144.アンチ、仲間と奮闘する
転生勇者ユリウスが、新たなる仲間を加えた一方その頃。
天空城のとある一角にて。
帝国学園の主将アンチは、宝のある部屋までやってきた。
「よし、いくかね」
アンチが扉を開き、ハンドサインを送る。
部屋に入ると、扉がガシャンッ! と鉄格子が降りて封鎖された。
「逃がさない、ということかね」
銀髪をゆらしながら、アンチは優雅に部屋の中へと進んでいく。
その姿には決しておびえはない。
胸を張って、どうどうと部屋の奥へと進んでいく。
『くくく……よく来たな、愚かな盗人よ』
そこにいたのは、黄金に輝くスフィンクスだった。
見上げるような巨体を前にして、アンチは余裕を崩さない。
「君が宝の守護者かね?」
『然り。盗人よ、宝を欲するならば、我が問いに答えるがよい』
「いいだろう。言ってみたまえ」
その余裕の態度に、スフィンクスは舌打ちをする。
この魔物は違う場所から、理事長によって運び込まれたもの。
『気に食わぬ。我を見てどうして怯えない?』
「御託はいいからさっさとしたまえよ」
『くっ……! 虫けらめ。調子乗るのも今のうちだ! 問題! 朝は4本、昼は』
「人間」
『2本の………………え?』
スフィンクスが目を丸くする。
「そのクイズの答えは人間であろう? 朝は4本、昼は2本、夜は3本の動物」
ふぅ、とアンチがため息をつく。
「その程度の問題しか考えつかないのかね?」
『こ、この……! ならば次の問題だ! 【切っても殺しても殺人にならないものはなんだ】!』
スフィンクスはニンマリと笑う。
アンチは暗い表情でうつむいている。
『どぉだぁ! わかるまい!』
「いや、わかるよ。答えは【息】だろう」
『なっ!? なぜわかったぁ!?』
はぁ、とアンチが深くため息をつく。
「息を切る、息を殺すなどの慣用句があるからね。というかなんだい、子供の言葉遊びじゃないか。伝説のスフィンクスもその程度かい?」
『こ、この……! まだだ! まだわれは負けていない……!』
「よかろう、何問でも答えてあげよう」
その後スフィンクスの出される質問に、すべて華麗に、アンチは答えきって見せた。
『ばかな……なんという知力……おまえ、天才か……!?』
アンチは小さく「……そんなわけないだろ」と弱音を吐く。
だが堂々と胸を張って言う。
「これで終わりかね? 時間の無駄さ。さっさと宝を渡すんだね」
『くっ! こ、このぉおおおおおお!』
ぐわっ、とスフィンクスは立ち上がる。
『調子に乗るなよ下等生物が! やめだやめだ! 貴様はここでわれが殺す!』
ふぅ、とアンチが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「自分が勝てないからと駄々をこねるとはね。智の魔獣が聞いて呆れるよ」
『ほざけ! 死ねぇえええええええ!』
スフィンクスがその太い前足を振り上げた……そのときだった。
カッ……! と地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
『なっ!? なんだこれはぁ!?』
魔法陣からは無数の光の鞭が出現し、スフィンクスの巨体を縛り上げる。
『こ、こんな大規模な儀式魔法!? いったい貴様、いつの間に!』
「訂正したまえ。これはボクが作り上げたのではない、部下の働きによる者。そうだろ諸君?」
バッ……と突如として4人の、同じ顔の少女達が出現する。
魔法陣の四方に立っている。
『ば、バカな!? こんなガキどもどこいたのだ!?』
「最初からいたよ。ただし透明になる魔法の外套をかぶってもらっていた。君が調子乗って何問も質問している間に、儀式を整えてもらっていたのだよ」
アンチはスフィンクスの横を悠々と歩き、奥に置いてあった宝箱の前までやってくる。
『ば、バカな! なぜそんなことをする必要がある!』
「宝箱の守護者は魔獣、しかもこの城にはレベルの高い魔獣がいる。となれば自然と配備されている魔獣の種類も限られるだろう。それへの対策を用意しておくのは常識だろう?」
『そんな……』
スタスタとアンチは宝を回収し、魔法陣の外へ出る。
『くっ! このっ! なんだこの強固な捕縛術式は!?』
「儀式魔法に最も必要なのは、術者同士の意思疎通。彼女たちは4つ子、幼き頃から心身をともにしているのだ。意思疎通は完璧、つまり儀式魔法に最も向いている人材なのだよ」
『そんな……こんな、ザコに、このわれが身動きすらできないなんて!』
ふんっ、とアンチは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「人間を弱者と侮ったのが君の敗因さ。力の弱い者が弱いなんて誰が決めたのだね。弱者は弱者なりの戦い方をするのだよ」
『く、そぉおおおお! 舐めやがってぇええええええ! こんなもん! ふんぬぅうううううううううう!』
スフィンクスは捕縛を無理矢理ぶち破る。
体にダメージを負ってはいても、敵は魔獣。
『このわれに屈辱を与えたこと! 万死に値するぅうううう! 死ねぇえええええええええええええ!』
スフィンクスはアンチに、爪で斬りかかろうとする。
だが……。
スカッ……!
