずで……」
彼女はヒストリアに倒されて以降、結界の中で動けないでいた。
当然だ、彼女は悪魔の力を失ったのだから。
「なーに気にしなさんな。それより姐さんが笑ってくれてるほうが、オレ様はうれしーぜ」
ザガン以外のメンバーも、何度もうなずく。
その背後に……王女ヒストリアがいた。
「ヒストリアちゃん、ほらほら、言いたいことあるんしょ?」
ザガンに背中を押されて、ヒストリアが前に出てくる。
彼女は悪魔の呪いにとらわれていたが、うちのガイアスが解放したと聞いた。
異形の体だったのだが、今ではすっかり綺麗な姿に戻っていた。
「あの……その、ごめん、なさい」
ぺこり、とヒストリアがダンタリオンに頭を下げる。
「……あんたに、酷いことたくさんいって。しかも、止めようとしてくれたのに、命までも奪って……ほんとうに、ごめんなさい」
ダンタリオンは目を丸くするも、優しく微笑んで、ヒストリアを抱きしめる。
「もう気にしなくて良いのです。わたくしはこうして五体満足ですから」
「でも……」
「謝るのでしたら、わたくしにではなく、ユリウスさんたちにも、でしょう?」
ダンタリオンはヒストリアと肩を並べて、深々と頭を下げた。
「今までうちのヒストリアが、皆さまにご迷惑をおかけしました。申し訳、ございませんでした」
「……ごめん」
対校戦中のことも、そしてそれ以前のことに対しても、彼女は謝っているのだろう。
「もういいよ。ボクも悪かった。君を放置して、兄さんにばかりかまけて」
「ガイアスが良いなら俺も良いよ」
みんなも同意見のようだった。
ほっ、ダンタリオンがと安堵の吐息をつく。
「……あんたたちもごめんね。悪魔とか、酷いこと言って」
ヒストリアが東部連邦のメンバー達に謝る。
「なーに、良いってこっとよ。美少女の罵倒なんてむしろオレ様にはご褒美だぜ。なんつってな、でひゃひゃひゃひゃ!」
ザガンが陽気に笑うと、アモンやバァルもケラケラと笑った。
とてもこいつらが、悪魔とは思えないほどに、陽なる存在だと俺は思った。
と、そのときだった。
『はいはい、青春しているところを大変申し訳ございませんがぁ~』
「あ、旧兄上が水差してきやがったです。お邪魔虫は退散しろやです」
理事長のアナウンスが闘技場内に響く。
『3日目第一種目、宝探しの結果を発表したいと思いまぁす』
「ほんと旧は空気読めないやつです」
「ミカやんほんま理事長のこと嫌いなんやなー」
闘技場上空に、半透明のボードが出現する。
『各校手に入れた宝の価値や量から、ポイントを計算し、総合順位はこうなりましたぁ』
1位王立
2位帝国・神聖皇国
4位東部連邦
「「「「さすがです、アンチ様!」」」」
「いや、みなのおかげで掴んだ2位だ。みなで祝おうじゃないか」
ワッ……! とアンチたち帝国チームが歓声を上げる。
『最初にアンチくんが大量の宝剣を手に入れたことと、タイムアップまで地道にコツコツと宝を回収していったのが功を奏しましたねぇ』
なんだかんだめちゃくちゃ頑張ってるなぁアンチたちは。
『一方で東部連邦は途中多少のアクシデントがあって、しかも2名脱落でポイントが低い結果になりました。ですが今後全然挽回できますので、がんばってくださぁい』
「あー……理事長。ちょっといいかい?」
『なんです、ザガンくん?』
ザガンは挙手し、宣言する。
「オレ様たち東部連邦は……対校戦を辞退させてもらうよ」
「なっ!? 何を言ってるのですか、ザガン!」
ダンタリオンが焦ったように、ザガンの肩を掴んで言う。
『辞退、というのは文字通り聖杯を巡るこの対校戦から降りるということですかぁ?』
「ああ。今のオレ様達じゃあ、残りの試合、この化け物集団相手に勝つことは不可能だからよ」
ダンタリオンは首を振る。
「わ、わたくしはまだ戦えます! ここで辞退なんてしたら校長にどんな仕打ちをされるか……!」
「姐さん」
ザガンはダンタリオンの頭をぽんぽんと叩いて言う。
「そんな非力な体じゃ、この先の戦いケガですまないぜ」
「しかし……わたくしのために、辞退するなんて」
「バッカ。嫁入り前の体なんだろ? 傷つける訳にゃ、いかねえよなぁみんな?」
他の東部連邦のメンバー達も、納得したようにうなずく。
「校長のことは気にすんな。オレ様がうまーく言っとく。それに校長の真意は別に聖杯の奪取じゃあねえ。最悪大悪魔ユリウス様が聖杯をゲットすれば、ま、納得するだろうよ」
ザガンたちにもまた事情があった様子だ。
「姐さんはなーんも気にせず、ユリウスたちと幸せになりゃいい」
「でも……わたくしだけ、幸せになるなんて……」
「いいんだよ。悪魔でも幸せになれるってよ、姐さんがオレ様達に希望を示してくれた。それだけで十分さ」
ザガンは仮面を外し、ニカッと笑って言う。
「ありがとよ姐さん、それに、ユリウス。お幸せにな」
「サンキュー、ザガン」
「ええ……ありがとう」
照れくさそうに笑うと、ザガンは仮面をかぶり治す。
「つーわけだ理事長さん。うちらは辞退するわ」
『了承しましたぁ。それでは、残りの競技は、王立、帝国、神聖皇国の3校で、聖杯を争ってもらいまぁす』
こうして、波乱の幕開けを告げた対抗戦最終日は、次のフェーズへと移行するのだった。
これにて11章終了、次回12章へ続きます。
【※お知らせ】
先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!
「無駄だと追放された【宮廷獣医】、獣の国に好待遇で招かれる~森で助けた神獣とケモ耳美少女達にめちゃくちゃ溺愛されながらスローライフを楽しんでる「動物が言うこと聞かなくなったから帰って来い?今更もう遅い」」
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