『なっ!? こ、これは……幻術!?』
周りを見渡せば、儀式を行っていた四人の少女達も、いつの間にか消えていた。
部屋の出口に、アンチだけが残っている。
「捕縛が解かれることも織り込み済み、そして煽られた僕を襲うことも容易に想像がついた。幻術で偽の映像をうつし、その間に待避させてもらったよ」
スフィンクスは、気づく。
自分の体から、異臭が感じ取れた。
『な、なんだ!? 何の匂いだこれは!?』
「液体燃料だよ。無知なる獣くん」
シュッ、とアンチはマッチをこする。
スフィンクスからアンチの足下まで、一直線に液体燃料で線がひかれていた。
『い、いつの間に!?』
「だれが儀式魔法が一種類だと勘違いした? 君がバカみたいに暴れ回っている間、横を通り過ぎるとき、足下に燃料の入っていた小瓶を置いたことに気づかなかったようだね」
『こ、このぉ! ひ、卑怯だぞぉおお!』
にぃ、とアンチが笑う。
「バカ言うなよ君。僕は弱者として、弱者らしく、正々堂々と戦っているのだよ」
ぱっ、とアンチがマッチを離す。
ボッ……! と一瞬で炎がスフィンクスの体を火あぶりにする。
『うぎゃぁああああああああああ!』
「今だ諸君! 風魔法を!」
「「「「はい! アンチ様!」」」」
部屋の四隅に移動していたアンチの部下達が、いっせいに風魔法を発動。
それは決して威力の高いものではなかった。
だが風は炎を巻き上げて、さらに激しく燃え上がる。
『このわれが負けるなんてぇえええええええええええええええええええ! あぁああああああああああああああ!』
「君の弱点が炎であることも、もちろん僕の頭には入っていたよ」
やがて、スフィンクスは絶命。
閉じていた鉄格子が上がって、外へ脱出が可能になった。
「「「「やりましたね、アンチ様!」」」」
わっ……! と彼の嫁達が、いっせいにアンチのもとへ集う。
「ありがとう、諸君らの奮闘のおかげで勝てたよ」
アンチの言葉に、嫁達が涙ぐむ。
一番怖かったのは、前線で囮になっていたアンチだろう。
彼がいなければ、嫁達は儀式を完遂できなかった。
アンチは敵を前にいっさい怯えることはなかった。
この勝利は彼のもとだといっても過言ではない。
それでも、アンチは嫁達の手柄だとほめてくれた。
それが、彼女たちにとっては何よりもうれしかった。
それが、彼女たちがアンチを慕う理由であった。
「さぁ、時間はない。すぐに次の宝を回収しこう、諸君」
「「「「はい! アンチ様!」」」」
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先日の短編が好評だったので、新連載としてスタートしました!
「無駄だと追放された【宮廷獣医】、獣の国に好待遇で招かれる~森で助けた神獣とケモ耳美少女達にめちゃくちゃ溺愛されながらスローライフを楽しんでる「動物が言うこと聞かなくなったから帰って来い?今更もう遅い」」
https://ncode.syosetu.com/n1158go/
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